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CLASSICA DISC WOW!


[CD]目が星。「ストラヴィンスキー・イン・アメリカ」

 マイケル・ティルソン・トーマスの運転する車にストラヴィンスキーが同乗、夜のドライブ中という楽しげなイラストがジャケットを飾る、「ストラヴィンスキー・イン・アメリカ」。激動する歴史とともにロシア→フランス→アメリカと渡り、作風においても変節を繰り返した作曲家のアメリカ時代総集編という選曲で、「録音するものがその曲の決定盤となりうるようなレパートリーを選びたい」と語るティルソン・トーマスならでは系で吉。「春の祭典」に集約される初期の作風とは打って変わって、新古典主義→12音技法もどき(?)の流れをここに。偉大なる音楽史リミックス野郎。

 曲はほぼ作曲順に並べられ、トップバッターは「星条旗」すなわちストラヴィンスキー編曲のアメリカ国歌。歪んだハーモニーのカッコよさ。サーカス・ポルカ、ロシア風スケルツォ、バレエの情景など前半は割とおなじみの曲が並んで、やはりこのチームの主砲は「アゴン」かと。音列技法で書かれたアブストラクト・バレエは作曲者75歳の誕生日の記念に開かれたロサンゼルスの音楽祭委嘱作品。えー、これセリーで書かれてんのー、ぜんぜん古典的アンド舞踊的じゃん(全然プラス肯定。基本)。洗練されたええかっこしいの音楽になっとります。ジャケットみたいに夜のドライブにもオススメです。そのロサンゼルスに生まれたおかげで作曲者とお知り合いになれたティルソン・トーマスと、ロンドン響の演奏も精緻。

 ちなみに「アゴン」ってのはいろんなスポーツだとか運動競技一般を指すみたいっす。カイヨワが「遊びと人間」で分類した、4つの「遊び」のカテゴリー、アゴン(競争=スポーツとかプロレスとか)/アレア(運=賭け事とかくじ引き)/ミミクリ(模擬=演劇とかRPGとか)/イリンクス(眩暈=ぶらんことかサーカスとかジェットコースターとかバンジージャンプとか)ってヤツの一つ(いや、カイヨワのほうが後なんすけど)。

 ドラマ性ほとんどなし、テキスト性希薄で、本物の古典およびロマンに疲れたらぜひ。クォリティ最強のリフレッシュメント。(97/09/30)

Stravinsky in America / Michael Tilson Thomas & London Symphony Orchestra / BMG CLASSICS 09026 68865 2 (国内盤はBMGジャパン)


[LD]欲望満たされすぎの羨ましいドイツ人たち→アバド/ベルリン・フィルの「ピクニック・コンサート」

  聴衆は2万人。夕方から夜にかけての野外コンサート。森の中の舞台ですりばち状の客席、「ピクニック・コンサート」というからにはメシも食いながらリラックスして聴いてればOKってことなんだろう(アバドだってリラックスした表情を見せる)。実際、映像で見たところお客さんはそれぞれのスタイルで楽しんでいる。芝生に座って、お弁当食べながらベルリン・フィルって最高の贅沢だよなあ。

 久々の更新で(しかもLDで)ナンだが、これは見ておもしろい映像っていうよりは、見てひたすら羨望に身悶えするっていうタイトル。客席の雰囲気は最強にいい。オペラの序曲やアリアを気軽に楽しめて、ステージ上にはアバドやゲオルギューやターフェルがいる。この日はあいにくの雨だったようだけど、仮に日本で言えば5月のような気持ちいい青空があったら、あるいは8月の強く焼き付けるような陽射しがあったら、どんなに気持ちがいいだろか。膝に乗せたビニール袋のチラシの束がガサゴソと音をたてただけで非難されてしまうというコンサート・スタイルからは遠く離れた寛容な世界。マーラーの9番を聴くなら儀式化されたスタイルも当然大切だろうけど、そういう音楽ばかりじゃないってことを思い知らせてくれる。やっぱ、基本は「メシ食いながら」でしょう(笑)。

 この日の聴衆のすごいところが一つ。当日、同時刻にヨーロッパ選手権の決勝、ドイツ対チェコの試合が行われていた(サッカーの)。その中継よりもベルリン・フィルを選んだってのがすごい(ワールドカップに次いで大切なタイトルで自国の代表が決勝戦に出てるのに)。でもその辺は誰もが承知してて、ブリン・ターフェルが舞台上で現在のスコアを団員やお客に対して指で教えてくれたりするのだ!(この意味が分からんドイツ人はいないと思う) さらに、お客のすごさをもう一つ。曲の演奏途中で一斉に「イェーーーーイ!」って客席が盛り上がるシーンがある。ドイツが決勝ゴールを決めた瞬間らしいんだが、「なんだ、みんなイヤホンでラジオ中継聞いてたんじゃねえか」っていう爆笑ものの光景(アバドは棒を振りながらニコニコしてたけど、イタリアにとっては予選敗退の悪夢の大会だったんだよね、たしか)。

