●いよいよ、出ました。片山杜秀の本(2)ということで「音盤博物誌」。前作「音盤考現学」は、吉田秀和氏に「近来の快著」とまで絶賛された。その第2弾、おもしろくないはずがない。いや、まだ手にしたばかりなのだが、なんと、初版限定で「袋とじ」付録が付いている! 久しぶりだな~、袋とじの本って。中身は「カタヤマモリヒデの作り方」と題された片山氏のトークセッションを収めたものなんだけど、小見出しに「本を目方で買う男」とかあって笑ってしまった。
●で、本編は「レコ芸」連載「傑作!? 問題作!?」をまとめたものだ。100回あった連載(8年以上続いた長寿連載だった)の後半を収録。前作同様、その切り口は実に鮮やか。ナタリー・シュトゥッツマンが歌った「冬の旅」の回についての大見出しが「生産しない女」(笑)。まず小見出しを「インドの中心で生産を叫ぶ」と掲げて、芥川也寸志の「エローラ交響曲」から論じる。続いて「欧州の中心で非生産と叫ぶ」として、このアルトが歌う「冬の旅」を解題する。あちこちの見出しを拾い読みしただけで楽しくなる本などめったにない。
●博覧強記によって一見無関係に見える事柄にも文脈を創造的に与えてゆく。これが批評というものだろう。
2008年5月アーカイブ
「音盤博物誌」(片山杜秀著/アルテスパブリッシング)
ニッポンvsパラグアイ@キリンカップ2008
●録画観戦しようと思っていたが、帰宅してうっかりブラウザ開いたらYahoo!のトップページに結果が。さすがに国内の代表戦を結果バレせずに見るのはムリ。でもまあ、キリンカップだからいいか。続くワールドカップ予選が本番。
●なので低めテンションで見た、代表戦。先発は前の試合からまたガラリと変わって、元のメンバーに戻ったという印象。キリンカップで一通り試すということなのか。俊輔が入るとみんな俊輔を頼りにする。中盤はいい選手が過剰にそろってて、俊輔はもちろん必要として、遠藤と鈴木啓太がいないということも考えられないだろうし、中村憲剛も必要だ、せっかくの海外組だから松井大輔と長谷部も使いたい、山瀬功治は監督のお気に入り、呼ばれてないけど稲本も……とかカウントしてると中盤だけで11人そろいそうで意味レス。
●オーバー30にして代表デビューの寺田周平。高さがあるっていい。阿部勇樹が右サイドバック。左サイドバックに本職右サイドバックの選手を回していかなきゃいけないとすると、右にセンターバック調の選手を使うのもありうる選択なのか。攻撃的で上下に運動量の多い右サイドバックは豊富にいるので、近年のニッポン代表では珍しいケース。左サイドバックはコートジボワール戦に続いて長友佑都。前の試合より自信にあふれていたように見えた。
●W杯予選がたいへん厳しい状況になっているだけに、キリンカップの結果が優勝だと聞いても全然落ち着かない。試合結果は0-0。お尻モゾモゾ感、とても大。
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※ 右側にあるMyBlogListが昨日からずっと表示されないのは、ドリコムRSSのファイルサーバーの故障のため。復旧に当初の予想よりもはるかに時間がかかっている。ここはどうしてこんなにトラブルが多いのか、謎。→ ドリコムRSSからのお知らせ
光速セーゲルスタム面
●休暇終了。本日より平常モード。
●備忘録。今年モスクワで行われたチャンピオンズ・リーグ決勝の表彰式では、スッペの「軽騎兵」序曲のファンファーレが使われていた。表彰式までは毎年見てないからよくわからないのだが、なぜスッペなのかはよくわからず。来月はじまるEURO2008は決勝がウィーンだから、むしろそちらで使われそうな曲という気もする。
