●講談社文庫から復活した「森のうた―山本直純との芸大青春記」(岩城宏之著)を読む。もうこれは抜群におもしろい。単行本初出が1987年、その後朝日文庫でも出ていたので読んでいらっしゃる方も多いと思うが、ワタシは初めて読んだ。タイトルも装幀も冴えないが、中身はすばらしい。
●芸大時代の岩城宏之と山本直純の「青春の記録」なので昭和20年代後半の話である。あらゆる面で今では考えられないような話ばかりで、たとえば山本直純は常に電車賃を払わず「ヨッ!」と一声かけて改札を通っていた豪傑だったというような、時代の大らかさを感じさせる話も楽しい。が、一番驚くのはやっぱり音楽の話だ。ショスタコーヴィチ「森の歌」事件のあらましを紹介したくてウズウズしているんだが、おもしろい小説のネタをばらすような気がして、ここはぐっとガマン。時代の熱気が違うといえばそれまでなんだけど、これは圧巻。こんなこと、現在の芸大(でもどこでも)では、ありえないよなあ。
●1時間足らずで読める文庫本なので、未読の方には強くオススメ。昔から言われてることだけど、岩城氏は文才もスゴいっすね。(06/18)
●あっ、言い忘れそうになったけど、芸大というのは「東京芸大」です。これ、首都圏では自明なんだけど、芸大は東京以外にも存在するので、地方によっては当然自明じゃないんだよな。
June 18, 2003