●この試合をどれだけ熱くなって観戦したか、想像がつくだろうか。ゴールが決まったときに挙げた雄たけびは半径256mにわたって響き渡った。ワールドカップの決勝だってこんなに熱心に見ない。ワタシは血の一滴までオマーンサポとなって観戦した。間接リヴェンジを果たすために。あのオーストラリアだかオーストラリーだとかいう宿敵を、アジア・カップの予選グループで敗退させるために!
●アジアのチャンピオンを決める大会は4年に一度のアジア・カップ。今回はインドネシア・マレーシア・タイ・ヴェトナムの共同開催。これまでオセアニアに属していたオーストラリアがアジアに「移籍」してきた。オセアニアという連盟自体は存続している。「オセアニアからオーストラリアを除いたら、それはもうオセアニアじゃないだろう」という疑問もなくはないが、決まったものはしょうがない。オーストラリアはアジアの一員になった。そんなことができるのなら、ニッポンもアジアからヨーロッパに移籍したいものである。
●なので、これまではアジアの強敵といえばイラン、サウジアラビア、韓国あたりだったわけだけど、そこにほとんどのメンバーがヨーロッパ(特にイングランド)で活躍するオーストラリアが入ってきた。マーク・ヴィドゥカとかハリー・キューウェルみたいなイングランドで活躍するスター選手たちがフツーにアジア・カップでプレイするという現実。ここはどこ? どうしてタイでキューウェルが走ってるの?みたいな。エマートンとかブレシアーノとか、欧州での小野伸二やナカタの同僚もいる。
●で、それにオマーンが戦うんすよ。オーストラリアがレベルの差を見せつけてオマーンをサンドバッグ状態にするかと心配してたんだけど、全然そうはならない。ムチャクチャに蒸し暑いみたいで、キックオフ直後から「走ったら負け」みたいな雰囲気、お互い慎重すぎるくらい慎重。これまで中東勢がアジアの戦いで「フィジカル勝負で絶対的に劣位に立たされる」なんてことはなかったと思うんだけど、オマーンは体を張ってよく守っていた。基本戦略はニッポン相手のときと同じで、カウンターアタック狙い(と時間稼ぎ)。オマーンですばらしかったのは12番の選手。アーメド・ムバラクって読むのかな、ヌワンコ・カヌを連想させるような体躯と技術に恵まれた選手で、中盤の後ろで守備もするし、攻撃になるとボールを持って攻めあがれる。ボール支配率はオーストラリアのほうが高いんだけど、シュートまで持っていけるのはオマーンという展開で、ついに前半32分、ゴール前で細かくパスをつないで8番のバダール・ムバラクがゴール、オマーンが先制! ワタシはワールドカップのオーストラリア戦を思い出しながら咆哮した、Gooooaaaaaaaaal!と。
●オマーンは先制するとどんどんと時間を空費させる。いかに相手をイライラさせるかということにかけては百戦錬磨で、バタバタとピッチのあちこちでオマーン選手が倒れて時計の針を進める。ボールの運び方もうまい。オーストラリアはもう監督がヒディングじゃないのに、あの頃と同じバ×戦略を採ってきた。負けてるときは攻撃の選手をどんどん入れるというアレ。ワールドカップの日本戦と同じように、ケイヒル(思い出したくもない名前である)やアロイージ(同左)を投入。おかげでオマーンのカウンターのチャンスも増えて、追加点の決定的なチャンスが2回はあった。これを決めておけば試合は終わったのに。
●祝杯の用意をしかけたロスタイム、また忌まわしいあれが起きたんすよ。オーストラリアの同点ゴールが。悪夢の予定調和が。決めた選手の名前は……あろうことか、ケイヒルだ。この屈辱。もうワタシにはオマーンが日の丸背負ってるようにしか見えない。1-1。ケイヒルの派手なガッツポーズ。あー、ワラ人形ってどこで買えばいいのかなあ。ワラと五寸釘を近所のホームセンター行って調達してこようかな。ケイヒルの綴りはCahillで合ってる?
●バダール・ムバラクのゴールとケイヒルのゴールと、90分でこんな熱狂と落胆を味わえるのなんて、スゴいことっすよ。ホント、アジアカップ見るしか。オーストラリアは残りの試合でタイとイラクが相手。もうオーストラリアの決勝トーナメント進出は決まったも同然、きっとみんなそう思ってる。ワタシもそう思ってる。でもタイがオーストラリアを3-0で一蹴する可能性はないのか。少なくとも、そう夢見る権利はある。タワン・スリパンが25mのフリーキックをマーク・シュウォルツァーのゴールに叩き込み、スチャオ・ヌトナムが華麗なドリブルで攻めあがりターサック・チャイマンがゴール、ダッサコルン・トングラオのクロスボールを再びタイの英雄チャイマンがゴールして3-0。全世界のカンガルーたちはうつむきながら呟く、「これがサッカーさ」。そんな夢を。
July 9, 2007