October 12, 2007

「トリスタンとイゾルデ」ベルリン国立歌劇場

ワーグナー●NHKホールでバレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場来日公演、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」を。クリスティアン・フランツ(トリスタン)、ワルトラウト・マイヤー(イゾルデ)、ルネ・パペ(マルケ王)。ハリー・クプファー演出。豪華。
●少し前に20世紀フォックスの映画「トリスタンとイゾルデ」ってあったじゃないっすか。マークって呼ばれてるシブいオッサンがいて、誰かなあと思ったらマルケ王のことだったってヤツ(笑)。もちろんワーグナーの楽劇とは筋が少々違うんだけど、でもあれはあれでためになったかも。っていうのは、クラヲタ的には「トリスタンとイゾルデ」伝説ってワーグナーばっかりで知っちゃうわけだけど、このオペラにはプロットらしいプロットがない。幕が開いた時点で、実は話の大半はもう終わっている。どういう由来でトリスタンはイゾルデと出会ったのかといった前史はもっぱらセリフで説明されるだけで、オペラは大きな物語のクライマックスだけを拡大鏡で見せて丹念に描く。トリスタンがマルケ王に寄せていた主君への忠義がどのようなものであったかを、ワタシらは舞台上で目にすることはできない。だからそのあたりを視覚的に見せてくれるあの映画はそれなりによかったのかもな、と思ったんすよ。あ、映画そのものとしてはオススメしたいタイプじゃないんだけど。
●で、このハリー・クプファー演出は、トリスタンとマルケ王の関係を強調しているんだけど、そのあたりも「トリスタンとイゾルデ」という二人の短い関係よりも、「トリスタンとマルケ王」の二人の長い関係について、舞台に描かれていない物語を想起しながら見るとよく伝わってくる。トリスタンとマルケ王の愛、嫉妬、裏切り、赦し。フツーに「トリスタンとイゾルデ」を見ると、第3幕のマルケ王が唐突じゃないっすか。「媚薬ゆえのことと知ったので、お前を許す、トリスタンとイゾルデは結婚してオッケー」って言ってくれるんだけど、そんなので許されるなら第2幕まではなんだったのさ、どうしてブランゲーネはきちんとマルケ王に事情を説明してあげなかったんだよー的な疑問がわいて。今日、ワタシのなかでは、それはブランゲーネはトリスタンとマルケ王の愛を許せなかったからだと勝手に了解することにした。毒ではなく媚薬を飲ませたのも、そのため。事件の主犯はブランゲーネ。あと、クルヴェナルも怪しい男だとにらんでいるのだが、それはまた別の機会に。
●今後、どこかの製薬会社が媚薬を開発して市販することになったら、商品名はイゾルデ、ないしはブランゲーネだな。あ、毒薬と媚薬は違う色に着色しておいたほうが、安全管理上なにかとよいと思うぞ→イゾルデ母。
●舞台は簡潔で、3幕を通して中央にドーンと天使の像があって、それがぐるぐる回るスタイル。ただし天使は打ちひしがれ、地に伏している。大体こんな感じで。
_| ̄|○
天使もいろいろと大変である、と(違うだろ)。地上に堕ちた天使ということなのか。
●終演後、もっとも盛大な拍手を受けていたのはルネ・パペ。オーケストラの響きもすばらしくて堪能。しばらく頭のなかで「愛の死」がグルグルとローテーション確実。でも一番好きなのは第3幕のド頭かな。ラブ夜の国、グッバイ昼の世界なほんの一瞬。

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