●at the end of the dayさんのところで知ったニュース。レイフ・セーゲルスタム、ついに大台の交響曲第200番に到達!! Fimicの作品表ではまだwork in progressと表示されているが、交響曲を200曲以上手がけた作曲家をほかに知らない。どれくらいのペースで書いているかというと、今年だけで交響曲第191番から交響曲第200番までの10曲を作曲中。仕事が速いぞ。昨年2007年は、交響曲第174番から交響曲第190番(標題が"UFO, Under F & Over..."。日本で売り出すなら後半はワザと無視して「UFO交響曲」だな)までの17曲を書いている。60代の現在も量産ペースは衰えない。仮に誰かが(ていうか本人しか考えられないが)セーゲルスタム交響曲全集を録音することにしても、録音より創作のほうが先に進んでいきそうな勢いなわけで、全集完結は光速で遠ざかる事象の地平面のように遠い。
●長生きして交響曲第1000番まで書くに10エリクサー。
ニッポンvsコートジボワール@キリンカップ2008
●やや厳しくなってきたワールドカップ予選の直前に、キリンカップ2008。二昔前くらいはキリンカップは世界の強豪と戦える貴重なチャンスという認識だったんだけど、その後日本サッカーと世界のサッカーが地続きになったので、ニッポンが圧倒的に有利なコンディション差で戦う試合だってことがわかってきた。Jリーグはシーズン真っ最中だけど、欧州はもうシーズンオフに入っている(でもだから欧州組を遠慮なく呼べるが)。相手のコートジボワールは来日してまずもう一つの参加国パラグアイと試合をしている。それから中一日(!)の日程で、万全のニッポン代表と戦わなければならない。しかもコートジボワールはドログバ、ヤヤ・トゥーレ、カルーといった主力7人ほどを欠いた、監督言うところの「ほぼBチーム」。
●にもかかわらず、スゴかったなあ、コートジボワールのプレッシャーは。ニッポンが何度かバックパスをかっさらわれて大ピンチになったのも、相手のプレスの強烈さゆえ。レベルの差を痛感してしまった。実質的にはJリーグと欧州トップリーグの差みたいなものだから、嘆いてどうなるものでもないが。あ、でも試合はニッポンが勝った。1-0。玉田のゴール。
●ニッポン代表のメンバーは前回の危機的敗北もあってか、がらりとメンバーが変わってた。川口能活、阿部勇樹、鈴木啓太、山瀬功治、中村憲剛、高原直泰、巻誠一郎といった選手たちが全員ベンチに座ってた! ピッチ上にいたのは、楢崎正剛、駒野友一、トゥーリオ、中澤佑二、長友佑都(デビュー)、今野泰幸、遠藤保仁、松井大輔(→香川真司デビュー)、長谷部誠、玉田圭司(→矢野貴章)、大久保嘉人。松井と長谷部の海外組は日頃レベルの高い環境でプレイしてる感ありあり、とはいえチームとしてポジションを与えられるかどうかは微妙。長友佑都はまだまだ伸びるだろうし、未知。ただ長友にしても本来右サイドバックの選手を左サイドで使っているわけで、かつての駒野と同パターン。本当に左利きのネイティブ左サイドバックが出てこない、ニッポンは。加地亮が代表引退したから、駒野はますます右に定着するんだろう。
●平成生まれの香川真司はセレッソ大阪の選手。若さでもJ2所属という点でも大抜擢。この試合だけではどんな選手かよくわからず。
●ニッポン代表の選手はほとんどがJリーガーで、ごく一部が欧州のクラブに所属する。コートジボワール代表の選手はもちろんほとんどが欧州のクラブに所属する……のだが、一人Jリーガーがいた! 10番のドゥンビアは徳島ヴォルティスの選手なのだ! 両方の代表チームにJ2の選手がいて、ともに途中出場したという密かなピンポイントJ2対決。代表戦史上初かも!?
チャンピオンズ・リーグ決勝~マンチェスター・ユナイテッドvsチェルシー
●まず先にリアル業務連絡を一件。明日23日(金)より26日(月)まで休暇を取ります。この間、ケータイはほとんどつながりません。メールは可。(←これ誰に向かって書いてるの?)
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●(以下、結果バレあり) さて、チャンピオンズ・リーグ決勝である。なんと、イングランド勢同士の対決になってしまった。同国対決だとなんとなく国内リーグっぽくって萎える……と思ってたら。今回の決勝はモスクワ開催ではないですか!