 まさにこれ、スタジアムの雰囲気。東京で同種の喜びを味わうことは可能か? 晴れの日の国立競技場は、スタジアムが持つ過去の戦いの記憶を滲ませた、とても魅力的な場所だ。でも東京にはアバド&ベルリン・フィルがない。呼んでくるってのは絶対ダメ。チケット代が「ピクニック」のお値段じゃなくなってしまう。そして、何よりピクニックに来てくれる2万人のお客がいない。ドイツのゴールにイェーーーーイって叫びつつも、音楽のエンタテインメントに身を委ねる2万人が。ああ、モスのヤキニク・ライスバーガー食いながら(あっ、ポテトはLサイズで)&日光浴しながら(できれば芝生の上で)&アジア・カップに快勝するニッポン代表の中継を片耳で聞きながら(ヒデのスルーパスにカズが抜け出した!)、スーパー・オーケストラの「ウンリキ」序曲を聴きたいぜー(この世の快楽集合体っすね、これは)。(97/08/07)

ベルリン・フィルのピクニック・コンサート ワルトビューネ1996 イタリアン・ナイト / アバド指揮ベルリン・フィル、ゲオルギュー(S)、ターフェル(Br)、ラーリン(T) / ヴェルディ/「ナブッコ」〜序曲、「トロヴァトーレ」〜アンヴィル・コーラス、「オテロ」〜「イヤーゴの信条」「すでに夜も更けた」、「アイーダ」〜凱旋行進曲、「運命の力」序曲、ロッシーニ/「ウィリアム・テル」序曲他 / 東芝EMI TOLW3757


[CD]ラモー/序曲集。快楽アンド我慢系

 先日の日韓戦とか、あのサッカーのときにかかる音楽ってシャルパンティエの「テ・デウム」なんすね(実は知らなかったりする)。冒頭のトランペットのエール。ばくぜ〜んとドゥラランドかなーとか思ったんだけど、ちょっとずれとりました。

 さて、本題に入って、ルセのラモーの序曲集。ルセがまっすぐカメラ目線でニヤッとしてるジャケット見ましたか。ワタシにはルセが郷ひろみのモノマネやってるように見えます。「郷(グォー)です」って空耳が聞こえてそうな感じで、ユーイングが岸田今日子に似てるのと同じ程度に似てる(笑)。で、ずらりと並んだ序曲、「優雅なインドの国々」「ダルダニュス」「遍歴騎士」「ピグマリオン」「イポリトとアリシー」などなど、おなじみ(でもないな)のラインナップ。日頃ラモーをオペラよりも器楽でばかり聴いてる人(ワタシだ)にはおいしいところどりで快楽度高し。キビキビ系だけど力まなくて、全体に速め(つってもリファレンスないけど。ブリュッヘンやらレオンハルトに比べりゃって話)。

 でも快楽度高げな一方で欲求不満度も同時に強まり中。「優雅なインドの国々」とか「栄光の神殿」もろもろ、(序曲の)続きが聴きたいっ!てのが。大体の曲は、それぞれ全曲盤、抜粋盤、組曲盤の別を問わなければ別の演奏が出てると思うんだけど、やっぱり今聴いてるコレの続きが。そもそもなんで序曲なんだろか。中からさらに大吉な舞曲を引っ張り出してこないで序曲だけってのは(その辺解説にあるかもしんないけど英文読む元気なし)。そうか、これ聴けば「続き」も聴きたくなる→みんなレコード店とかCDnow行ってラモー買う→ラモー人口が増えて全曲とか組曲とかも出せるようになる、ってプロセスなのか。んじゃ、買うしか。ちなみに「優雅なインドの国々」は、ヘレヴェヘ(組曲、Harmonia Mundi France)、マルゴワール(全曲、Pierre Verany)、ブリュッヘン(組曲、Philips)と揃ってることだし(好きな順。でもどれ聴いてもシアワセになれます→笑)。(97/05/27)

Rameau: Ouvertures / Rousset & Les Talens Lyriques / L'OISEAU-LYRE 455 293-2 (国内盤はポリグラム)


