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CLASSICA DISC WOW!


[CD]エストニアの結晶職人野郎、トゥールのアーキテクトニスク

 ひそかに一部で人気高まり中の今時げな作曲家つうと、この人あたりか。トゥール。やっぱり「周辺」「辺境」って条件が満たされると強いかも。地理的に周辺→エストニア生まれ、音楽的出自において周辺→プログレあがりの作曲家、発売レーベル的に周辺(笑)→フィンランディア・レーベル。アルバム・タイトルが「アーキテクトニクス」なんて付いてることで分かると思うんだけど、ペルトとかヴァスクスみたいな抒情ひたり系とは全然違うので(少なくともこの一枚は)、念のため。場のルールはアリアリ。クイタンあり、後付けあり、ミニマルもどきあり、トーン・クラスターもどきあり、新古典主義もどき(もどきのもどきってことはメタもどきだな)あり、モーツァルトもどきあり、旋法あり、機能和声あり、なんでもあり。アンサンブルはピアノ、フルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、シンセ、エレキギター等々からいくつか。なんでもありの素材を職人芸でつなぎあわせて、耳に優しくかつ手垢のついていない乾いた響きをご提供。

 多様式を気持ちよくブレンドって堕落か? いや、道楽。TV眺めてると、ほんの15秒のCMでも「見飽きたヤツ」だと先にすっとばしたくならない? 野球中継の投手交代がガマンできない。コンビニの冷蔵庫の15%には次から次へとカルト・ドリンクを入れ替えて仕入れるスペースが欲しい。寄席で真打の落語見るよりボキャブラ天国のMANZAI-C〜つぶやきシロー〜爆笑問題のシークエンスを楽しみたい。シークエンスの構成要素はシンプルに、しかし各要素のキャラクターは多彩に。異なる種類の刺激に麻痺すれなささやかな喜び。特にオススメは最初の曲のアーキテクトニクス3と、ラストの4。でも3の標題の「ポストメタミニマル・ドリーム」って、ちょっとタイトルの付け方的にハズい(笑)。(97/01/18)

Erkki-Sven Tuur(ホントはuにウムラウト付き):Architectonics / The Nyyd-Ensemble / FINLANDIA 0630-14908-2 (国内盤はワーナーミュージック,WPCS5656)


[CD]元「フィンランドのモーツァルト」。ピアニスト・ムストネンvs作曲家ムストネン

 12歳にして自作のピアノ協奏曲をフィンランド放送響と共演して「フィンランドのモーツァルト」と呼ばれたオッリ・ムストネン、今や大デッカ・レーベルから次々CDリリースの新鋭ピアニストとして活躍中。で、ショップでベートーヴェンの「変奏曲、舞曲、バガテル集」を見つけ、これは聴くしか、と思っていたら、隣にフィンランディア・レーベルから A Portrait of Olli Mustonenなんつう作曲家ムストネンによる一枚を発見。両方ゲットする。

 ベートーヴェンは前に出てる変奏曲集の続編って趣で盛沢山なんだけど、やっぱり名作「6つのバガテル」作品126に耳が直行。最初の主題聴いただけで「ンゲゲッ」と思わせる尖がった表現。超易しいシンプルな曲からここまで引き出して聴かせますか。えっと思うようなところでスタッカート強調で独墺正統派はるか彼方へ。曲中のハイライト、3曲目の抒情はちゃんとイキ。この曲、右手の長〜いトリルの間、左手の音形の弱拍んとこが冒頭主題になってるんだけど、それを強調してかシンコペーション気味になってしまう反伝統的思い切り良さ。グールドだってそこまでやらんかったつうの。ミニチュアを細部までとことんいじり倒す快感。