●度を超したお金持ちといえばロシア人。チェルシーを2003年に買収したのはロシアの石油王、ロマン・アブラモヴィッチ。もうこの時点で話ができすぎてる。だって石油王で名前が「アブラモヴィッチ」っすよ。どんな設定だよ! チェルシーは負債が約160億円あったといわれるが、それをあっさり返済して、ポケットマネーでガンガンと有名選手を買いだした。まさにリアル「サカつく」、男のロマン、ロマン油モヴィッチ。純資産20兆円とかって、もう天文学的で想像つかない。
●「そんなカネの力で強くなれるほどサッカーは甘くない」と言いたいところだが、チェルシーはどんどんと強くなって、今年ついにチャンピオンズ・リーグ決勝へ。その舞台がオーナーの母国ロシアなんだから、まるでチェルシーがモスクワに凱旋帰国したみたいな錯覚を覚える。イングランド対決なのに。
●相手のマンチェスター・ユナイテッドにも最近アメリカ人富豪による買収があったけど、もともと伝統のある強豪だし、実態は知らないがワタシらから見ると、チェルシーの顔はオーナーのアブラモヴィッチなのに対して、マンチェスター・ユナイテッドの顔はアレックス・ファーガソン監督って気がする。「サー・アレックスの帝国」に新興金持ちクラブが挑むみたいな感じ。アレックス・ファーガソンのイメージは「父」だな。
●特にどちらが好きというわけでもないけど、リーグ優勝を逃したチェルシーのほうをなんとなく応援して観ていた。あ、もしかしたらクリスチャーノ・ロナウドが嫌いなだけかも。あと、マンUは準決勝で貢献してくれたパク・チソン(元京都サンガ)をどうしてベンチにも入れなかったのか謎(負傷ではない)。ワタシがパク・チソンならふてくされて藁人形作るな、アレックス・ファーガソンの。
●試合はずっと拮抗してたけど、1-1に追いついた後はチェルシーが押し気味だったと思う。ポストとバーに当たったシュートが1本ずつあったし、シュート数も断然チェルシーが多かった。でも終わってみるとポゼッションはマンUのほうが高かった。かなり早くから足を攣る選手が続出。芝の関係なのか? 延長に入ってからは消耗戦になったが決着が付かずにPK戦へ。
●ワタシのなかではクリスチャーノ・ロナウドは悪役なので(現在世界最強ミッドフィルダーだとしても)、ヤツがPKを外した時点で、アブラモヴィッチのロマンは完璧なエンディングを迎えると思った。クリスチャーノ・ロナウド(ふん、ロナウドと言ったらブラジルの9番だ、意地でもクリスチャーノをいちいち頭に付けるぞ)以外の選手は全員決めて、後はチェルシーの5人目、ジョン・テリーが決めればジ・エンド。その蹴る直前の瞬間に、カメラがチェルシーの選手たちをとらえたんだけど、みんな頬が微妙に緩んで、顔に祝福の準備ができてますって感じになってたんすよ。ワッってみんなで走るぞ、と。
●そしたら、アレですよ、思い出すジーコ・ジャパンのアジア・カップ。試合途中から土砂降りになってた雨で芝が緩んでて、ジョン・テリーの軸足がズルッって滑った。軸足が滑ってるのに、フツーに蹴れる選手はいない。これが外れて4-4になった。いったん勢いが逆流すると、もう止まらない。サドンデスになって、アネルカが外して(だが誰もがアネルカを忘れ、ジョン・テリーを記憶する)、マンチェスター・ユナイテッドが優勝。クリスチャーノ・ロナウドが安堵のあまりマジ泣き。
●ロマン・アブラモヴィッチは何を思っただろうか。ここまでお膳立てができてて、この仕打ち。サッカーの神様は底意地が悪い。ずっとジョン・テリーの左足に狙いを定めて待ち構えていたにちがいない。でも今年また原油価格は上がったみたいだから、まだまだアブラモヴィッチは買えるはず。何を買えばいいのかはわかんないけど。
ピアノやヴァイオリン、フルートなど
●その名を口にするのも忌まわしいアレ。スパムだ。最近はプロバイダ側でスパム・フィルタを使ってメールを分類してくれる。たぶんメール中の全ワードにスパム確率のスコアを与えて統計処理する方式で、たいへん正確に判別してくれる。ワタシの場合、プロバイダ側でのスパム判定基準は念のためゆるめに設定しておいて、ここでスパムに分類されたメールは、基本的にゴミ箱直行にしている。
●が、先日ギクッとしたのですよ。めったに見ないけど、たまたまプロバイダ側のスパムメール一覧を見たら、
件名:ピアノやヴァイオリン、フルートなど
っていうメールがあるではないですか。しまった、誤分類してしまったのか!
