October 8, 2004

気になる部分(岸本佐知子)

気になる部分●先日、当欄にニコルソン・ベイカーの「中二階」についてのエントリーを載せた。で、そのニコルソン・ベイカー作品の翻訳者である岸本佐知子のエッセイ「気になる部分」(白水社)を読んだのだが、これがもうムチャクチャに可笑しいんである。翻訳についてのエッセイではなく、日常にひそむ「気になる部分」をマイナー者の視点で観察したもので、その鋭さとヘンさ具合がすばらしい。翻訳小説読んで作者を「なんてこりゃ変わった人なんだろう」と思うことはいくらでもあるだろうが、その翻訳者の本を読んで「この人のほうがもっとスゴいかもしれない」と思える体験はめったにない。
●たとえば最近、巷で聞く「ポジティブ・シンキング」とやら。これを元来ネガティブな人間がやれば早死にするだけだと看破し、積極的なネガティブ・シンキングを勧める。

 いらい私は、心ゆくまでひがんだり、くよくよしたりすることに決め、あまつさえこれを一つの趣味にまで高めていったのである。(中略)
 私のお気に入りのガミネタの一つは、<飲食店で邪険にされた思い出>のパターンである。特に新宿のTというおでん屋、ここの夫婦はなぜか私を目の敵にしており、私の注文は必ずといっていいほど聞こえないふりをするか忘れるかし、ある竹輪麩を「ない」と偽ったりするのである。(中略)<自分だけ仲間はずれにされた>もよく効くネタだ。何か月かに一回定期的に開かれる食事会に呼ばれていたのだが、半年ほど連絡がなかったので、メンバーの一人に「あの会、最近どうしちゃったんだろうね?」と訊いたところ、口ごもり、目を逸らされた。私抜きでちゃんとやっていたのである。他に<旅先でボラれた><自分の並ぶ列が必ず一番遅い>なども定番である。そうやって、その時の気分に応じて好みのネタをセレクトし、心ゆくまでひがみエクスタシーを味わったあとは、すっきりとした気分で安眠でき、朝の目覚めもさわやかで、体調もすこぶるいい。(「私の健康法」~「気になる部分」より)

●すっごく頭のいい方なんだと思ったです。脱力しつつオススメ。

トラックバック(0)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/250

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「ニッポンvs韓国@U20アジア・ユース選手権」です。

次の記事は「台風22号超高速で去ってゆく」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ

国内盤は日本語で、輸入盤は欧文で検索。