 A Portrait of Olli Mustonenのほうは、当然ピアノは自作自演で、メインは「ピアノとオーケストラのための幻想曲」で20分超、あとは小品集。もっとも幻想曲のほうも単一楽章ながらも楽想ごとに明瞭に細分化されててミニチュア集合体って見方もあり。で、この曲出だしで「ん、セリーっぽい。ちょっとベルクしてるかもしれんがこのまま20分続いたら辛いかも」と思わせるも、あっさり調的な響きに傾き、終盤ではベタベタの調性音楽になるというスタイル奔放系。なんだが、曲全体としてスタティックな統一感それなりにあり。スタイルによる位置付けから捉えようってのがヤボかも。小品群はやや聴いてるほうが気恥ずかしめの表現も割とありって気もするけど、冒険的って言い方もあるか。で、小品の中には「6つのバガテル」なんてのもあって、先の一枚に入ってるベートーヴェン作品を想起すれってことでせうか。(96/10/31)

i) Beethoven:Variations, Dances, Bagatelles / Olli Mustonen(p) / London(Decca) 452 206-2(国内盤はポリグラムから予定) - ii) A Portrait of Olli Mustonen :Fantasy for Piano and Orchestra, etc. / Olli Mustonen(p), Kangas & The Ostrobothnian Chamber Orchestra,etc. / FINLANDIA 4509-95860-2 (国内盤はもし出るならワーナー)


[LD]名指揮者達のリハーサル〜こうして音楽は創られる→納得系

 名指揮者のリハーサルがおもしろくないはずがない。たとえ、それが映像で撮られていることを意識した上でのものであったとしても。ここに出てくるのはカルロス・クライバーを筆頭に、ショルティ、ノイマン、フリッチャイ、シェルヘンの5人。元々がシュトゥットガルトの放送局でTV番組用に収録したものであるので、いずれもオーケストラは南ドイツ放送響(つまり現在のシュトゥットガルト放送響ってこと)。それぞれの指揮者が10分〜20分程度の曲を2曲とりあげ、リハーサル映像、そして本番(といってもスタジオでの公開演奏みたいな感じ)という構成。とにかくリハーサルの部分に30分とか40分とか、まとまった時間が割かれていて、じっくりと見せてくれるのが大吉。収録年がちょっと古いのでモノクロ。

 で、そのリハーサル、もう指揮者によって全然違う、やっぱり。その人の音楽観がストレートに出てくるわけで、たとえばショルティの「タンホイザー」序曲。緊張感最強に強まって、リズムの不正確さや楽器間のバランスなど超効率良く修正する。徹底的に直す部分もあるんだけど、もうオーケストラを止めないところでもどんどん声で奏者に指示を飛ばしていき、気が抜けないかつ充実感横溢の凝縮タイプ。「こんな人にいつも振ってもらったら絶対うまくなるだろな」ってのがある一方で、奏者の自発性にまかせた音楽の喜びは少なめかも。

 その対極にあるのがクライバー。たとえ整理されていても安全運転の無難な演奏になることを「最悪」とする彼、お得意の「こうもり」序曲と「魔弾の射手」序曲を取り上げ、音楽が本来持つ様々な楽しさを伝えるために、独特のしなやかな棒と巧みな形容句連発で奏者のファンタジーを喚起。ピンと来ない人には何を要求されてるのかもわかんなくて辛いものがあるだろうけど、共感できればもう最強の天才、って感じに映るんでせう。まだ若い頃のクライバー(←別にカリスマではない)、百戦錬磨(と思われる)のベテラン奏者相手に全然臆せず。これは衛星放送でも放映されたのですでに見た人も多いか。

 どれを見ても、指揮者ってのはオーケストラのメンバーに何かと気を使わなきゃならんのだなってことを感じさせるんだけど(みんな練習が嫌いなんだから疲れたら休憩入れるとか、話が長くなるのもヤだから必要ならそういう断り入れてからやるとか)一人だけ例外が(笑)。一部に人気絶大のヘルマン・シェルヘン。曲が「ウェリントンの勝利」つうのからしてタダ者じゃないんだが、曲の初演にまつわる歴史的な経緯を延々としゃべるわ、棒を構えて振るかと思えばまた講釈を始めるわ、この曲をもってしてベートーヴェンの天才性を説くわ、やりたい放題げ。あーあ、こりゃ大変な指揮者だよ、ってのが何人かの団員の顔に出てなくもない。

 どの巻もおもしろくて(わかんないことがあっても金子建志さんの詳細解説があるのでだいじょーぶ)、オススメ度高いんだが、唯一辛めなのはお値段20600円ってことか。LD4枚組だからしょーがないんだけどさ。(96/11/29)