●と、慌てて中身を開けると、その本文は見事に「出会い系」で、ピアノもヴァイオリンも一切出てこない。これ、なんらかの方法で相手にあわせた件名を自動生成しているのかなあ? なかなか鋭い攻撃だ。でもスパム・フィルタを欺くことはできなかったようだ。
●今、だいたい一日に1000くらいっすね、スパムメールの件数は。もはやタイトルだけ見ることも不可能。「メールはもう終わってる」っていう人が出てくるのも不思議じゃない。終わってるどころが、ワタシは全面的に依存しているわけだけど。
『愛しのグレンダ』~「クローン」(フリオ・コルタサル著)
●フリオ・コルタサルの短篇「クローン」はこう始まる。『愛しのグレンダ』所収(野谷文昭訳/岩波書店)。
何もかもがジェズアルドを中心に回転しているみたい。あの人にあんなことをする権利があったのかしら、それともあれは妻に対する逆恨みだったのかしら。リハーサルの合間に一息つこうとホテルのバーへ降りる途中、パオラがルーチョとロベルトを相手に議論を繰り広げ、他の連中はカードゲームに興じたり、自分の部屋へと上がっていく。当然のことをしたまでだ、とロベルトが主張する、あの当時だろうと今だろうと同じこと、妻に裏切られたので彼は妻を殺した、まさにタンゴだよ、パオリータ。
●登場するのは8人の合唱団員たち。「ジェズアルドを中心に回転しているみたい」というだけあって、この不貞の妻を殺した作曲家にちなんで、合唱団員には不協和音が生まれ、男が女を殺す。それだけの物語だ。話がはじまってすぐに、たどりつくべきゴールは見えている。
●しかしこの音楽小説にはもう一つ仕掛けがある。コルタサル自身が本編の直後に種明かしをしてくれるのだが、この短篇はバッハの「音楽の捧げもの」を鋳型として厳密に構成されているというのだ。8人の合唱団員はそれぞれフルート、ヴァイオリン、オーボエ、チェンバロ……といった8つの楽器にそれぞれ一対一で対応している。三声のリチェルカーレ、無限カノン、同度カノン、反行カノンと、「音楽の捧げもの」に沿って登場人物があらわれ、物語が進行する。したがって、冒頭に引用した一節、これが有名な「フリードリヒ大王のテーマ」ということになるわけだが、どうだろうか。
●しかし短篇そのものが21ページに対して、作者による作品解説は7ページほどある。説明してもらわなければ作者以外には絶対に誰一人としてわからないという「音楽の捧げもの」仕様。そりゃわかるわけない。だって「音楽の捧げもの」には一意の楽器指定がないから、5人でも6人でも演奏できるし、8人っていうのはたまたま作者コルタサルがお気に入りのレコードがそんな編成だったというだけのことなんだから。楽屋落ちもいいところだが、でも晩年のこの作品を書いた時点ではすでにコルタサルは大家だったから、なんでもありだ。選んだ作曲家がジェズアルドとバッハというあたり、技巧の人だったんだろうなと思う。
週末フットボールパラダイス不敗神話終了編~横河武蔵野FCvsMIOびわこ草津
●ここのところ冴えない天気が続いていたが、本日の東京はようやく五月晴れ、またしても行ってきましたご近所フットボール、横河武蔵野FCvsMIOびわこ草津。JFLすなわちJ1、J2の下にある日本の3部リーグ。なんと横河武蔵野FCはここまで11試合戦って無敗、JFLのトップを走るという好調ぶり。個人能力で相手を圧倒するというようなチームではないので、一見そこまでの強さは感じられないんだけど、組織的な(そして粘り強い)守備力や走力で勝ってきた、おそらく。
●この日、スタジアムに集まった観衆は745名。JFLとしては盛況。内、キッズが70名(推定)。天気がよいこともあって、キックオフの時点からすでに芝生席でゴロゴロと転がって遊ぶ子供あり。花を摘んで楽しんでいる女の子もいる。ハーフタイムになる頃にはすっかり試合観戦に飽きた子供たちがさらに猛然と遊んでたりするが、そこに気を取られてピッチ上の出来事を見逃してはいけない。この競技場にはオーロラビジョンとかそういうものは一切ない。帰宅してスポーツニュースを見てもゴールシーンは出てこない。JFLは生がすべて、ゴールを見逃すな!
