●ガキを寿司屋につれてくるな。あなたはそう思うかもしれない。子供は寿司の味なんかわかりゃしない。「ワサビ抜いて」とかふざけたことを言ったりするメンドくさい存在である。では寿司屋にとって宇宙一迷惑なガキとはだれか。おそらく、それは35年ほど昔のワタシである。
●両親に連れられて近所の寿司屋に行った。日曜日である。寿司屋のカウンターに座って、このガキは不満を抱いていた。
「こんなはずではなかった。今日はカレーを食べる日なのだ」
●当時わが家では日曜の夜はカレーライスと献立が決まっていた。子供はカレーが好きである。今にして思えば、このルールは日曜に母親の負担を軽くしようとして定められたのだろうとわかるし、もっと積極的に日曜夜を「家事の休日」とするために寿司屋で外食という選択肢が採られたのだとも推測できる。
●だがそんな親の都合を子供は絶対に理解してくれない。ガキはトロにもウニにもイクラにも目をくれず、ひたすらカレーのことを考えいてた。
「なんと悲しいことであろうか、日曜にカレーが食えないとは」
思考を反復させることで、バカガキ特有の作用として自己憐憫が増幅され、これが理不尽なまでに高まった。「自分はかわいそうな子供だ」、そう思い始めたらキリがない。悲嘆にくれ、ついに高ぶった感情が体の中で収まりきらなくなり、爆発した。
「うわああーん、ボク、カレーが食べたいよ~」(滂沱)
●家族で寿司屋に来たら、カレーを食いたいと泣き叫ぶガキ。川に捨てられないだけでもありがたいと思わねばならぬ。寿司屋の大将とその奥さんに、両親は平謝り。それでもガキは泣き喚く。寿司がイヤかといえばそうでもないだろうが、もはや泣くことが自己目的化したガキに論理は通用しない。他の客におかまいなしに、延々と泣き続けた。
●ところが、不意にあるはずのない解決が訪れた。大将の奥さんが店の奥から、カレーライスを持ってきてくれたのである。これにはさすがにガキも驚いた。どうして寿司屋にカレー。疑問を抱きつつも、急におとなしくなってカレーを食べた。ウチのカレーとは少し違う、でもおいしいカレー。あのカレーは奥さんが慌てて作ってくれたのだろうか、それとも寿司屋の家でも日曜はカレーと決まっていたのだろうか? 今でも寿司を食べるとワタシは思い出すのだ、あの辛くて甘いカレーのことを。
February 12, 2007
寿司カレー伝説
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