「名指揮者達のリハーサル−こうして音楽は創られる−」 東芝EMI TOLW3751/54 (LD)


[CD]劇的まれ。モーツァルト

 うげ。「最近CDショップ行けなくて」って書き出しにしようと思ったら前回更新時に同じパターン使ってるではないか。これは酷い。次回はガッポリお買い物だな。で、それでも更新する今回はホグウッドのモーツァルト。交響曲から協奏曲、声楽曲までさんざんCD出してて「今さら」って気もするかもしれないんだけど、曲が特別いいざんす。「イドメネオ」のバレエ音楽、プラス、「ポストホルン」セレナード。共通項は同時期に書かれたってこともあるんだけど、何よりモーツァルト屈指のシンフォニックかつドラマティックな音楽ってことでせうか。「ポストホルン」は楽章抜き出して交響曲仕立ての演奏ってのもあるくらい、一方「イドメネオ」なんて元のオペラ・セリア意識せず聴けばほとんど交響曲(ってのは乱暴か)。特に「イドメネオ」のバレエ音楽って、交響曲の中にもこれほどの劇的高揚感はないってくらいで、これを聴かないのは「ドン・ジョヴァンニ」聴かないのと同種の損失と言い切ってしまいたくなる系の逸品。

 「イドメネオ」バレエ音楽は後ろでチェンバロぢゃらぢゃらするのもムーティ/ウィーン・フィルで最初にこの曲知った耳には新鮮げで、結構豪放磊落めな演奏もドラマ盛り上がりで吉。「ポストホルン」、メヌエットのトリオで出てくる駅馬車ポストホルン、かっちょよさげ。楽隊、力んで楽しまれ。(96/10/06)

Mozart:'Posthorn' Serenade, Ballet Music from Idomeneo / Hogwood & The Academy of Ancient Music / L'OISEAU-LYRE 452-604-2 (国内盤はポリグラムから予定)


[CD]20世紀末最強ヴァイオリン協奏曲

 ここのところバタバタしてて(←便利すぎる表現)CDショップ行く時間なくて新譜関係ゲットが急務。で、ちょっとショップに出まわってから時間たっちゃってるんだけど、ジョン・アダムズのヴァイオリン協奏曲なぞを。クレーメルのヴァイオリン、ケント・ナガノの指揮っつう当曲ヨーロッパ初演コンビでの演奏。作曲者指揮の「シェーカー・ループス」のオマケ付き。

 作曲年が1993年ってことで文句なしの現代の作品。進化するミニマリスト、ジョン・アダムズが作ったコンチェルトとは、つうとこれが構成は3楽章の伝統的協奏曲。ラプソディ風の第1楽章、第2楽章は遅いテンポのシャコンヌ、終楽章は速いトッカータ。楽章間切れ目なし、ついでにソリストも30分以上ほとんど休みなしに弾きまくる。んで、曲の冒頭から「ありゃバルトークっすか?」てなシリアス調でガツッとお気楽気分の聴き手をつかむストレートな音楽。中間楽章は抒情湛える祈り系(この曲のハイライトっすな)、最後には従来の作曲者のイメージに近い(たぶん)ノリノリ系カタルシスが用意されてて、「話がうますぎるぜ」。が、一抹のウソっぽさを追いやるだけの強まりぶり確実にアリ。さよなら20世紀、伝えれっ20世紀遺産。

 「これぞ私のポスト・ミニマリズム」と語るジョン・アダムズ。ミニマルのお約束「チャカチャカチャカチャカ……」を踏襲する併録の「シェーカー・ループス」と対比するとその辺り分かりやすげで大吉。(96/09/07)

John Adams:Violin Concerto, Shaker Loops / Gidon Kremer(vn), Kent Nagano & London Symphony Orchestra, etc. / NONESUCH 7559-79360-2 (国内盤はワーナーミュージックから)


[CD]愛に包まれ、最弱に弱まれ!