●しかしゴールはなかなか生まれないのだ。前半、横河武蔵野は中盤の選手が早くも2枚目のイエローをもらって退場。相手のMIOびわこ草津は何人か非常に足元のしっかりした選手がいて、こうなると向こうのポゼッションはぐっと高まる。ただそれでも横河武蔵野は守るだけではなく、あくまでも点を獲るという姿勢で戦ってくれたし、後半途中までは豊富な運動量で一人少ないことを感じさせなかった。いくつか相手ディフェンスを崩した決定機もあったんだけど、キーパーの堅守に阻まれたりで得点できず。
●そしてお互いの足が止まってきた終了間際になって、カウンターをくらって失点。さすがに前半から一人少ないのは厳しかった。0-1。武蔵野不敗神話が終わる。負けたのは残念だが、退場者が出たために不利な戦いを強いられたのであって、内容は悪くなかった。今のままのサッカーを続けてほしい。12試合で8失点という守備の堅さはリーグ一、一方得点は18でかろうじて中位という水準で、チームカラーははっきりしている。
●やっぱり芝の上にレジャーシート敷いて見るサッカーはいいな~。日産スタジアムのマリノス戦とは対極で、ますますあの巨大スタジアムから足が遠のく。が、そうは言っても負けてどっちが悔しいかといえばマリノス戦であって、今週末はどちらも負けてしまったのだ。ああ、京都戦の美しすぎるオウンゴール……。
僕たち「海外組」がホンネを話した本(秋元大輔編著)
●最近読んだサッカー本でいちばんおもしろかったのがこの本。『僕たち「海外組」がホンネを話した本』(秋元大輔編著/東邦出版)。「海外組」のインタビュー集なんだけど、中田ヒデとか中村俊輔が出てくるわけじゃない。その代わり、世界にはこんなに「海外組」がいたのかと思うほど、いろんな選手や元選手が登場する。メジャーなところでは日本からパラグアイ、メキシコ、スペインと渡り歩いている福田健二とか、ポルトガル、フランスに渡って帰国した広山望とか。あ、城彰二もいるか。オランダに行ってた平山相太とか。でも世界はもっと広い。
●たとえばリトアニア・リーグでUEFAカップ予備予選にも出場した経験を持つ竹中穣(知ってた?)。いったいどうやったら日本のサッカー選手がリトアニアでプロになるかと思うでしょ。大学出てイングランドに行ったわけですよ。で、まずは3部リーグあたりに履歴書を送ったりする。でもクラブから声がかからないから、街で草サッカーする。どんどん街に草サッカー仲間が増えて、知り合いだらけになる。そしたら知り合いにサッカークラブの下部組織のコーチがいて、事情を説明したら代理人を紹介してくれた。その代理人がリトアニアのクラブの話を持ってきたから、ぜんぜん知らない国に渡って選手になった、と。そういう信じられないような話だらけ、この本は。
●デンマーク・リーグでプレイした橋本卓、ポーランド、ルーマニア2部リーグ、カメルーン(!)、イタリア2部と渡り歩く直川公俊、シンガポール、オーストラリア、マレーシア2部を経由してJリーグに帰った石田博行……。ヒデや俊輔の話よりもずっとおもしろいに決まっているではないか。和久井秀俊の話もおもしろかったなあ。アルビ新潟シンガポールでプレイして、代理人に紹介されてスロヴェニア2部に移籍、そこで活躍して今度はオーストリア2部を紹介されて移籍。オーストリアじゃ助っ人外国人としての扱いだからプレッシャーが半端じゃなくて、負けると道を歩いていても文句を言われるし、サポーターから後ろから殴られたこともあったという。それにしても、こういう下部リーグの世界でもちゃんと代理人ビジネスが発達してるってのにも感心させられる。
●あ、やたらマイナーなところに注目してしまった。メジャーなところもありますよ。名古屋で現在大活躍中のヨンセンとか。ノルウェー・リーグを語ってくれるんだけど、ベテランだから味わい深いことを言ってくれるんすよ。「プロの条件は、人生で全力を尽くすこと。そしてもっとも大切なことは、どんな状況でも楽しむこと」とか。逆説的に言えば職業人の世界は楽しいことばかりじゃないってことを言っている。だからこそ楽しむことがいちばん大事であるという話。
シカゴ響とiTunes Store
●遅ればせながら自分メモも兼ねて。2010/11シーズンより、リッカルド・ムーティがシカゴ交響楽団音楽監督に就任。ていうか、歴代音楽監督の名前を見てて思ったんだけど、バレンボイムって1991年から2006年までいたのか。ショルティの22年にはかなわないにしても、バレンボイムで15年っすよ。そんなに長かったという気がしないのは、新譜が減って身近じゃなくなったのか、単に自分が歳をとって対人生比で一年の長さが相対的に短くなっているだけなのか。
●シカゴ響には自主レーベルCSO Resound がある。ハイティンクのマーラー3番、マーラー6番、ブルックナー7番、チョン・ミョンフンのショスタコ5番他。もうすぐムーティのスクリャービン「法悦の詩」&「ボレロ」他もリリースされる。CSO Resoundは日本のiTunes Storeでも買えるんだけど、どれもiTunes Plus(著作権管理技術なしのファイル)になっているのが購入者フレンドリーですばらしい。チョン・ミョンフンのショスタコ5番はiTunes版のみでCDでは販売されていなかったと思うんだけど、にもかかわらず、ちゃんとジャケとDigital Bookletが用意されているのはさすが。
●でも残念な点。iTunes StoreでCSO Resoundの一覧を検索する方法がわからない。CSO Resoundで検索しても一点しかヒットしない。どうしてパワーサーチの検索項目には「レーベル」という概念がないんだろう。そんなものを必要とするのは圧倒的な少数者ということなんだろか?