[CD]渋い。でもカッコいいっす→バーバーのピアノ曲

 人類の歴史における最強の娯楽を生み出す機械がプレステとすれば、有史以来最強の美を生み出す機械はピアノ。身体と発音部の遠さはまさに機械、そしてその表現力は歴史とともに色あせるどころかさらに高まり中。では、20世紀アメリカの成果を見れ。サミュエル・バーバー再発見の旅へ。

 バーバーのピアノ曲集。あの「弦楽のためのアダージョ」という不滅の名曲を残した作曲家のピアノ作品を聴きたくないはずがない。ピアノはUK産レオン・マコーリー@73年生まれ。頭に入った小曲ノクターンの澄み切った響きで抒情に浸らせ、民謡ぽくってポリリズムなexcursions(遠足)、洒落たスーヴニール、など。シリアスな意味で最も聴きがいがあるのはホロヴィッツが初演したピアノ・ソナタ(超難曲、たぶん)。4楽章構成で1楽章アレグロ、2楽章アレグロ(スケルツォ風)、アダージョと来て、形式は古典的かと思いきや4楽章はフーガ。3楽章と4楽章をセットで、プレリュードと4声のフーガと見てしまおうか。激烈快速フーガ、イッちゃってます。カッコよすぎ。大傑作ばかりとは言えないかもしんないけど、ノクターンとピアノ・ソナタは聴くしか。俺様的音楽消費生活に欠けてるものをぴったりと満たしてくれる響き、なぜか。(97/04/18)

Barber: Music for Solo Piano / Leon McCawley(p) / VIRGIN CLASSICS 7243 5 45270 2 9


[CD]ハマりがち。バルトークのピアノ協奏曲

 バルトークのピアノ協奏曲って、第1番から第3番までどれも超名曲なんだけど、どれが好きかってのは結構試金石っぽいかも。軟弱者としては明快でオケコン同様ハッピーエンドげな第3番(奥さんへの誕生日プレゼントっすね)を一瞬あげたくなるんだが、やっぱり頭のてっぺんから爪先まで硬派バルトーク詰まりまくりの第2番に落ち着くか。第1番は基本的に第2番と同じタイプの曲だと思うんだけど、2番のアダージョってのがハマりっぽいバルトーク・スタイルの典型的「夜の音楽」で、結局これに参ってしまうってパターン。

 で、シフの「満を持して」ってのをゲット。ハンガリー人ピアニストにとっては同国最大の音楽家の作品だけに通らねばならない道、かつ、これまで録音せずに万全を期すまでとっておいたよ系。シフ自身がライナーで強調してるのがハンガリー語と密接に関係したルバート。正統性を持ち出されるとガイジンとしちゃ弱い。大体、わかんないしな、どの辺がハンガリー的なルバートなのか(笑)。わかるっていうのも相当ムリっぽいしさ。ムリっぽいで思いだしたんだけど、そもそもバルトークにまつわる話自体ムリっぽい話もあって、「バルトーク晩年の悲劇」(みすず書房)なんか読むと、いくら何でも人間の耳とか知覚にそこまでできるかよーみたいな話があったりする(森の中で、他の誰も聞き取れない何キロも先の動物の微弱な鳴き声が聞こえたとか、その手の。うろ覚え)。もっともそういう神格化のプロセスすら内心実は歓迎できちゃうのもバルトークの音楽のカッコよさゆえなんだろう。で、話を戻して、微妙なルバートよりももっと明白なのが、どんな不協和音も美しく響かせてしまうシフの抒情性強まったピアノ。「打楽器的」って言葉が枕詞化してしまってたというのは、この3曲にとっては不幸な歴史だったかも。メカニックに圧倒される快感よりも、浸り系の喜びでいいんではないかと。(97/04/07)

Bartok: Piano Concertos Nos.1-3 / Andras Schiff(p), Ivan Fischer & Budapest Festival Orchestra / TELDEC 0630 13158 2 (国内盤はワーナーミュージック WPCS5646)


[CD]サクソフォンによるバッハ/無伴奏チェロ組曲(←清水靖晃)。

 悶絶級に感激。「最近出た」というにはちょっと時間が経ってしまったんだけど、やっとゲットしました、このCD。こうしてウェブを見てるカウチなあなたなら、少なくともほんの一部分だけは聴いたことがあるはず。オンワードだっけ?TVのCMでバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のアルマンド冒頭が鳴ってるやつ。「グガーッ!」ってサックスの音が響き渡るの、覚えがあるのでは。このCM見てゾクッと来て、「こりゃ誰の演奏だ? 絶対CDがあるはず」と探す探す。大型店のクラシックの棚を見ても全然見つからない。そのうち、清水靖晃っていうジャズ・フュージョン畑の人が吹いてるんだってことを知って、慣れないコーナーを捜索、ようやく手にした1枚。いやー、そのスジでは超有名であっても畑が違うとこれだけ見つけにくいか。つうわけで予備知識ゼロ。

