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文:山尾“音楽ライター”敦史 いきなり、まったくの私事で恐縮なのだけれど、ライター仕事をさせていただきながら演奏会評というのを(簡単なレポート仕事を除いては)ほとんどお受けしたことがない。というか、意識的にご辞退しているというのが本音。理由は簡単。いくらその演奏会を詳細に報告し演奏の素晴らしさを説いたところで、読者がその演奏会を追体験できるという可能性がほぼゼロに等しかったからだ。僕は、音楽は“聴くもの”“楽しむもの”だと思っているし、聴いての評価は十人十色だとも思っているので、“とにかく聴く、すべてはそれから!”ということが出発点だと信じている。他人の書いた評を読んだだけでは、それを聴いたことにならないのだ(って、ひょっとすると音楽誌の演奏会評を、あからさまに批判しているように読める?)だから、So-netが過去にさかのぼって東京フィルの定期演奏会などをネット配信するということを最初に聞いた時には「ようやく情報を共有できる時代が来たなあ」と実感したわけ。 ネット社会が音楽シーンに与えるもっとも大きな影響は、(すでにCDなどのショッピングで実績は挙げているんだけれど)「大都市も地方もない平等化」なのだと思う。僕もとある地方都市出身者なので、かつては音楽雑誌などを読みながら「東京、うらやましいぞ、くやしいぞ」と思っていたのだけれど、そのギャップが少しずつでも埋まり、多くの音楽ファンができるだけ同じレヴェルで情報を共有することは大事だと思うし、ネットならそれが実現するはず。ユーザーも「一方的に発信される情報を受け取って信じるしかない」という状況を脱して、自分が情報を探したり判断したりすることが可能になる。 だから、そういった意味でも東京フィルのコンサート音源配信は、大きな転換期の出発点かなと思う。というのも、東京周辺でコンサートを聴ける人にとっては「コンサートの追体験」もできるし、聴き逃してしまったコンサートを拾うことだってできる。東京以外の方なら、チョン・ミョンフンをはじめとする指揮者たちの演奏に接することだってできるし、雑誌などで名前だけ見る指揮者の音楽を聴くことは、音楽シーンの流れをキャッチして乗り遅れないための手段でもあるだろう。音楽誌にしても、東京や大都市圏の音楽ファンだけでなく全国のリスナーと情報を共有することができれば、もっと紹介できるアーティストやコンサートが広がってくるはずなのだ(僕は今の音楽誌のスタンスって、仕方ないのだろうけれど、あまりにも東京集中型だと思っている)。 近い将来は他のオーケストラ、特に地方オーケストラやコンサートホールからも同じように音源発信が可能になり、たとえば青森に住んでいるリスナーが大阪フィルを聴けたり、東京に住んでいるリスナーが広島響を聴けたりするような、全国ネット・レヴェルでのネットワークを実現して欲しいと思う。So-netの試みは、その第一歩(でも、その一歩が大きいのだと思うよ)に過ぎない。だから音楽ファンの皆さんもとりあえずそれを体験し、ネット社会が拡大していく中で、いろいろとユーザーライクな意見を発信してくれるとうれしいのだ。 (01/19/2004)
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