●読んだ。「イー・イー・イー」(タオ・リン著/河出書房新社)。これ、前に「ユリイカ」かなにかで訳者の山崎まどかさんが原書を紹介してるのを見て気になってたんだけど、表紙もすばらしいじゃないすか。で、なんの小説かっていうと、そうだなー、高学歴フリーター無気力青春小説っていうか。
●主人公アンドリューはニューヨークの大学を出たけどドロップアウトして今は地元のドミノピザで働く若者。恋人いない、カネない、未来ない、希望ない、意欲ない、やることない。そんな虚無的な主人公がひたらすネガティヴ思考にまみれながら、元恋人の不在をグチってみたり、しつこくジュンパ・ラヒリを恨んだり(作者はなにか私怨でも持ってるのか?)、ただ拗ねて投げやりになっているだけという小説。たとえばこんな感じ。
「バットマンも落ち込んでりゃいいのに」アンドリューは言った。「バットスーツのままで一日中ベッドにいるんだ。そういう映画ねえかな」
「そうだね」とマークは言った。「アルフレッドが抗鬱剤入りのスムージーを毎朝持ってくるんだよな」
「ロビンはテレビを見て酔っ払ってるんだ」アンドリューは言った。「奴のセリフは、”俺の職業、酔っ払い”とかそんな感じ。そんでバッドマンが洞穴に隠れているところが映るんだ。バットマンが神経質そうに眉間に眉を寄せるクローズアップがいいな」
●笑。あと、熊とかイルカとかヘラジカが出てくる。熊はやたら厭世的で、イルカはセレブを殺すバイオレンス野郎。題名の「イー・イー・イー」はイルカの鳴き声から。物語性というほどのものはないし、じゃあポストモダンかというとそれもどうかなって気がする。この逆ボヘミアンな虚無感はある意味若者だけの特権とも言えるので、青春小説にはちがいない。オススメ……いや、どうかなあ?