 タイトルがMystic、で副題がThe Musical Visions of Olivier Messiaenってアルバム。ん?要するにメシアンの作品の細切れかつ寄せ集めか、って言ってしまうとそれまでなんだが、まあ待て。「アダージョ・カラヤン」以降、カタカナのタイトル付きコンピレーションってのは何十枚も出てんだけど(ホントに毎月これでもかというくらいリリースされてる)、結局何を選んでどう並べるかで大吉から大凶まで振れるのがこの種のCD。で、こちらはヴォカリーズで始まって、「トゥーランガリラ交響曲」の「星々の血の喜び」「愛の眠りの庭」とか「主の降誕」とか(オケものはチョン・ミュンフン/バスティーユ・オペラ座管)名曲シバリで、通して聴くと静かで穏やかな曲調メイン。アルヴォ・ペルト、グレツキ、「アダージョ・カラヤン」と続くライン振り返って「祈り」→「癒し」と弱まり中とすると、先にあるのは→「眠り」。子宮内回帰願望充足系の愛に包まれた静的な世界をご提供つう、先回りしたコンテクスト意識系の、一側面だけ切り取られたメシアン・ワールドなのだ。ああ、弱まるのって気持ちいいなあ。もう祈ったり癒したりするのもメンドくさいし〜(肯定的感動、念のため)。

 じゃ、これからはさらにさらに静的な音楽へ、つうことで来年あたりは日本中でモートン・フェルドマン大ブームが起こると確信(ウソ)。(96/08/05)

Mystic - The Musical Visions of Olivier Messiaen / Chung Myung-whun & Orchestre de l'Opera Bastille / Deutsche Grammophon 449 377-2 (国内盤は出るならポリドール)


[CD]パリパリなり。プラットのベートーヴェン

 容姿異端系ピアニストのデビュー2作目のCDはベートーヴェンのソナタ第9番、第7番、プラス第30番、第31番という選曲。初期と後期の親近性を読み取るも良さげ、むしろ肥大化した中期の外側にこそベートーヴェンありと受け取るも可。んで、楽しめパリパリのピアニズム。黒くて丸くて四角いそのボディが指し示す通り、ピアノっつうのは箱庭世界の表現機械、適度なスタッカートに抑制めのペダル、時々響きの洪水で感覚麻痺まり、クール極まりげな4曲。歯車剥き出しの機械のごときベートーヴェン的動機が、白と黒の2ビット・パー・ピクセルな世界へご案内。粒立ちげなタッチ、大吉。

 明快な2曲の後に、あちら側へ飛び立つ2曲を。30番のソナタの冒頭1分間は、世界一かっちょいい音楽であるとニコラス・ネグロポンテも言ってるではないか(ウソ)。31番には最終兵器フーガ。ダサさゼロ地点に立つピアニスト。(96/07/02)

Beethoven:Piano Sonatas / Awadagin Pratt(p) / EMI 7243 5 55290 2 2 (国内盤は東芝EMIから)


[CD]ビオンディ@30前後で3人の子持ち(って関係ないけど)のバッハ

 これはちょっと興奮め。はっきり言って、今年で最高に満足まってる!と何の芸も衒いもなく褒めてしまいたくなるCDがコレ。バッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ全6曲の2枚組。弾くのはイタリアの若手ヴァイオリニスト(これは古楽器。でもモダンもOK)で、エウローパ・ガランテの指揮者でもあるファビオ・ビオンディ。チェンバロも聴きものでリナルド・アレッサンドリーニ。

 で、まず曲。バッハのヴァイオリン曲ときたら、まず「無伴奏」だけど、ワタシの場合、この曲がラレード&グールドのコンビの録音が刷り込まれてることもあってか、最強に好きまってる。もう、ゴルトベルクやパルティータや平均律と同じくらい「いい曲」。そこにビオンディだ。イギリス系古楽奏者とは一味違った感情過多カタ気味表現で、泣け過ぎ。遅いテンポの歌わせ方とか、装飾音のセンスとか(ま、今までラレードばっか聴いてたから、へぇーここにこんな音を入れられるんだっつう感動もあるんだけど)の自由さと、なおかつバッハのワクを破壊しないバランス感覚が大吉。ま、ビオンディつうと数年前のヴィヴァルディ「四季」の鮮烈ぶりが先に来るんだが、曲的にはやっぱこっちでせう(もしこの曲まだ未聴だったら人より90分間分幸せ残してると思って喜べっ)。大オススメなり。

