●「なぞ食探偵」(泉麻人著/中公文庫)。東京を中心としつつも各地の「なぞ食」をイラスト入りで取材してくれるのだが、なんと、東京に住むワタシにとって「ああ、あれか!」とわかるようなメニューが全然ない。たとえば、梅ヶ丘の「天バーガー」とか六本木の「東京一番ハンバーガー」とはなんなのか。浅草の「パンカツ」も新大久保の「ず丼」も知らない。早稲田の「チョコとん」、六本木の「バナナカレーうどん」、埼玉・行田の「ゼリーフライ」は知らなくて良かったとすら思う。
●しかしこの中でワタシの魂を激しく揺さぶったメニューがある。新潟の「イタリアン」。イタリアンっすよ。これほどどこの街にもイタメシ屋がある今、なにをどうすれば「イタリアン」などという汎用性高すぎな呼称を持つ食べ物ができあがるのか。
純朴そうなカウンターの女の子から差し出されたイタリアンは、一見ミートソースのようなものだが、その下の麺がスパゲティーではない。焼きそばに使う太麺がモヤシと一緒にいためられ、甘味のソースにはコーンがちりばめられている。
恐るべし、新潟。大胆極まりない反則技を駆使した食のクリエイティヴィティが感じられる一方、これを読んでも味がさっぱり予想できない。新潟のスタジアムに行ったときに食べときゃよかったと、茹ですぎた麺のごとくねっとり悔やむ。