●忘れてなくて続くんである、今さらdisc of the year 2004 その2。
●アーノンクールがウィーン・フィルを指揮したブルックナーの交響曲第5番、これは1枚目に演奏を、2枚目にリハーサル風景を収録したディスクで、とても聴き応えがあった。立派な演奏なんである。ブルックナーの交響曲の中で一番好きな曲と言われても第5番を選ばないが、一番飽きの来ない曲といわれたらたぶん第5番を挙げる。ちょっとヘンな曲だし。自己模倣的な一連の交響曲にあって異彩を放っている。で、堂々たる名演を聴くことができて、充足した。
●が、これを聴いたあとに、「舞台裏の神々」(ルーペルト・シェトレ著/音楽之友社)を読んで驚いた。この本は楽団員から見た指揮者の楽屋話、エピソード集といった楽しい本なのだが、これにアーノンクールが「音楽の冗談」と題した比較的長めの序文を寄せている。おもしろかったのはここ。
ハンス・プフィツナーは別として、ユーモアのない作曲家はいないのではないか。ベートーヴェンの風刺やブルックナーのブラック・ユーモアは、彼らが謹厳実直な生き方ばかりをしていたわけではないことを語っている。ユーモアの感覚のないすぐれた音楽などおそらく存在しないだろう。
●ブルックナーのブラック・ユーモアと来たもんだ。単にユーモアというならまだしも、ブラック・ユーモアって言われてピンと来るだろうか。これがバルトークやショスタコーヴィチならともかく、ブルックナーである。ワタシゃなにを聴いていたのだ。ブルックナーこそ謹厳実直でひたすらシリアスであるなんてのは、先入観が生んだ刷りこみなのかもしれない……とちょっぴり思った。