●話題のペーター・コンヴィチュニー演出による二期会「皇帝ティトの慈悲」へ(21日 新国立劇場)。ユベール・スダーン指揮東京交響楽団。創意と工夫に満ち溢れ、エンタテインメント精神と批評精神両方に富んだ充実した舞台だった。これくらい思いっきりオペラを楽しんいるお客さんを目にする機会って、なかなかないんじゃないだろか。おもしろいからしかつめ顔で見ているのもだんだんバカらしくなって、後半は音楽が鳴っていても「あのライオン、さっきの子が入っているのねえ~」「あの黒い服を着た人はホントに楽器を弾いてるのかしらん」みたいな私語が客席を飛び交い、そして「オオオ」「ワハハ」という自然な感情の発露がもたらすノイズがたびたび発生する。いいんじゃないの、これがフツーの人間の楽しみ方だし。
●モーツァルトの「皇帝ティトの慈悲」、この話ではタイトル通り皇帝が実に慈悲深い。自分の暗殺を謀る者までも赦してしまう。それくらいの寛大さを持った偉大な統治者なんである。だからあらすじ上は退屈な話だ。でもコンヴィチュニーのティトからは、前半は立派に振舞うけれどもホントは煩悩だらけで世間ってものにもイマイチ疎いバカ殿テイスト入ったティト像がうかがえたし、後半からは叡智というよりは優柔不断さゆえに寛大になってしまう、自分の重すぎる役割を果たすことに疲弊した権力者像が伝わってきた。ティト以外の役柄もキャラクターが立っていて、退屈かと思っていた作品がとても生き生きしたものに見えた。音楽もこれに連動していたように思う。
●で、いろんな仕掛け満載の小ネタ。照明をチカチカさせて序曲を止めたりとか、ティトが倒れて「お客様にお医者様はいらっしゃいませんか~」をやったりとか、ティトが2幕頭で観客席に座って(チケットをちゃんと見せる)聴きはじめるとか、大変楽しい……が、これが少し微妙かなと思わんでもない。小ネタは新鮮で、裏返すとフツーのオペラがつまらなく見える(この日はじめてオペラを見たお客さんが、次回足を運んだときに落胆しないかと心配になるくらい)。でもこれくらいの小ネタでウケるのはオペラ劇場限定のぬる~い笑いで、賞味期限があるかもしれない。同じ観客もオペラ以外の舞台(あるいはテレビ番組)に接したときははるかに無慈悲になる。オペラじゃなかったら、ワタシだったらクスリとも笑わない。だからこそオペラはスゴい、モーツァルトの音楽は偉大なり、ともいえるんだけど。
April 24, 2006
二期会「皇帝ティトの慈悲」~ビミョーにモーツァルト・イヤーその6
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