●名作の新訳っていいっすよね、光文社古典新訳文庫だけじゃなくて。古い日本語が今の日本語に生まれ変わることでバージョンアップするっていうのもいいし、同じ作品に複数の翻訳があるっていうのも、「名作オペラをどの演出で見るか」みたいなもので大いにありなはず。あと昔の活版印刷で小さな活字でびっしりページが埋め尽くされていたのが、今時のゆったりした読みやすい組版になるっていうのも吉。というか必須。あの、創元推理文庫の復刊フェアとかで、中身の組版やり直さないで昔のままになってるパターンってあるじゃないっすか、あれはもう読めない、字が小さすぎて(←これ若者には意味不明)。
●「日はまた昇る」(ヘミングウェイ/高見浩訳/新潮文庫)からの一節。舞台はパリ。
「ねえ、ジェイク」彼はカウンターに身をのりだした。「きみはこういう感じに襲われることはないかな。人生は着実にすぎ去っていくのに、自分はその果実を存分に摘みとっていない、という? 人生の半分近くをもう生きてしまったんだ、って感慨に打たれることはない?」
(中略)
「だからどうだというんだ、ロバート。くだらんよ、そんなこと」
「ぼくは真剣なんだ」
「おれは気にしないね、そういうことは」
「気にしたほうがいいよ」
「おれだって、いろんなことを気にした時期があったさ。しかし、それはもう卒業したんだ」
「でも、南米にいきたいな、ぼくは」
「なあ、ロバート、どこか外国にいったって、何か突破口が開けるわけじゃないぞ。そういうことはみんな試してみたんだ。ある場所から別の場所に移動したって、自分自身から逃れられるわけじゃない。何の役にも立ちゃしないって」
●「自分探し」、不滅だな。しかもこの人たちアメリカからパリに渡ってきてこんな話をしてるし。みんな旅人であり永遠の中田ヒデ。