11月22日〜24日まで東京・恵比須で行われたBrain Opera in Tokyo、名前を聞いただけでは何のことだか分からないイヴェントだが、NTTデータの全面バックアップで無料で数公演開催されるという恵まれぶり。電脳方面への宣伝は最強に力が入り、ウェブでの告知も万全。で、一体どういう公演だったのか?
この公演、主役となる人は作曲家トッド・マコーヴァー。P・K・ディックの晩年の作品「ヴァリス」を音楽化して、そいつのCDもリリースされている。って、まあそれくらいしか知らないんだけど(苦笑)。で、駅から「動く歩道」でたどり着いた恵比須ガーデンプレイス、受付済ませて入場すると、まずは演奏会場ではなく電脳楽器展示場にご案内。ここで実際にマコーヴァー発明の楽器に触れるんだが、実はここで来場者が作った音が、その後のBrain Operaに素材として用いられる(こともある)って趣向。音素材はネット上でも事前に募集されていて、その辺がインタラクティヴの由縁。たとえばスクリーンの前で手を動かす。するとセンサーが手の動きを関知して、上下の運動で音高、左右の運動で音色が変化していく。あるいはレーシング・ゲームの筐体。ここでハンドルを握って画面上の車を操作する。その操作によって音楽のテイストが変わる。分岐点で赤い道を選べばホットに、青い道を選べばクールに、といった具合。ちょっと笑えるのが顔を小さなボックスに突っ込んで、ヘッドホン装着して目の前の画面に出てくるオジサンの質問に答えるってコーナー。いやまあ、オジサンなんて言ってちゃダメで、この人、人工知能の父マーヴィン・ミンスキーだったりするんすけど(笑)。「あなたはどれくらいの頻度で音楽を聴きますか?」とかフツーの質問をぶつけてくる。ここで何か答えると、Brain Operaの音素材として採取される。他にもいくつかの楽器があって、これは音の遊園地風で楽しげ。係のおねえさんが「時間ですよ〜」と案内してくれて、ホールへ。
ここからは、通常の演奏会と同じスタイル。ただしOperaと言っても、歌手がいるわけでもなければ物語があるわけでもない。舞台上には、椅子兼電脳楽器に座った作曲者マコーヴァー、そしてその弟子だか何だかわからない電脳楽器奏者2名。当然各楽器は裏のコンピュータに繋がれていて、ネットとも接続(←のはずなんだけどこのあたりの説明全然なし)。中央には大きなスクリーンありで、音楽とシンクロして抽象的な映像を延々と流す。マコーヴァーら3人は即興で演奏なんだけど、ベースとなる音楽は録音が流れていてそれに合わせるスタイル。実は即興と言いつつも、そんなにムチャクチャやるわけじゃなくて、かなり手順化されてるみたいなんだが。で、肝心の音楽は、まあライヴ・エロクトロニクス、およびミュージック・コンクレートってな感じで、クラシック系の聴衆からするとかなり伝統的(つうのかね)な作り。バッハの「音楽の捧げもの」を元にしながら、そこに電脳楽器重ねて一種の変奏を聴かせたりとか。ババァ〜ンと盛り上がるところでスクリーンに青空背景の天使が出てきたりするところが笑えるかも。途中でミンスキー教授の質問に答えた人の声が「うーん、毎日かなあ」とか反復されて挿入されるあたり、昔テープでやってたことをデジタルでやってる感じ。もっともこういうインタラクティヴな仕掛けは音楽の中からはほとんど聞こえてこない。ネットとの関連も不明瞭だし、音と映像をあらかじめ用意してあるから舞台上の即興にも必然的に制限があって、むしろ音楽の形は最初から完成されたものを聴いたって印象が強し。ここで、ちょっと看板に偽りありじゃねーか、とか思ってしまうとダメ。そういうウソっぽさも含めて、仕掛け豊富な舞台を楽しんでしまおうってのが正しい聴き方と見た。「未来の音楽パフォーマンス」じゃなくて「未来っぽい音楽パフォーマンス、みたいなぁ〜」ってスタンスで。
曲が終わってからの聴衆の反応がすごい。明らかに戸惑いの拍手がちょっぴり続いて、マコーヴァーが袖に引っ込むやいなや拍手は止まる(笑)。引っ込んだら最後、もう舞台には戻ってこれないという、フツーの演奏会ではなかなか見られない光景。つうか、もともと客層はコンピュータ雑誌やインターネット雑誌を読んでるような人たちがほとんどで、そもそも音楽を聴くつもりで来てる人はあまりいなかっただろうし、文脈なしでゲンダイオンガク聴かされても困るよなあ。Brain Operaがワールドツアーまで出来たのは、これがInternet Expoの一環だったからってこともあるんだろうけど、やっぱりもうちょっと音楽畑の人に聴いてもらわなきゃ賞賛の拍手も冷淡な酷評ももらえなかったんではないでしょーか。