●すごいなこりゃ。キモヲタ小説の傑作→「女王様と私」(歌野晶午/角川書店)。ミステリなのでネタバレしないように慎重にならなきゃいけないのだが、同じ作者の「葉桜の季節に君を想うということ」からトリックを抜き去っても時事的なテーマ性が残されたように、「女王様と私」にもニートひきこもりオタクのごく近未来の姿をさらりと提示している部分があって、この視点は鋭い。シニカルな笑いに満ちていながらも、描かれたキモオタ像の圧倒的なリアリティに感心するのだが、しかし待て。よく考えたらワタシはこんなにも類型的かつ変態的キモヲタを身近には知らない(いたら大変だ)。でも「これがキモヲタ」っていうワタシらが漠然と描く共通理解があって、それをこれでもかというくらい見事に掬いとって描いてくれる。
●主人公と「妹」絵夢の会話もすごいっすよ(この種のヲタ世界では「妹」ってのはカギ括弧つきの特殊概念なのだ。ワタシゃリアル妹がいるからさっぱり理解できないけど)。
「だから最初にゆったんだぉ、どこでもいいって。だってぇ、絵夢が何とゆおうとぉ、おにぃちゃんが行きたくないところにゎ連れてってもらえなぃんだもン、いっつも」
「そんなことないじゃん」
知らず声が大きくなる。
「でぇ、おにぃちゃんゎどこ行きたいのぉ? 秋葉原ぁ?」
ぱっちり開いた、少し緑が入った瞳で見つめられる。
「行きたくないよ」
「中野ブロードウェイ?」
●小説としての仕掛けの部分でギョッとするようなところがあるってのは、章に付された見出しをみれば想像がつくんだけど、しかしまさかこんなことになろうとは。主人公の人物造形はキモヲタだけあって相応に気色悪いんだが(真性ロリなとことか)、そんなヤツが「このままじゃ日本はダメになる」みたいな義憤を覚えたりするところとか、かなり可笑しい。でもオタクとしての普遍的要素に共感しちゃうところとかあると思うんだな(笑)、クラヲタの場合。普段は口下手なのに、自分が好きなものについて語るときだけやたら饒舌になっちゃうところとか。
●やっぱりオタクは暗黒面に堕ちちゃダメ、黒いオタクより白いオタク、オビ=ワンの教えを守ってアナキンにならないようにしなきゃ(なんじゃそりゃ)。