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November 20, 2009

「カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記」(上)

●うっ。イェフィム・ブロンフマン、新型インフルエンザのため来日中止。本日トッパンホールに行く予定だったのだが残念。
カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記(上)「カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記」(アレクサンダー・ヴェルナー著/音楽之友社)。下巻が出るのはまだ先ということらしいので、待たずに上巻を読んだ。「ついにクライバーの伝記が!」というワクワク感半分、「えーと、誰がクライバーの伝記を書けるんでしょか……」的な不安半分と。で、どうだったかといえば、これは非常におもしろい。特に後半から勢いよく読めて、止まらなくなった。
●書いてる人はクライバーの身近にいた人ではない、たぶん。ジャーナリストなんである。だから、クライバーをよく知る人々、彼の人生にかかわってきた人々に徹底的に取材をするという手法で伝記を書いている。その取材量は膨大で、特に電話インタビューが中心なんだけど、記述について事細かに巻末の注釈でその典拠となる取材ソースを明示する。したがって、物語性豊かな書き方ではない。でも淡々と事実を重ねるだけでも、クライバーの人生は驚きの連続だから、十分読み物になる。
●おもしろいエピソードは無数にある。これは「上巻」だから、あまりにも偉大だった父エーリッヒとの複雑な関係というのももちろん大きいし、「ステージママ」的な母親との関係の微妙さとか、若い頃のクライバーが文学を志して小説を書いていたこととか、意外と駆け出しの頃は周囲にクライバーの才能を認める人が少なかったこととか(彼に才能がないと断言する人が何人もいた。テノールのルドルフ・クリストから「君は引っ込み思案でいる限り、頭角を現すことはできないよ」と忠告された話も印象的だ)。ミュンヘンに来る前、シュトゥットガルト時代の記述も、ブレイク前夜の天才の話として非常に興味深かった。あとは彼が自筆譜と印刷譜を比較してスコアを徹底して研究していたこととか。そういう彼の方法論と、実際に出てくる正統性を超越した音楽とはかけ離れているように聞こえるんだけど、ホントはどこかでつながっているんだろうか……。

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