空回りするネタ帳
●最近知ったこと。KIHACHIのソフトクリームのバニラにはオレンジが入っている。
●「シューベルトってスナフキンだと思うんすよ。『さすらい人』とか言ってて、友達の家を転々として、定住せずに家族も持たない、でもそのくせウィーンに生まれてウィーンに死んでて、旅人の割にはめったにウィーンの外に出かけなかったじゃないですか。スナフキンも音楽を愛する旅人だけど、そういいながらもいつもムーミン谷にいるでしょ。……えっ、もうシューベルト祭は終わった? ああ、そうかあ。そうだよなあ。じゃあ次はカツラを脱いだバッハの本当の髪型で行ってみようか。あ、でもそれ前にもうやったな!」
METライブビューイング「連隊の娘」
●METライブビューイングでドニゼッティの「軍人たち」……じゃないや、「連隊の娘」を見てきた。品川と迷った末にMOVIX昭島へ。ニューヨークのメトロポリタン・オペラの最新の公演をシネコンで超高画質映像で上映。生中継とはいかないが、現地4月26日の公演をもう見られるんだから、「既存のDVDを上映しました」っていうのとは本質的に違う。今シーズンはこの「連隊の娘」でおしまい。基本的に上映日が各劇場2日間(日曜と月曜午前)しかないので、うまく日程を合わせないと見逃してしまう。
●で、この「連隊の娘」なんだけど、スゴかったですよ。ありえない楽しさ。オペラなのに(?)腹の底から笑えた。ナタリー・デセイのコメディエンヌぶりは完璧だし(もちろん歌も)、ファン・ディエゴ・フローレスのハイC連発の「友よ今日は何て楽しい日」では観客総立ちになるし、演出(ローレン・ペリーっていう人)はどこをとっても「間が持たない瞬間」ってのががなくて、どんな小さな場面にもお客を楽しませるためのサービス精神とアイディアに溢れていた。とても贅沢な娯楽に接したという満足感あり。「笑い」の質は、最上の「ドリフ」とか「吉本新喜劇」と同じくベタなものなんだけど、だからこそ非凡な演出と役者がそろってはじめて可能なんだと思う。
●幕間でルネ・フレミングがマイクを持って登場して歌手にインタビューしてて、そこでシュルピス役のアレッサンドロ・コルベッリとベルケンフィールド侯爵夫人役のフェリシティ・パルマーが二人で登場したんすよ。で、こんな感じのことを話していた、「コメディは真摯に演じれば自然におかしくなるようにできている、わざわざ笑わそうとする必要はない」「そうそう、まったく同感だね」みたいな。すばらしい。
●オペラで唯一なにかイヤかといえば、コミカルな役の歌手が滑稽な動きとかおどけた仕草で安い笑いを取りに来た瞬間。生まれてこの方ブーイングなどしようと思ったことがないという寛大な人でも、この種の「笑いの強要」に対しては思わず前の座席の背中をガツガツと蹴り飛ばしたくなるんじゃないか(えっ、そんなことない? )。たとえばおどけた役だからクネクネと内股歩きをしたら笑ってもらえるかな~、みたいな、そういう安さ。しかも悔しいことにそんなので客席がウケたりして、それどころかカーテンコールで客席がわいて「儲け役」みたいになってたりして、もうそういうときにワタシの気分はドン底。おどけた役はマジメに演じたほうがおかしいし、シリアスな役がおどけると笑える。歩くだけで笑わせられるのは、モンティ・パイソンの「シリー・ウォーク」だけだよ。
●なので、本気で笑えるメトの「連隊の娘」に気分爽快。演技と台詞で笑わせ、歌で感動させる。見事すぎて、ほとんどファンタジー。
●来シーズンの予告がここに乗っている。劇場で上映されたものと同じ予告編動画あり、画面は小さいけど。
