●METライブビューイングでドニゼッティの「軍人たち」……じゃないや、「連隊の娘」を見てきた。品川と迷った末にMOVIX昭島へ。ニューヨークのメトロポリタン・オペラの最新の公演をシネコンで超高画質映像で上映。生中継とはいかないが、現地4月26日の公演をもう見られるんだから、「既存のDVDを上映しました」っていうのとは本質的に違う。今シーズンはこの「連隊の娘」でおしまい。基本的に上映日が各劇場2日間(日曜と月曜午前)しかないので、うまく日程を合わせないと見逃してしまう。
●で、この「連隊の娘」なんだけど、スゴかったですよ。ありえない楽しさ。オペラなのに(?)腹の底から笑えた。ナタリー・デセイのコメディエンヌぶりは完璧だし(もちろん歌も)、ファン・ディエゴ・フローレスのハイC連発の「友よ今日は何て楽しい日」では観客総立ちになるし、演出(ローレン・ペリーっていう人)はどこをとっても「間が持たない瞬間」ってのががなくて、どんな小さな場面にもお客を楽しませるためのサービス精神とアイディアに溢れていた。とても贅沢な娯楽に接したという満足感あり。「笑い」の質は、最上の「ドリフ」とか「吉本新喜劇」と同じくベタなものなんだけど、だからこそ非凡な演出と役者がそろってはじめて可能なんだと思う。
●幕間でルネ・フレミングがマイクを持って登場して歌手にインタビューしてて、そこでシュルピス役のアレッサンドロ・コルベッリとベルケンフィールド侯爵夫人役のフェリシティ・パルマーが二人で登場したんすよ。で、こんな感じのことを話していた、「コメディは真摯に演じれば自然におかしくなるようにできている、わざわざ笑わそうとする必要はない」「そうそう、まったく同感だね」みたいな。すばらしい。
●オペラで唯一なにかイヤかといえば、コミカルな役の歌手が滑稽な動きとかおどけた仕草で安い笑いを取りに来た瞬間。生まれてこの方ブーイングなどしようと思ったことがないという寛大な人でも、この種の「笑いの強要」に対しては思わず前の座席の背中をガツガツと蹴り飛ばしたくなるんじゃないか(えっ、そんなことない? )。たとえばおどけた役だからクネクネと内股歩きをしたら笑ってもらえるかな~、みたいな、そういう安さ。しかも悔しいことにそんなので客席がウケたりして、それどころかカーテンコールで客席がわいて「儲け役」みたいになってたりして、もうそういうときにワタシの気分はドン底。おどけた役はマジメに演じたほうがおかしいし、シリアスな役がおどけると笑える。歩くだけで笑わせられるのは、モンティ・パイソンの「シリー・ウォーク」だけだよ。
●なので、本気で笑えるメトの「連隊の娘」に気分爽快。演技と台詞で笑わせ、歌で感動させる。見事すぎて、ほとんどファンタジー。
●来シーズンの予告がここに乗っている。劇場で上映されたものと同じ予告編動画あり、画面は小さいけど。
May 13, 2008