●NHK-BS2で「アシュケナージ オーケストラへの情熱」を見た。これ、昔一度見たことがあるような気がするんだが、どうだろうか。イギリスのテレビ局が制作したドキュメンタリー。
●で、これ見てて改めて思ったんだけど、アシュケナージってソ連の出身なんすね。もちろんそんなことは知ってはいるんだけど、人柄にも音楽にもソ連っぽさが限りなく稀薄なので、すっかり忘れていた。これをドキュメンタリーのなかで紹介されている逸話で思い出した。チャイコフスキー・コンクールの話。
●ショパン・コンクールで2位を獲得し、本格的なキャリアをスタートさせたアシュケナージに、ソヴィエト当局からチャイコフスキー・コンクールにも出場するようにとのお達しが届く。アシュケナージとしてはチャイコフスキーが嫌いで、ピアノ協奏曲第1番なんか弾きたくなかったんだけど、当局に逆らうことは以後のキャリアを完全に絶たれることを意味する。選択肢はない。アシュケナージはやむを得ず練習を積み出場する。ソ連としては、第1回のチャイコフスキー・コンクールの優勝をアメリカ人のヴァン・クライバーンにさらわれた以上、第2回は是が非でもソ連のピアニストに勝たせたかった。で、その嫌いなチャイコフスキーで、アシュケナージは見事優勝を果たす。
●結局アシュケナージにとって得たものは大きかったわけだが、彼は演奏旅行で国外に出たときに祖国を捨てる。その経緯を話すアシュケナージの語り口がまた淡々としていて、内面はわからないが、少なくとも外側に喪失感みたいなものがまったく見えない。むしろ、どんなことを話していても、チャーミングな表情を保つところがこの人の人間的な魅力なんだと感じた。
●ところで、これ、30年近く昔のドキュメンタリーで、番組中の「今」も「最近」も現在の視聴者からするとずいぶん「昔」なんすよね。最後に制作年は表示されていたとはいえ、もうちょっといつだれがどういう機会に作ったドキュメンタリーか説明があってもよかったんじゃないかなあ。日付と文脈が大切なんじゃないかと、ドキュメンタリーには。
August 14, 2004
「アシュケナージ オーケストラへの情熱」
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