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February 24, 2007

王様と私 - 友人、時には敵そしてマネージャーだった私が栄光の王座に就いたパヴァロッティの私生活を修正なしで公開する

パヴァロッティをきっと好きになる●いかん、翌日予定が詰まっているというのに、止められなくて朝まで本を読んでしまったー。「王様と私 - 友人、時には敵そしてマネージャーだった私が栄光の王座に就いたパヴァロッティの私生活を修正なしで公開する」読了(副題長いよ)。ハーバート・ブレスリン&アン・ミジェットの著、相原真理子訳(集英社)。パヴァロッティのマネージャーが、まだ初々しい好青年だった無名のパヴァロッティとの出会いから、35年間ともにキャリアを築き、そして契約を解消するまでを綴っている。というと暴露本かと思われるかもしれないが、そんなんじゃないんだよなー。非常に優れた読み物。
●本のなかでパヴァロッティはたくさん醜態を晒している。スターになるにつれてワガママが度を越してきて、マネージャーとの関係はまさに「王様と私」。ほとんどガルシア=マルケスが書きそうなラテン・アメリカの小国の独裁者みたいなふるまいをする。気まぐれで、迷信深くて、でも気前はいい。そのあたりのエピソードは無数に出てきて、どれもおもしろい。しかも、読んでるうちにだんだんパヴァロッティが好きになってくる。書き手がとにかく上手い。
●お金の話もずいぶん開けっぴろげに書かれている。アーティストとマネージャー、オペラ・ハウスの関係がどんなふうになってるか、よくわかる(たとえばマネージャーの受け取りはオペラなら出演料の10%、リサイタルなら20%だとか、毎月の依頼料をアーティストから受け取るとか受け取らないとか)。メトの出演料は上限が1万5000ドルって決まってて、パヴァロッティだろうとドミンゴだろうと、大スターはみんなこの金額上限張り付きになるっていうんすよ。「一公演でそんなに稼ぐのか」と思ったらおおまちがい。この金額はパヴァロッティ側としては諸経費も考えるとあってないようなもの。稼ぐのはオペラじゃなくて圧倒的にコンサートのほう。2回目の三大テノールのときは各人各社入り乱れての壮絶な契約交渉の末に、おそらくギャラは200万ドルには達したとか。金額のスゴさっていうより、仕事の仕方、仕組みっていう点で興味深かった。
●そもそもこれは「パヴァロッティの本」じゃなくて、「音楽マネージャー、ハーバート・ブレスリンの本」。興行主視点で見たビジネスの世界が魅力的なのであって、ある意味「プロジェクトX」。この種の本には悪徳マネージャーみたいな著者像が期待されるかもしれないけど、ワタシは職業人としての純粋な情熱みたいなものを感じて、しまいには「あー、オレも音楽家のマネージャー、やってみたかったな!」とか思ってしまうくらいだった(←きっと一日で音を上げる)。ハーバート・ブレスリンはいっしょに仕事したらきっと耐え難いほどヤなタイプだと思うんだけど、でも「本気で自分のアーティストを売る」ってのはどういうことなのか、あちこちで目ウロコだった。やっぱり「仕事とは他人の需要を満たすもの」だな。あとブレスリンが根っからのオペラ好きだったからありえた関係だったってこともよくわかる。

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