●あまりにもおもしろい試合に出会うと、これは誰か優れた脚本家が筋書きを用意したのではないかという気になる。レアル・マドリッドvsモナコには、ありとあらゆる「因縁」が詰め込まれていた。
●モナコのスペイン人フォワードのモリエンテスは、かつてのレアル・マドリッドのエース・ストライカー。ロナウドがその座を奪うと、失敬なオーナーから不要の存在と言い放たれ、マドリッドを離れなければならなくなった。実績のある選手だけに移籍金・年俸も高額で、移籍はなかなか決まらず、結局フランスのモナコにレンタル移籍することになった(モナコというクラブはフランス・リーグに参加している)。モリエンテスがピッチ上で復讐を果たすためには、モナコがチャンピオンズ・リーグを勝ち進んで、レアル・マドリッドと戦うしかない。そして、準々決勝まで勝ち進んできた。
●モナコを率いる監督はデシャン。つまり、レアル・マドリッドのジダンとは、かつてフランス代表およびユヴェントスでチームメイトだったデシャンである。ジダンが自由自在に攻撃を組み立てる間、いつもその後ろでチームのバランスに気を配り、声を上げて味方を鼓舞し、相手からボールを奪うために体を張って戦った。日本で言えば超「柱谷」。
●試合が行われたマドリッドのサンチャゴ・ベルナベウは7万5000人を収容可能な巨大スタジアムである。モナコのスタジアムに何人入るかは知らないが、シーズン会員はダバディによればたったの900人! 世界一サポーターが多いクラブ対世界一サポーターが少ないクラブの対決といってもいい。
●そんなわけで、神様は試合をおもしろくしたくなった。この重要な試合で先制点はアウェイのモナコが奪った。ゴールを決めたのはレアル・マドリッドが触手を伸ばしているといわれるセンターバックのスキラッチ。できすぎている。そして、そこから本来のショウが始まり、ジダン、フィーゴ、ロナウドらが次々と超人技を連発して、レアル・マドリッドが4点取った。その中には主審にPKを見逃された直後のジダン怒りのゴールがあった。フィーゴのPKを相手GKのローマが止めたが、跳ね返ったボールを再びフィーゴがヘディングで押し込むという、「らしくない」ゴールもあった。ロナウドのゴールはあまりにも完璧で、テレビの前でみんな笑ってしまったにちがいない。4-1。
●これでも十分だが、もう一点入った。モナコのモリエンテスがヘディングでゴールを決めて4-2。ささやかな復讐を果たしたモリエンテスは天に向かって祈りと感謝を捧げた。マドリッドの人々はここで立ち上がって、かつての英雄モリエンテスに拍手を送った。なんと上品な人々なんでしょうか。でも賭けてもいいが、これは3点リードが2点リードになっただけだったから拍手したんである。富は人を寛容にする、と。
●モリエンテスのゴールはモナコにかすかな希望を残した。自分たちのホームで(サポーターのいないホームで)2-0か3-1で勝てばいい。厳しいが可能性はある。それにしても、これ、ワタシは日曜日の深夜のフジテレビで観たのだ。試合は火曜か水曜だったはず。昨年地上波放映権をとったTBSに比べると、フジテレビの冷淡さはあんまりじゃあありませんか。
March 29, 2004