●これは抜群のおもしろさ。「素顔のカラヤン ~ 二十年後の再会」(眞鍋圭子著/幻冬舎新書)。サントリーホール・エグゼクティブ・プロデューサーであり、かつてカラヤン来日時のコーディネイト兼秘書役を務めた著者が、巨匠との出会いから別れまでを回想するという一冊。時代としては1975年から89年まで。描かれるカラヤンの人物像や知られざるエピソードはたいへん魅力的である。でもそれだけではない。今とは違うかつての華やかな「業界」の姿だったりとか、人と人の縁がもたらす運命の味わい深さであるとか、新書一冊にいろいろな読みどころがつまっている。ベースとなっているのはカラヤンに対する深い敬慕の念。気持ちよく読める。
●現メトロポリタン・オペラ総裁のピーター・ゲルブが、コロンビア・アーティストの一員として出てくる場面があって、これが結構可笑しい。今はあんなに大物なのに、昔はこんなこと言ってたんだ、とか。
●あと、有名な来日公演での「振りまちがえ」事件。えーと、これは84年の大阪か。R・シュトラウスの「ドン・ファン」を振るはずなのに、カラヤンはゆっくりとした静かな曲を振ろうとしてオケが「???」になった。このときは他の日の公演曲の「ダフニスとクロエ」とまちがえたんじゃないかみたいなことが音楽雑誌に書かれていたのを憶えているんだけど、本当はチャイコフスキーの交響曲第5番だったという。降り番だったコンサートマスターのミシェル・シュヴァルベが、棒を見て断言した、と。で、なぜカラヤンがチャイコフスキーの5番と思い込んだのかという点についても書かれていて、これにはすごく納得してしまった。なんていうかな、思い込みの怖さっていうか、小さな誤りには気づくけどあまりに大胆な勘違いだとそのままスルーみたいな感じ。若い人でもありうる。
August 7, 2009
「素顔のカラヤン」(眞鍋圭子著)
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素顔のカラヤン 20年後の再会 眞鍋圭子著 幻冬舎刊・幻冬舎新書138 ISB... 続きを読む