 ところでビオンディと顔合わせたことあるんだけど、素顔的には結構おとなしめの人。ラテンな香り全然漂わん落ち着いた若者っすよ。ガキの話になると照れちゃうヤツ。この秋に来日するんすが(エウローパ・ガランテと)、某雑誌でそれに先立ってイタリアでつかまえて、イタリアン・ライターと対談させる予定ありっすよ(マネージャーおよびレコード会社の売り込みとか全然関係なしで、ね)。 (96/05/07)

J.S.Bach:Sonaten fuer Violine und Cembalo / Fabio Biondi(vn), Rinaldo Alessandrini / Opus111 OPS30-127/8 (日本のディストリビューターは東京エムプラス)


[LD]COOLなマルサリス

 最近見た映像の中で、個人的にすごく気に入ってるのが「マルサリス・オン・ミュージックwith小澤征爾」1&2。NHKも絡んでるらしくて衛星放送でも放映されたようだが、要はTV向けの「音楽啓蒙番組」4回分をLD2枚に収めたもの。いろんな人種のアメリカの子供たちに向かって、ウィントン・マルサリスが「音楽って何だ」って話を演奏しながら(ジャズ・バンドはマルサリスが担当、でタングルウッドの学生オーケストラを小澤が指揮)解説すると言う構成。フツーはこの手のものは退屈なんだが、こいつは違う。まず、選曲。子供を相手にするんだから「より古典的なもの」へと傾斜しがちな発想と異なり、ソナタ形式を説明するにはプロコフィエフの「古典交響曲」、変奏曲にはアイヴズ〜W・シューマンの「アメリカ変奏曲」、練習の大切さを説くにはショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番カデンツァといったセンス(チェロはヨーヨー・マ)。20世紀寄り、かつ、子供をバカにしない系。リズムの説明は「くるみ割り人形」だけど、これも小澤指揮のチャイコフスキーのオリジナルと、デューク・エリントンのジャズ・バンド編曲版とを比較しながら。すげー。

 もひとつカッコいいのが映像のアートワーク。オープニングのマルサリスの曲がやたらいいんだが、その間のタイトルは3DCGアニメで(技術的には大したことないかもしれんがセンスがいい)。他にも演奏中にオーケストラの背景にいろんなイメージをはさんだり、とにかく楽しく見れるように凝っている。感動まれ。

 番組の冒頭に小澤の語りがちょっとだけ付いていて、話の内容はややずれ気味だけど、「当地じゃウィントンのことをクールなヤツって言うんだ」ってのには、納得。もちろん大人が見てもCOOL! (96/05/07)

「マルサリス・オン・ミュージックwith小澤征爾」1&2  ソニークラシカル


[CD]闇夜にカンチェリ

 レコード屋に行くと、いまでもクラシック系とポピュラー系ではジャケット・デザインで1−4くらいの点差(サッカーの感覚ね)で負け負けである。1点でも返してるのに貢献してるレーベルの一つはやっぱECMでしょう。今、話題系のグルジアの作曲家、ギヤ・カンチェリの「亡命(エクシール)」もさすが、ジャケ中のモノクロ写真なんか見ても、ただ録音風景とったとか景色とったとかじゃなくて、曲にあってるシミジミなテーストありあり。

 んで、音楽は。もう誰が聴いても「祈りの音楽」そのもの。冒頭から深々と包み込むような静謐さに囚われの身となる強まった魅力の一枚。ソプラノ、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのシンプルさ。「超現実的な自由の声」と題された長めの解説(国内盤は翻訳。親切系翻訳)を自慢の(ウソ)スーパー速読術で1分で読んだところ、故郷/世界/家の喪失感とか、喪失と安定への欲求が生み出す緊張が云々とかあるわけだが、アンド、その表現者としてマーラーの例の3重疎外感(オーストリアの中のボヘミア人、ドイツ人の中のオーストリア人、世界の中のユダヤ人)とかシューベルトだとか例示されたりするが、その音楽もことごとく安易に癒しと祈りの音楽を求めまる極楽ニッポン人のワタシたちにとっては、コンビニ感覚の喪失感をつまみ食いするための適度な快楽餌となり、ある夜に貪られるのでありましたとさ。いいのか。いい。

