●一昨年の刊行だが、薦められて野坂昭如の「文壇」を読んだ(文芸春秋)。舞台は60年代の日本文壇。著者がテレビ業界から活字の世界へ活動の場を転じ、色物雑文家から小説家になるまでを描き、当時の文壇(というか文壇バー)の様子が綴られる。三島事件直後の70年大みそか、丸谷才一が「たった一人の反乱」を書くまでの10年間を追っている。
●で、以下、書評でもなんでもなくて延々と余談なんだけど(しかもスゲー長い)、昔テレビのバラエティかなにかに出てきた野坂昭如が「オレはもう十年以上風呂に入っていない」って発言して、その場にいたアイドルの女のコたちがマジでひいてしまったときの言い訳がスゴかった。「風呂には入らないが、一日に下着を何度も替えている。だから、これは風呂に入っているのと同じだろう」。ス、スゴすぎる。キモヲタ的には参考になるなあ、デヘヘヘ。って違うだろ。
●「文壇」にも登場する銀座の有名な文壇バー、以前このうちの一つにワタシは行ったことがある(90年代なのでもう往時の文壇バーとは様子がずいぶん違ってるだろうけど)。とある大先生が若造に世間を見せてやろうと銀座に連れて行ってくださったのだ。が、銀座のバーどころか、そもそも酒を飲まないワタシなので、あらゆる場面で自分にふさわしい身の処し方がわからない。まず銀座に行くのにいきなり営団地下鉄に乗ると思ってるワタシ(笑)。違う違う、タクシーで行くんだってば。で、そこから何軒かハシゴするんだが、たとえばカウンターの向こう側に「ママ」がいる。ママってなんだよ、それ。誰のお母様でありますか(とは尋ねない)。だれもメニューを見てないのに、食い物やら水割りが出てくる。店を出るのに「お勘定」なんてない。後日、大先生の家に請求書が送られてくるわけだ。
●で、ホステスさんたちからは「私たちは会社帰りのOLがやってるバイトのキャバクラ嬢とは違うのよ、銀座に生きているのよ」つう矜持の高さがギュンギュンと伝わってきて、こちらが音楽雑誌の編集者をしていると知ると、さっそく音楽方面のお話をしてくださって、今にも本の2、3冊はできそうなくらいの勢いで企画が生み出されていく(ということにしておこう)。もちろん、若かりし頃の大先生の武勇談であるとか、それこそかつての「文壇」にまつわる逸話の残滓みたいなものもなくはなくて、そのあたりは興味深いにしてもワタシには猫コバでもある。
●「最近じゃ若い方は銀座にいらっしゃいませんが、やはり銀座で遊んでこそ一流。銀座にいらっしゃってください」みたいなことを言われたりしながら、次々と水割りが消費されてゆく。ていうか、来いっていわれても、座るだけで万札何枚すっ飛ぶのかわからんじゃないっすか、ここは。「若い方は学割でいいですよ」って言われたけど、どんな恐ろしげな割引料金なのかとてもじゃないが聞けない(笑)。とりあえず、呑み助じゃないから腹が減る。メシ食いてー。ホステスさんもなんというかその、別にどうっていうかなんていうか、ええっと、あ、チーズ、ゲット~。
●あと、先に入った小さなバーのママを、大先生が連れ出して別のバーに同伴させるっていうのも驚いた。他に客がいなかったとはいえ、お店を閉めて同伴。えっ、そんなんで店、閉めちゃっていいの、みたいな。何軒かハシゴして、最後の店ではド深夜まで居座り、店を閉めお開きになったところで、そこのオネエサン方とタクシーに同乗、一人ずつ自宅まで送り、ワタシも送ってもらって、最後に大先生はご帰宅された。ご、豪遊なのか。とにかく未知の世界を垣間見させてくださった大先生に感謝、もちろん後日のお礼は欠かさない。でも、あのぉ、もういいっす……。えっと、僕、ゲーセンでバーチャとかしてるほうが向いてるしー。