 で、収められてるのは無伴奏チェロ組曲の第1番から第3番。それぞれスタジオだったり採石場だったり場所は異なるものの、残響が強烈にある場所で録音。一人多重録音多用。バッハの異楽器モノ(そんな言葉あるか。考えてみりゃピアノだってそうだよな)は数あれど、これ、決定的にハマりそう。もしかして楽器に対する免疫ができてないからかもしれんとかいろいろあるんだけど、これほどカッコいいと思ったバッハはグールド以来かも。件の第1番、ノンレガートげな軽快プレリュード、すごくテンポが遅いんだけど弛緩しないメヌエット、やりたい放題系ノイジーなジーグ、どこをとっても歌に満ち溢れた黄金色のバッハ(←ちょっとしたフレーズ一つに至るまでいちいちカッコいいのだ)。音色の多彩さ、複数声部への意識も吉なんてのはもう当然。3曲ともプレリュード聴きはじめた瞬間にバッハの音楽が持つワクワク感の虜に。あの「グガーッ!」が頭にこびりついて離れない病の方は即ゲットすれ。(97/03/05)

J.S.Bach:Cello Suites No.1,2,3 / Yasuaki Shimizu(Tenor Saxophone) / ビクターエンタテインメント VICP235


[CD]にせフランス・バロック、カッコよすぎ

 パトリス・ルコントの映画「リディキュール」が上映中で、映画館に足を運ばないまでも、TVやら雑誌やらで頭の片隅にひっかかってる人も多いはず。「ルコント初のコステューム・プレイ」と聞いて、中野の「まんだらけ」のコスプレ店員とか思い出さないように(爆)。で、まあ映画のことはよそにまかせるとして(つうかワタシも強くないので)、手にしたのはそのサントラ盤。リュリとかラモーとかが使われてるわけじゃなくて、この映画のためのオリジナルの音楽が収められている。どんな音楽かってのを全然知らずに聴きたくなったのは、ひとえにマルゴワール指揮ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・ドゥ・ロワ(な、長い)の演奏だから(歌手陣にはアニエス・メロンなんかの名前もクレジットされとります)。おお、これはオリジナルの音楽とは言え、きっとバロックな快楽横溢系の1枚に違いないと。

 で、大正解。音楽はアントワーヌ・デュアメル(Antoine Duhamel)。この辺、詳しい方にはフランスの大御所として知られてるんだろうけど(すんません、無知で)。The Internet Movie Databaseあたりで調べれば、ゴダールの「気狂いピエロ」等の映画音楽を手掛けていることが分かる(おっ、インターネットもたまには役に立つじゃんか。CDの解説読んだほうが早いって話もあるけど)。1925年生まれでメシアンらに師事って方。古楽器の演奏で、ビブラート抑えたガット弦のざらっとした感触やら、金管・打楽器の遠慮のないアンド雑な響きやら、いちいちカッコいい。ダンサブルなニセ・バロック舞曲のオン・パレード(1曲だけモーツァルトの「きらきら星変奏曲」を元にした曲が入っているけど←チェンバロ。映画見てないのでどういうシーンで使われてるのかは不明)。全体に結構悪趣味にやりすぎてる感じもお洒落ではないかと。

 つうわけで、こうなったら「リディキュール」見るしか→同じルコントの「髪結いの亭主」見て途中で眠くなってるワタシ。ただし、レンタル・ビデオで見れるようになったら(映画も生よりメディアに頼るのかっ。ってもともとメディアだけどさ)。(97/02/19)

RIDICULE original motion picture soundtrack / a film by Patrice Leconte / music by Antoine Duhamel / Jean-Claude Malgoire & La Grand Ecurie et la Chambre du Roy, etc. / DECCA(LONDON) 452 990-2 (国内盤はポリグラム/ロンドン, POCL1720)


各項の末尾にこの書体で書かれた部分はそのディスクに関するインフォメーションです。国内発売されているものについてはレコード会社名、モノによってはディスク番号と発売日を添えています。社名の後の括弧内はレーベル名。輸入盤を探すときはレーベル名で探してください。
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