 そういや、以前Jリーグの日本人選抜対外人オールスターの試合があったとき、助っ人勢のチーム名はなんとかエグザイルズ(exile=エクシール=亡命、追放、流刑)という気の利いたネーミングだった。あの成熟した選手たちの持っていたであろう喪失感は、ストレートまって分かりやすいんだけど。(96/04/16)

ギヤ・カンチェリ/亡命(エクシール) ドイブナー(S),プシェニチコーヴァ(fl),etc. ECM/ポリドール POCC1034


[CD]ベートーヴェンの交響曲、ただし演奏者5名

 知り合いの大型CDショップ店員によると売れたらしい、コレ。ベートーヴェンの交響曲第8番と第5番「運命」をエーバースが弦楽五重奏用(四重奏プラス、ヴィオラ追加1)に編曲したってヤツ。演奏はプロ・アルテ・アンティクア・プラハでピッチ低まるオリジナル楽器系。ベートーヴェンの交響曲編曲って言うと例のリストがピアノ用に書いたのは割とポピュラーだけど、室内楽版とは珍しまってる、一度は聴かなきゃまずいかも、ってな心理でレジ直行なのか。

 ベートーヴェンと同時代の編曲ってことで、プレ・レコード時代(んな言葉作るか)ならではの需要があっての編曲モノなわけだが、CD普及による有史以来の最強音楽飽和時代になんでコレかと言うと、やっぱり変なモノも聴きたいってな気持ちがアリアリ(正しい頽廃の姿勢だな)。実は演奏自体は相当マジメで練習積んでます、ベートーヴェンの音楽の本質追究してますのスタンスで、ゲテモノの意識ゼロなんだけど(笑)。ドロー系グラフィック・ソフトとか3DのCGで、オブジェクトの表示をワイヤーフレームにすると何か妙に新鮮な感じがあるっての、あの感覚に近いんでは。「運命」終楽章とか、あちこちで聴ける編曲者の苦心の跡が楽しいっす、と。(96/03/20)

ベートーヴェン〜エーバース/交響曲第8番・第5番「運命」 プロ・アルテ・アンティクア・プラハ/ ポニーキャニオン(Bona Nova) PCCL00321


[CD]耽溺のコンサバ職人、サミュエル・バーバーの協奏曲

 バーバーって言うと、普通はまず「弦楽のためのアダージョ」。最強に美しまる名曲。作曲当時はきっと古すぎるって言われたと思うが、今じゃ「アダージョ」の持つ静謐性で時代の要求に応える今時な名曲だ。で、バーバーの他の曲も聴こうかと言うときに、満足させてくれるのがこれ。スラトキン指揮セントルイス響で、ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲、他。ヴァイオリン協奏曲は割と最近、パールマンと小澤の盤も出てるんだが、こちらも全然ひけをとらない竹澤恭子@ドロシー・ディレイ門下。チェロはイッサーリス。

 で、両曲とも急緩急の楽章構成など、ブキャナンもびっくりの保守ぶりなんだが、特に第2楽章(どっちも)がもうリリカルでたまらん系。優しい魅力的な音楽です。より同時代性を意識した(に違いない)チェロ協奏曲も十分いいけど、ヴァイオリン協奏曲のほうが「アダージョ」の虜になった向きには訴えかけ強いかも。1楽章頭からガツッと引き込む歌心ありで、耽美系2楽章、で終楽章はノリノリのプレストでヴァイオリニスト弾きっぱなしのパワフルかつテクニック要求のフィナーレ。拍手喝采するしか。(96/03/09)

Barber:Violin Concerto, Cello Concerto, Capricorn Concerto / L. Slatkin&Saint Louis Symphony Orchestra, Kyoko Takezawa, Steven Isserlis / RCA 09026-68283-2


各項の末尾にこの書体で書かれた部分はそのディスクに関するインフォメーションです。国内発売されているものについてはレコード会社名、モノによってはディスク番号と発売日を添えています。社名の後の括弧内はレーベル名。輸入盤を探すときはレーベル名で探してください。
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