●週末に録画しておいたNHK-BSの「フィガロの結婚」、冒頭の10分くらいだけ見る。ザルツブルグ音楽祭の公演でアーノンクールが指揮。アンナ・ネトレプコがスザンナを歌っている。とっくにDVDで発売されていたと思うけど、映像を見たのは初めて、そして猛烈に驚愕。
●っていうのは、この公演、ネットラジオなら生中継がある!ていうので、ワタシは夜中にPCにかじりついて聴いてたんである。おおリアルタイムでザルツブルクの公演がウチの古いPCで聴ける、みたいな感動をしばし味わい、で寝落ちした、深夜すぎて。あまりに悔しいので、バルトークラジオのアーカイブから中継を拾ってきて、翌日以降携帯プレーヤー(ていうかホントはICレコーダー)にこれを突っ込んで堪能していた。うわ、アーノンクール、スゴい、なにこれ、みたいに。ワタシの頭の中にはギョロリとした眼で歪にテンポを動かしながらウィーン・フィルを操るパワフル老巨匠の図ができあがっていて、そこに舞台が存在するっていう当然のことすら忘れてた。
●そしたら、こんなカッコよさげな舞台だったのか!と自分で勝手に描いてた想像図とのあまりのギャップに驚いたんである。クラウス・グートの演出、頭良すぎ。って最初の10分しか見てないのにナンだが(笑)、でも無言の狂言回しらしき「天使」が舞台にいる時点でこりゃ何事だと思わされるし、最初の場面、スザンナとフィガロが「この部屋、ヤな感じ」「どうして? 伯爵に近くて便利じゃない」「でも伯爵があなたのいない間にこの部屋に押しかけてきたら?」とか歌ってる間に、フィガロの死角でもう扉から伯爵があらわれて、すでにスザンナとの情事がはじまっていることを示唆するのって、どうっすか。ホント、冴えてるよなー。あと、モノクロームを基調にした衣装なんかもステキすぎる。
●で、どっちが本物なのか、とか一瞬悩んだ。去年音だけで聴いたネットラジオの音源と、このNHKのテレビ放送と。劇場の舞台で見えるものが本物とするなら当然後者だけど、前者も自分的には確固とした実在で、むしろなじみ深い。映像で見るザルツブルク音楽祭の上演のほうがファンタジーって気もする。ネトレプコみたいな容姿の女中がいるかよってことじゃなくて、これだけキャストがそろってて、演出の切れ味が鋭くて、こんな指揮者とオーケストラが劇場に集うっていう、全世界でDVDが発売されるような公演は、少なくともウチから半径100km圏内には実在しない。「引越し公演ならありうる」とかいうのはそれはまた別口別ジャンル異種格闘技みたいな話であって、やっぱりファンタジーだと思った。
●どうして10分しか見てないかといえば、今月新国立劇場で「フィガロの結婚」があるわけで、これに行くか行かないかを迷い中であり、もし行くとなった場合、そんなファンタジーみたいな舞台で予習したくないんである。そりゃなんか違うだろう、と。でも行かないかもしれない。スザンナ役のラウラ・ジョルダーノはキャンセルになった。行くか、行かないか。迷っている間が一番楽しい。てのはウソ、真っ赤に。
October 10, 2007