映画「NEXT ネクスト」(リー・タマホリ監督)
●むむ。土曜日、雨が降ったのだ。この日、ワタシは横河武蔵野FCのホームゲーム観戦を予定してたのだが、雨となればやむをえない、欠席だ。雨が降ったらお休みで、風が吹いたら遅刻する、ご近所サッカーとはそれくらいのユルさで付き合いたいものである……。
●とスルーしたところ、横河武蔵野FCはJ準加盟の栃木SCを1-0で撃破、なんと11試合戦ってJFLで唯一無敗である。順位も首位に。ど、どういうことだ、この強さは。そこまでの事態は考えていなかったのだがなあ。
●映画『NEXT ネクスト』を観た。ニコラス・ケイジ主演、リー・タマホリ監督。原作はフィリップ・K・ディック、と書いてあるのだが、これが笑ってしまうほど原作とは無関係。原作とされる短篇「ゴールデンマン」とは、「予知能力者が出る」という以上の接点はまったくなく、わざわざP.K.ディック原作と断る必要はないのだが、それでもディックの名をクレジットしておいたほうがなにかと良いということなのか。謎。
●フィリップ・K・ディックは1982年に53歳で亡くなっている。Yahoo! Movieのインタビューで、ニコラス・ケイジが主人公をマジシャンと設定することについて「原作にはない設定だが、ディックもこのアイデアに賛成してくれたよ」と話しているが、どこかでだれかがまちがえたんだろう。ディックの小説は生前一度も映画化されることがなかったのに、死後ものすごい勢いで映画化されている。ざっと挙げてみよう。左が映画のタイトル、右が小説のタイトル。
『ブレードランナー』~「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
『トータル・リコール』~「追憶売ります」
『スクリーマーズ』~「変種第二号」
『クローン』~「にせもの」
『マイノリティ・リポート』~「少数報告」
『ペイチェック 消された記憶』~「報酬」
『スキャナー・ダークリー』~「暗闇のスキャナー」
『NEXT ネクスト』~「ゴールデンマン」
最初のリドリー・スコットの『ブレードランナー』こそ伝説的な名作になったが、それ以降の冴えなさぶりがスゴい。キャストはかなり豪華なのに、ちっともヒットしない。今回の『NEXT ネクスト』もまちがいなくヒットしないし、早く映画館に行かないと打ち切られてしまいそうな感じ。
●ちなみに『NEXT ネクスト』がどういう話かというと、「2分先を予知できる」という特殊能力を持ったニコラス・ケイジが、世界を核戦争から救うべく協力を乞われるが、世界の危機に立ち向かうという話のはずが、いつの間にか主人公の恋の行方にドキドキする話に変貌して(ありがち)、最後にジャイアント・スウィング級の豪快なオチが付くというワケのわからなさ。このオチに憤慨する人、多数。
●でもな、ワタシはこのオチ、嫌いじゃない。それどころか映画そのものを大いに楽しんだ。観終わった後は「あ~、2分先が予知できたら、あんなことやこんなことをやるのにな~、いやそれともあれをこうして……」と中坊並みに妄想力が大爆発。そもそも上記のディック原作の映画、楽しめなかったものはどれひとつとしてない。原作に忠実かどうかなんて無関係。ああ、どうしてみんな『NEXT ネクスト』をつまんないとかトンデモ映画とか「話のつじつまが合っていない」とかって言うんだろう。「2分先が予知できる」って「空を飛べる」とか「指先からクモの糸が飛び出る」とかより、ずっとワクワクする設定じゃないっすか!
