November 5, 2003

「取るに足りない殺人」

●ジム・トンプスンの「取るに足りない殺人」(扶桑社)を読んだ。今年9月の新刊だが、原著は1950年、つまり半世紀も昔のミステリーなんである。ワタシは全然ミステリー・ファンじゃないので、まったく事情には疎いんだけど、遅れて訳された古典なんでしょう。
●で、これはとてもおもしろかった。悪を悪とも思わない主人公による保険金詐欺を描いた犯罪小説、といってしまうとあんまりおもしろそうじゃないが、登場人物の描写が非常に優れている。邪悪な人間と凡庸な人間の嫌らしさがよく出ていて、この邪悪さや凡庸さがワタシたちの自身の邪悪さや凡庸さと同じものであり、ただ拡大されているだけだという感じがよく伝わってくる。底意地の悪いユーモアもちょっぴりあって、ワタシは好きだ。邪悪な精神と凡庸な欲望ってのは、フツーの人ならだれだって否定できない身に抱えた罠っすからね。そのあたりの救いのなさかげんがいい感じ。
●細かいところでは、はやっていない町の映画館を経営することになって、どうやってそれを繁盛させるかっていう話があって、これなんかもちょっと気が利いている。狡猾な悪知恵なんすけどね。
●読みやすいので、構えて読む必要はなし。ジム・トンプスンは一通り読んでみようかなあ。(11/05)

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