●「外国人から見た日本人論」っていう切り口なら勘弁してくれー、と軽く警戒心を抱かせる書名だったのでなかなか読む気になれなかったんだけど、実は猛烈にサッカー知のつまった本であった、大腿四頭筋にモリモリと力を込めながら断言する、傑作と。「日本人よ!」(イビチャ・オシム著/長束恭行訳/新潮社)。
●「オシムの言葉」がイビチャ・オシムという人物の物語を書いたものだとすれば、「日本人よ!」はオシムがサッカー観を語ったもの。インタヴューや記者会見で「そこもう少し突っ込んだ話を引き出してくれないかなー、でもテレビじゃムリだよなー」って感じる物足りなさが一挙に解消された。日本人は一対一に弱いとかよくいうけど、オシムはごく当たり前のことを言ってくれる。「60キロの選手が90キロの選手とぶつかったら、一対一で負ける」。笑。じゃあ、どうするか、とか。
●目ウロコだったのは、オシムが学校の部活サッカーをポジティヴに評価してるってこと。ヨーロッパには存在しない、ああいう制度があるおかげで、クラブは下部組織から選手を育成するという大きな負担をある程度免れることができるっていうんすよ。欧州型クラブ組織が理想と思い込んでるニッポンのサカヲタ(ワタシのことだ)は驚く。でもクラブ視点で見れば納得の行く話。Jリーグのクラブは清水商業や筑波大学から選手を獲得しても、移籍金をこれらの学校や大学に支払う必要がない。無料で才能を育ててもらってる。
●あと、非フットボールな話になるけど、「リスペクトする」って意味。これをワタシは誤解していた。頭の中で「尊敬」と自動的に置換してたが違うんである。他者をリスペクトするってのは本質的にどういうことか。オシムによれば「リスペクトとはすべてを客観的に見通す」という意味だと。あっ、そうか。respectっていうのは aspect の re なんだな、と。
●サッカー選手という職業について語られた部分がすばらしいので引用しておく。
多くの選手は、ある時期にプロとしてプレーし、栄光の瞬間を味わい、試合に勝利し、カップを手にし、カメラに写り……、すべての想い出の品は家の中だ。選手はサッカーで多くのものを失い、18歳から30歳までの時期も失う。本質的には、その時期は人間にとって人生でもっとも美しい時期であるにもかかわらず、だ。
だからサッカー選手なんてろくなもんじゃない、っていう話ではない、もちろん。