ラ・フォル・ジュルネ金沢で買い損ねたもの
●ラ・フォル・ジュルネ金沢の売店で「これは買うしか!」と思った音楽祭公式特製スウィーツ「ラ・ドゥース・ジュルネ」(甘美な日々)。あの辻口博啓パティシエによる「和素材とフランス菓子のアンサンブル」っすよ。金沢は和菓子王国だから、きっと「熱狂のきんつば」(by中田屋)とか「ベートーヴェン長生殿」(by森八)あたりがあるかな~と予想してたら、時代はずっと先に進んでいた。
●で、最終日にお土産に買おうと思ったら、完売御礼。演奏会のチケットも完売、スウィーツも完売、ついでになぜかベートーヴェン・ワインも完売だった。すげえ。
●でも「熱狂のきんつば」があってもよくない? あのマークが入ったヤツ。モナカでも可。
祭の後。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009は「バッハとヨーロッパ」
●ついにラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008、終了。まず来年のテーマについて。記者発表直後の公式レポートにあるように、次回のテーマは「バッハとヨーロッパ」。すでに2月のナントでは来年のテーマがオフィシャルに発表されていたので、東京もバッハ絡みになるということは予測されていたわけだけど、どれくらいバッハの前後左右に広がるのか(時間的空間的に)ってのがこれである程度イメージできるかと。マタイやヨハネみたいな長い曲をどうするのかとか、5000人のホールでできる演目に何があるのかとか、あれこれ思うわけだが、大変楽しみなテーマである。テレマンやラモーらのバロック音楽、ストコフスキによるトランスクリプション、バッハの息子たちあたりに期待大。
●で、今年の「ラ・フォル・ジュルネ」を振り返ってみると、シューベルトでホントによかったなと改めて思う。シューベルトって孤独で暗い音楽だし、たくさん聴くと心が病んできそうな気がしてて、去年までは数少ない敬遠する大作曲家の一人だった。でももう大丈夫、というか健やかに病む術を見つけたというか。2月のナント以来、CDも含めて大量摂取して、抗体ができた。おかげで好きな作曲家の仲間入り。ピアノ・ソナタあたりはまだまだ聴き足りないくらい。
●5月1日にプレナイト、2~3日は東京国際フォーラムに詰め、4~5日はラ・フォル・ジュルネ金沢、再び6日に東京国際フォーラム。公式レポートと並行して、この間ほぼ毎日OTTAVAの出演があり、金沢では地元局MROのラジオにもおじゃまして、やたらしゃべっていた気がする。石川県立音楽堂の前でケータイで現地レポートをOTTAVAのスタジオに届ける回がいちばんヘンだった。一人だけで立ってて、マイクもイヤフォンもない状態でただケータイに向かって「はーい、こちらは金沢駅すぐそばの石川県立音楽堂の……」とかしゃべってるんだから、怪しさ全開。
●肉体的疲労度もピークに達して、もうぐったり。でも楽しかった。期間中、ご挨拶いただいたみなさま、お仕事でお世話になったみなさま、ありがとうございました。
●目先の仕事を片付けたら、一日横になってぐうたら読書でもしたい。
今日から「ラ・フォル・ジュルネ」
●いよいよ「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」がスタート、昨夜レセプションに出て、プレナイトのレネゲイズ・スティール・バンド・オーケストラを聴く。ナントではシューベルトしかやってくれなかったんだけど、東京では彼ら本来の音楽(なんて呼べばいいのかわからない)もやってくれて驚く。本来こういう団体だったのか。衣装もカラフルなTシャツで蝶ネクタイのナント仕様とはぜんぜん雰囲気が違う。OTTAVAにも顔を出す。いや、声か。今日は初日じゃなくてまだ0日目。なのに、なんだかもう初日を終えたような気がする。謎。
●で、この連休中は「ラ・フォル・ジュルネ」公式レポート等々あり、ゴールデンウィークでもあるので、当欄も不定期更新に。これから数日は以下に出没。
「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」公式レポート
OTTAVA(インターネットラジオ)
ラ・フォル・ジュルネ金沢
結果バレしてデリート
●昨日夕方、飯田橋駅の新聞売り場の前で「オマイガッ!」と叫びながら(心の中で)、眉間に皺を寄せて絶望的な表情を浮かべていた男、それはワタシだ。そう、昨日当欄で書いたじゃないか。マンチェスター・ユナイテッドvsバルセロナの結果バレしませんように、って。「でもムリかなー、駅売りのスポーツ新聞の見出しとか、目に入りそうな予感」とか書いたら、正真正銘真実本当にその通りになってしまったですよっ! ああ、まさか東スポでチャンピオンズリーグ準決勝の結果を知ってしまうとは。「プレスリーはまだ生きていた!」とか「UFOが北朝鮮に着陸!?」みたいな見出しならよかったのに。フツーにマンチェスター・ユナイテッドvsバルセロナの結果出てるし。しかも望まざる結果。その場でゴロンとフテ寝したくなった、だがしない、決して。ここ駅だし。
●さらば、今年のチャンピオンズリーグ。試合はハードディスク内でビットの塵に。