●この「グレン・グールド27歳の記憶」の映像で好きなシーンなんだけど、グールドが友人との会話中にウェーベルンに話題が及んで、相手が「ウェーベルンが内気な音楽だ」と言ったら、突然ピアノを弾き出して「これのどこが?」って反論するシーンがあるじゃないっすか。で、グールドはこう言う。「内気な音楽ってこういうのを言うんだよ」。シューベルトの交響曲第5番の冒頭を弾きはじめる。
●このシューベルトを弾く場面がおもしろい。だってシューベルトは山のようにピアノ曲を書いているし、特に後期のピアノ・ソナタなんて、どれも聴いても耐えがたいほど内気な音楽じゃないっすか。だから、この場面はピアノ・ソナタ第21番とかを弾くのが自然だと思う、ピアニストなんだから。それなのにわざわざ交響曲を弾くのも変わってるし、しかもそれが第5番、シューベルトとしてはかなり例外的な明るい音楽だってのも可笑しい。
●シューベルトのなにが苦手かっていえば、その鬱々とした内気さなんだけど、それがツボがハマったときの破壊力はすさまじい。ああ、永遠にこの鬱陶しい気分に浸っていたい、時を忘れてネガろうよ、みたいな。ってのが今年の「ラ・フォル・ジュルネ」における自分的発見と期待。
February 14, 2008