●メリクリ! 近所中で電飾がやたらと外に向かって明滅している、年々と激しくなり夜道が眩しい。
●新宿のバルト9で見てきたUKオペラ@Cinemaの「カルメン」。最近映画館でやたらとオペラを見てる気がする。このUKオペラ@Cinemaはソニーが配給するLivespireの一環で、オペラをデジタルシネマとして映画館で上映してくれるという企画。ロイヤル・オペラおよびグラインドボーン音楽祭で上演された舞台が対象で、現時点で発表されているのは4演目。まずはビゼー「カルメン」ではじまって、モーツァルト「フィガロの結婚」、フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」と続く。
●ワタシが見た「カルメン」は昨年のロイヤル・オペラでの公演で、パッパーノが指揮、フランチェスカ・ザンベッロが演出。カルメンがアンナ・カテリーナ・アントナッチ、ドン・ホセがヨーナス・カウフマン。主役に限らず全体に役柄に無理のないルックスの歌手が演じていて、しかも演出が非常に説得力があるというか、オペラ的お約束に頼らずにドラマをきちんと描き出していて、実にリアルな愛憎劇になっていた。特にヨーナス・カウフマンのホセは最高。1幕のマジメな伍長さんぶりと、最後の惨めで未練たらしいダメ男ストーカーっぷりとの対比がとても鮮やか。刺殺シーンとか、「やっぱこう来るよなっ!」と妙に納得。
●あと、ミカエラ(ノラ・アンセレム)の感じが悪いのもいい(笑)。このオペラで最大の性悪はミカエラだといつも思うので。あんた、ホントに田舎のホセのお母さんと会ってるの? 田舎の素朴な少女であることを特権的に利用しようと企む油断のならない女。カルメンよりずっと怖い。
●第1幕の前奏曲の後半、音楽が悲劇を予感させる部分で、舞台上にはすでにボロボロになったドン・ホセが捕まっている。覆面をした執行人がドン・ホセを引き連れる。つまり、これからはじまる舞台は、今まさに死刑を執行されようとするホセの思い出なのだ。残されたほんのわずかな生の時間で、初めてカルメンシータに出会ったあの日から今に至るまでのことを走馬灯のようによみがえらせたのだろう。これは苦い。でも物語中でも「カルタの場面」で示されるように、カルメンとホセの行き着く先は死しかない。
●「METライブビューイング」と似たように、開幕前にパッパーノが簡単な案内をしてくれたり、休憩中に予告編とかグラインドボーン音楽祭の紹介ビデオなんかが流れたりするのがフレンドリー。東京だけではなく、意外と地方都市でも上映されるみたいなので、リラックスしてオペラを観たいという方にはオススメ。生の舞台ともDVDとも違う、別種の楽しみがあると思う。ちなみに「ジュリオ・チェーザレ」は少し古くて2006年の舞台なんだけど、これはあのグラインドボーンでダニエル・デ・ニース(ドゥ・ニース)が歌ってるヤツっすね、ウィリアム・クリスティ指揮OAEの演奏で。
UKオペラ@Cinema上演スケジュール
http://www.livespire.jp/opera/schedule/index.html