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  音楽好きならこの映画を観れっ!  
     

Turandot
「トゥーランドット」
監督:アラン・ミラー
出演:チャン・イーモウ、ズービン・メータ
音楽:プッチーニ「トゥーランドット」より
85分/2002年3月下旬〜公開/2000年/米・独/配給:東京テアトル=メディアボックス
Yahoo! Movie:http://movies.yahoo.co.jp/m1?ty=rs&id=138259
上映館:シネセゾン渋谷
「トゥーランドット チャン・イーモウ演出の世界」
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トゥーランドット チャン・イーモウ演出の世界
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ドキュメンタリー作品
↑右でレヴューしている映画が、上記のようなタイトルでDVD化された。このドタバタ劇を見たい方はこちら。ドタバタ劇じゃなくて、本当の「トゥーランドット」公演を見たい普通の方は下を。

「トゥーランドット」
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ズービン・メータ指揮フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団、ラーリン他
↑こちらは映画そのものじゃなくて、映画中で題材となっている実際の公演を収めた「トゥーランドット」全曲のDVD。もちろんこっちが本編で、映画のほうはオマケだ。






◎ 偉大な才能が集ったナンセンス・ドタバタ劇。
 渋谷で映画「トゥーランドット」を観た。しかしこのタイトルはないんじゃないか。なんのことだか分からない人も多いだろうから説明すると、1998年にズービン・メータ指揮、チャン・イーモウ演出により、プッチーニの「トゥーランドット」を北京の紫禁城で上演したというイベントがあった。この公演はDVD等でも発売されたのでご覧になった方もいらっしゃるだろう(ワタシも観た→左欄参照)。で、この映画はその公演の舞台裏を撮ったドキュメンタリー、つまり「メイキング・オヴ・トゥーランドット」なのだ。「トゥーランドット」のオペラ映画とまちがえないように。
 で、これ、実は相当におもしろい。映画館でかかっているだけで、実際には気楽に見られるテレビ番組程度のドキュメンタリーなのだが、なにしろもともとのイベントが色物なだけになにかと可笑しいのだ。リアリズムとは無縁のプッチーニの東洋幻想から生まれた「トゥーランドット」をわざわざ中国で上演し、「オーセンティックな」舞台、「オーセンティックな」衣裳で演ずるという。これだけでも十分ナンセンスなのに、「じゃあ演出家は中国人だ」とメータは名前もよく知らない映画監督チャン・イーモウに声をかける。明朝を再現するべく莫大な労働力を注ぎ込まれて作られた豪華絢爛な衣装はひとつひとつの刺繍に至るまですべて手作り。人民軍も中国文化の世界へのアピールのためにエキストラとして協力する。カネがとてつもなくかかり、9日間連続上演なんていう無茶なスケジュールが組まれ、主役級はトリプル・キャスト。オペラを知悉するイタリア人照明技師と中国文化を理解するチャン・イーモウが、舞台コンセプトを巡って真っ向から対立する……。ああ、すべてが本当に可笑しすぎる。でもこんなドタバタ劇にかかわってしまったら、当事者たちは笑ってはいられない。やるほうは真剣にならざるをえない。この種のイベントが人とカネを暴力的に巻き込んでいくというのは容易に想像がつく。
 はっきりいってオペラを聴かない人にはなんのことかさっぱりわからないだろうし、紫禁城公演を知らなかった人にも辛い内容である。こんなものよく映画館で上映するよな(笑)。この種のおもしろさを解する人には必見のドキュメンタリー、観たい方は打ち切られる前にシネセゾン渋谷へダッシュ!
(04/14/2002)

