August 29, 2006

「太陽」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)

太陽●自分は何者か。これを自分に問いかけると、永遠にその答えは出ない。では、私は何者か、と人に尋ねたとすれば、尋ねられた相手は私の顔色をうかがいながら、レトリックを凝らして、私という人間を複雑かつ多面的に表現してくれるかもしれない。でも私のいないところで、この問いが発せられたら、案外話は簡単だったりする。「あー、あいつ、×××なヤツだよね」とか。
●で、ロシア映画「太陽」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)を見てきた。主役は昭和天皇(イッセー尾形)。天皇ヒロヒトが敗戦からマッカーサーとの会見を経て、人間宣言を決断するまでを描く。日本では作られようがない映画を、これまでヒトラー、レーニンといった20世紀の権力者を描いてきたソクーロフが撮った。終戦直前の頃なんて、もちろんワタシは直接知らないわけだけど、ワタシの目で見てここには「ガイジンの描いたヘンテコな日本」はどこにもない。型にはめて言えば、現人神とされた日本のエンペラーが自らの神性を否定するまでの苦悩や孤独を描いている。エンペラーとは何者だったか。歌を詠む。生物学を研究している。平和を願う。家族を心配する。
●印象的なのはソクーロフの第三者視点。たとえば東京は空襲で廃墟になっている。陛下の居所だけは楽園で、あとは瓦礫の山。もし日本人がこれを撮ったら、ほとんどの人は廃墟で庶民が苦しむ姿を入れてしまうと思う。ひょっとしたら大八車を引いて逃げ惑う人々を挿入してしまうかもしれない(いや、それは「ゴジラ」からの借り物のイメージなんだけど)。でもソクーロフは淡々と控えめに廃墟となった東京のカットをさしはさむ。そりゃそうか。でも戦慄する。
●ちなみに昭和天皇がイッセー尾形なら皇后は桃井かおり、侍従長は佐野史郎。ハリウッド映画ではないので、日本人同士の会話は全部日本語、英語が話されるべき場面は英語。音楽はロストロポーヴィチのバッハの無伴奏チェロ組曲他。平日のレイトショーだが満席だった。

トラックバック(9)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/700

Battenの独り言from香港 - "The Sun"を観て・・・ (2006年8月29日 10:57)

強烈なファンではないけど結構僕は映画好き。いつの頃から映画にはまったのかわかんないけど、高校の頃から足げく映画館には通った気がする。映画のいいところは1時間なり2時間なり、そしておそらく僕が見た映画で一番長かった東京裁判(277分!)の間、自分の生活とは違う... 続きを読む

つるつる独楽 - 太陽 (2006年8月30日 12:31)

銀座シネパトスでソクーロフ監督の映画 「太陽」 を観た! 昭和天皇ヒロヒトを演じるイッセー尾形に腰抜かした。スゲーの。こっちのクチビルまでふるふるふるふる・・・。 なんかしょぼかったらやだななんてナメてかかっていたのだが、とんだ了見違い。釘付けでふる... 続きを読む

共通テーマ - 「太陽」 (2006年9月 4日 22:18)

「天皇ヒロヒト――彼は、悲劇に傷ついた一人の人間」。 ロシアの映画監督、アレクサンドル・ソクーロフが“昭和天皇=ヒロヒト”をひとりの人間として描き、ベルリン映画祭ほか世界各国で絶賛されたこの問題作。あなたの†... 続きを読む

 アレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇を撮った「太陽」を銀座シネパトスで。5 続きを読む

★試写会中毒★ - 太陽 (2006年11月18日 17:51)

満 足 度:★★★★★★★★★        (★×10=満点)  監  督:アレクサンドル・ソクーロフ キャスト:イッセー尾形 、       ロバート・ドーソン 、       佐野史郎 、       桃井かおり 、       つじしんめい 、   ... 続きを読む

ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! - 【劇場鑑賞110】太陽(THE SUN) (2006年11月20日 00:09)

天皇ヒロヒト――彼は、悲劇に傷ついた、ひとりの人間。 その苦悩 その屈辱 その決意 彼は、あらゆる屈辱を引き受け、 苦々しい治療薬をすべて飲み込むことを選んだのだ。 ... 続きを読む

今発売されている「文芸春秋」の5月号は、新発見「小倉侍従日記」を読み解く、として、「昭和天皇孤独な君主の闘い・陛下はやはり騙されていた」というセンセーショナルなタイトルで、阿川弘之と半藤一利の対談が載っているようです。たまたま通りかかった駅の売店の店... 続きを読む

ひらりん的映画ブログ - 「太陽」 (2007年8月23日 03:49)

八月になると、広島・長崎の原爆記念日や終戦記念日が毎年やってくる。 ひらりんは勿論、戦後生まれ・・・ 昭和天皇の終戦時の話は、なかなか知りえないので、 映画を通して、記憶に残しておこう・・かなっ。... 続きを読む

単館系での上映のこの映画は観よう観ようと思っていたら終わってしまった作品です。日本では絶対出来ないテーマ「昭和天皇」を描いたこの作品はなんとロシアで制作された。淡々とした中にも、どこか浮世離れした生活した感じがはっきりとわかる。昭和天皇を演じるのはイッ... 続きを読む

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「水沼貴史32キャップ7ゴール」です。

次の記事は「「フェルマーの最終定理」のオマケ補遺補遺」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ

国内盤は日本語で、輸入盤は欧文で検索。