●気難しそうな完全主義者、ピアニストのツィメルマンが少し前の「音楽の友」誌でインタヴューに答えていた。ツィメルマンの年齢(50歳)に話題が及んで、こんなことを言っている。
50歳になったころは、もっと成熟していると思っていたのに、今の私の中身は、18や20歳のころと変わっていないのですから。若い人を見ると、自分は彼らと同じ年齢だと思うのに、実は彼らの父親であってもおかしくないことに気がついて、愕然とすることもあります。おもしろいですよね。
●これはたぶん、みんなそうなんだと思う。以前、ある大ベテラン音楽評論家の先生からも「僕は自分じゃ27歳のつもりだから」という話を聞いて、「いくらなんでもそりゃ若すぎだろ!」とワタシは驚愕したんであるが、よく考えれば自然なことかもしれない。30歳でも50歳でも70歳でも、誰もが必ず「20歳の自分」を知っている。しかしどんな20歳の若者も、30歳や50歳や70歳の自分を知らない。ツィメルマンは視線の先にある20歳を見て、20歳の自分を想起するが、相手はツィメルマンを自分の父親と同列に置く。
●だから、しばらく前に70歳の男性が恋心のあまり女子高生を追いかけるストーカーになって逮捕されたが、男には誰でも老人ストーカーになれる素質がある……って違うか(笑)。そうじゃなくて、若者は自分よりずっと年上を相手にすると萎縮しがちだけど、案外向こうの目線は同じ高さにあったりするから、そう遠慮ばかりすることはないんじゃないか、ってことを思ったんだった。