LE ROI DANSE
「王は踊る」
監督:ジェラール・コルビオ
出演:ブノワ・マジメル、ボリス・テラル、チェッキー・カリョ
音楽:リュリ「テ・デウム」「町人貴族」「ファエトン」より
108分/2000年/ベルギー=仏=独/配給:日本ヘラルド
公式サイト:http://www.herald.co.jp/movies/leroidanse/index2.html
上映館:http://movies.yahoo.co.jp/m1?ty=rs&id=137238
「王は踊る」
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◎ 音楽史的に最強。太陽王ルイ14世と作曲家リュリ。
 まずは音楽的充実度では最強の「王は踊る」。「カストラート」(原題「ファリネッリ」)のジェラール・コルビオ監督による、バロック音楽好き必見の映画である。
 舞台はヴェルサイユ宮廷。主役は太陽王と呼ばれたルイ14世と作曲家リュリ。リュリというと偏狭な権力者みたいな印象を抱く人も少なくないと思うが、ここで出てくるのは若き日のリュリ、才能あふれる美青年のリュリなのだ。リュリはこれまた美しい王ルイ14世に一目惚れする。リュリは王への思いを募らせるが、ルイ14世は男色を厳しく禁じている。この二人のビミョーな関係(というかまあリュリの側の一方的な思慕)を中心に物語は進む。
 若くして王となったルイ14世は、自身バロック・ダンスの優れた舞踊家でもあった。宮廷内の権力闘争のなかで、自らのダンスにより人々からの崇拝を獲得し、舞踏と音楽、さらに劇作家モリエールによる芝居をもってして、ヴェルサイユの実権を掌握する。
 音楽ファンにとっての見どころはとても多い。ルイ14世のバロック・ダンス、史実通りにポシェット(小型のヴァイオリン)を持ってレッスンを行うリュリ、モリエールとリュリによるコメディ・バレ、そして背景に流れるラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティカ・ケルンによる音楽。リュリが残した3000曲から一年をかけて45曲を選択したという。音楽、そして音楽史の映画上の再現、実際にヴェルサイユ宮殿でロケを敢行した映像。これだけあれば、ストーリーは添え物であったとしても十分っすね。
 冒頭、最晩年のリュリが登場し、指揮をしつつ、過去を回想するところから映画が始まる。伝えられるとおり、長い棒を縦に振り下ろすという指揮スタイル。 音楽史上の逸話を知っていれば、次になにが起きるか分かるから、ドキドキしちゃうっていうイジワルなシーン(笑)。
 イタリアのオペラを軽蔑し、ダンスを重んじたフランスの劇場において、フランス流のオペラが誕生するまでの物語として見てもよし、報われない男色の深い愛の物語として見てもよし。
(07/30/2001)

Sufflosen
「はじまりはオペラ」
監督・脚本:ヒルデ・ハイエル
出演:ヘーゲ・シュイエン、スヴェーン・ノルディン、フィリップ・サンデーン
音楽:ヴェルディ「アイーダ」より
97分/2001年秋公開/1999年/ノルウェー/配給:アルシネテラン
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/data/opera/opera.html
上映館:シブヤ・シネマ・ソサエティ(2001年秋)
はじまりはオペラ

「はじまりはオペラ」
>> DVD

はじまりはオペラ

※DVD化されました。






◎ プロンプター・ボックスから見た世界。
 この秋に公開されるノルウェー映画「はじまりはオペラ」は、原題を「プロンプター」という。オペラを聴く方ならよくご存知の通り、プロンプターというのは、劇場で歌手に向かってセリフのきっかけを与えてあげる人である。ステージの前方に用意された小部屋に入り、舞台のほうを向いて開いている部分から歌手に対して次のセリフの「出」をささやく。もし歌手が歌詞を度忘れしそうになっても、プロンプターがいれば大丈夫、というわけ。実際、オペラのライヴを収めた古いCDや放送録音なんかでは、プロンプターの声が聞こえるものも少なくないので、「あれ、なんだろう、この声は」と不思議に思った経験を持つ方も多いのでは。
 で、女性プロンプターを主人公に配したのが「はじまりはオペラ」。場所はノルウェー・オペラのようだ(Den Norske Operaと書いてあるのが読める )。演目はヴェルディの「アイーダ」。初日に向けて、演出家、歌手、コレペティトゥアらがリハーサルを重ねるところから物語が始まる。
 主人公のプロンプター、シヴは近く結婚を予定している。年齢は30代後半。初婚である。一方、婚約者は再婚であり、先妻との間に設けた二人の子を持つ。シヴはずっと親元で暮らしてきた女性。狭い屋根裏部屋を自分の部屋にして、籠椅子に揺られながら「アイーダ」を大音量で鳴らしながら、スコアを眺め、セリフを歌う。体を包み込むような籠椅子はプロンプターボックス同様、彼女にとって、小さく囲まれた自分専用の心地の良い居場所なのだ。
 一方、婚約者のフレッドは医師。シヴの仕事には一切の興味を示さず、彼女が仕事を結婚後も続けることに否定的である(シヴにはそんな発想自体がなく、プロンプターではない自分など描けない)。幼い娘が寂しがるからという理由で、家のなかには先妻の持ち物や家族の写真が溢れている。フレッドはシヴ、先妻、子供たちの間のなかで、難しい家庭の舵取りを要求されるが、常にシヴに疎外感を与える結果に終わる。彼は決してシヴを愛していないわけではないのだが、シヴにとってなにが大切なことなのかを理解できない。シヴには自分の居場所がないのだ。
 シヴはある日、オーケストラのチューバ奏者と出会う。チューバ奏者は彼女にとってプロンプターの仕事がなにかをよく理解しており、音楽への愛も深い。とまあ、そこからはお約束の新しい恋が始まる。これまでいつも悪いのは自分と思い込み、自分を殺してきたシヴが、真に自立するために現実と向き合い、己の殻(プロンプターボックス、籠椅子に喩えられる)を打ち破るという物語。
 それを象徴する場面が終盤にあるのだが、これは音楽ファンには大いにウケそうなシーンだ。ネタばらしはしないが、現実にこんなことが劇場であったらさぞ痛快だろう。全編に流れる「アイーダ」も吉。
(07/30/2001)

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