●「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」(金水敏 著/岩波書店)を読む。これはタイトルの勝利っすね。「ヴァーチャル日本語」ってのは、現実にはだれも喋らないけど小説やマンガなどでは使われる日本語を指している。たとえば「それはワシが作った人造人間じゃ」みたいな言葉、実際には使われないけど、読めばなんとなく「博士」が話しているんだろうっていう共通認識がみんなにある。こんなふうにヴァーチャル日本語は「役割語」として機能しているっていう話。ほかにもたとえば「○○したまえ」みたいな書生言葉→少年語、「よろしくってよ」みたいなお嬢様語等々。
●こういった物語用のステレオタイプの表現がどんなふうに生まれてきたのか。そのあたりを古い日本語にまで遡って説明してくれるのが興味深い。どれもだれか個人が創作した表現ではなく、どこかで現実に使われていた言葉なのだ。役割語を突き詰めることで、さらに標準語の成立、「標準語=ヒーロー語」説にまで話は及ぶ。なるほどなあ。東京生まれの東京育ちの人にも、東京弁をしゃべる人と標準語をしゃべる人がいることに気づいている人に特にオススメ。
●で、十分おもしろかったんだけど、ちょっと物足りない感もあるんだよなあ。ワタシがうっすら期待していたのは、現代では物語用の役割語でしかなくなった日本語が、さらに実用の日本語へと逆流していく現象にまで踏み込んでくれることについての論述だったんだけど、そういう本ではない。「ヴァーチャル日本語を理解した上で、リアルな日本語をつかみとることが、日本語を真に豊かで実り多いものにしていく」みたいなとってつけたような結びにも、学者さん的な「逃げ」を感じてしまう。
●でもまあ、そこまで望むのは贅沢すぎるか。とてもおもしろかった。読むしか。(04/15)
April 15, 2003