ある日、行く先もなく曲がりくねってのびている道に行き合ったので、わたしの気分にぴったりだと思い、その道をたどることにしたら、やがて深い森の中へと入っていった。そのどこか奥深くで、<秋>が、豪華な花冠を戴いて腰を下ろし、謁見式を執り行っていた。年に一度の<木の葉の踊り>の祭りの前日だった。(「都市の王」~ロード・ダンセイニ「夢見る人の物語」所収)
●東京は一瞬、秋の気配が感じられたと思ったら、また残暑がやってきて<木の葉の踊り>どころじゃないんすけどね。
●「指輪物語」も「ゲド戦記」もここから生まれた、と帯にあるように、ロード・ダンセイニはファンタジーの始祖みたいな人なんだろうと思うが、確かにこの短篇集「夢見る人の物語」は100年近く昔に書かれていて、そんなものが訳出されてくるのだからこれは古典だ。神話的な幻想譚からホラ話風の軽い作品まで、神々、都市、妖精、英雄らの物語をたっぷりと味わうことができる。
●それにしてもダンセイニ作品にはいろんな楽器が登場する。たとえばプサルテリウムなんて楽器をあなたは小説でみかけたことがあるか(ツィター風の弦楽器。ギリシャ時代からあるが15世紀以降には廃れた)。ファンタジー世界に古いヨーロッパの楽器はよく似合う。
●ダンセイニの世界で、「神」の楽器として何度も登場するものがある。クラシック音楽ファンは、神の楽器といわれると、モーツァルトらの例を挙げるまでもなく、まずトロンボーンを思い出す。しかしダンセイニの世界ではオルガンなのだ。これはこれでなんとなくわかる。オルガンは人間の肉体からは遠く、クラシック系の楽器ではもっとも「機械」に近いブラックボックスだが、人間の肉体から遠いからこそ神の楽器という考え方だってあるだろうから。