●文庫になったサイモン・シンの科学ノンフィクション「宇宙創成」(新潮文庫)を読書中。上巻を終えてそろそろ下巻なんどけどこれはヤバい。ページを読み進めるのがもったいない。
●同じサイモン・シンの「フェルマーの最終定理」や「暗号解読」も最強に強まった名著だったんだが、今回は内容が宇宙論(単行本では「ビッグバン宇宙論」という書名だった)。前著に比べると、「聞いたことのある話」が多くなるんだけど、にもかかわらず猛烈におもしろい。最終的にはビッグバン宇宙論の話になるはずなんだろうけど、まず古代ギリシャの話からはじめちゃう。彼らの時代の観察力で、どうやって地球の大きさを正しい方法論で測定したのかっていうことからスタートする。
●スゴいんすよ、古代ギリシャ人の科学は。太陽が地球を回ってるんじゃなくて、「地球が太陽を回っている」という真理にたどり着いちゃう人すらいる。でもそんなのが受け入られるはずはなくて、それから千五百年以上も経ってようやくコペルニクスが登場し、地球が太陽を回っているという説を教会を恐れながら発表する。でもこれもほぼ無視され、その後ケプラーやガリレオが「地球が太陽を回っている」ことをいかに観測と理論によって実証したかといったことを、これ以上はないというくらいわかりやすく説明する。
●で、サイモン・シンが非凡なのは、最初に「地球の大きさをどう測るか」とか「太陽が地球を回ってるんじゃなくて、地球が太陽を回っていることをどうやって証明するか」といった、ワタシらの直感や常識の範疇で理解可能な話題で読者に十分準備させておいて、上巻の半ばにはもうアインシュタインの特殊相対性理論を同じくらい鮮やかに説明しちゃう。「光の速度は一定」というところからスタートして、「静止している人と運動している人では時間の流れ方が違う」という結論を指し示し、さらに一般相対性理論における重力理論の正しさをどうやって観測によって証明するかを綴る。まるで古代ギリシャにおける「地球のサイズの測り方」の話をするように。
●あ、でも、わかりやすさじゃないか、本当にスゴいのは。楽しさだな。自然科学そのもののワクワクするような楽しさ、それに魅了された人々を、生き生きと描く。たまに挿まれるユーモラスなエピソードも大変に吉。あと、たぶん、本をおもしろくするために「不要な話をしない」という割り切り方も優れているんだと思う。
February 16, 2009
「宇宙創成」(サイモン・シン著)
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