December 23, 2004

監督力(西部謙司著/出版芸術社)

監督力●最近、サッカー・ライターのなかで、ワタシがいちばん読んでておもしろいなと思えるのが西部謙司さん。文章が平易で巧く、安心して楽しめる。確かな視点で新しい知見を与えてくれて、文章から伝わる人柄もいい。スポーツ・ジャーナリストでこれらの条件すべてを備えた人はほとんどいないっすね。
「監督力」は、あちこちに書かれたものの寄せ集めなので、一貫した監督論などではないのだが、サッカー話として監督の話ほどおもしろいものもない。たとえばマンチェスター・ユナイテッドとアーセナルの違い。この二つが対照的なクラブであることはわかる。ワタシは漠然としかその違いを把握していなかったのだが、これを読んで霧が晴れたようにすっきりとした。「威張るマンチェスター・ユナイテッド」の章で、彼らの典型的な攻撃スタイルを例に挙げて、こう説明する(ベッカム在籍時の話)。

まず、ファーディナンドからファンニステルローイへの”くさび”、ここがすでにイバっている。ファンニステルローイの半径10メートル以内に誰も寄りつかない。つまり、このパスコースはみえみえなのだ。みえみえでも必ず通す、背負っているディフェンダーとの1対1なら必ずボールを守って見せるという自信。助けはいらん、邪魔だ寄るな、という自負。
 次にイバってるのがベッカムだ。この人はウイングのくせに、ドリブルもしなければフェイントもやらない。止めて蹴る、ほぼこれだけで右サイド世界一の大イバリであった。さらに、ベッカムから絶対にいいクロスが来ると確信してゴール前へ殺到する選手たちもイバっている。

 つまり、マンチェスター・ユナイテッドの強さは、個々が持つ強力な武器をもとにした「決め打ち」の強さで、アーセナルの流動的でフレキシブルなスタイルとは対照的である、またそれはファーガソンという昔ながらの頑固オヤジと、ヴェンゲルのような卓越したマネージメント能力を持つ戦術家との対照性にも呼応している、というお話。
●ほかにもチェルシーでなぜ(一見ダメそうな)ラニエリ元監督が支持されていたかとか、目からウロコ。

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