●ワールドカップ予選プレイオフのフランス対アイルランドのゴールをめぐってゴタゴタが続いている。問題の決勝ゴールはアンリのハンドから生まれた。アンリがボールを手に当てて止めて、クロスボールを入れ、ギャラスがゴールを決めた。主審がアンリのハンドを見逃したため、アイルランドはワールドカップに出場できなくなった。フランスはラッキーだった。
●で、怒りの収まらないアイルランドは再試合を要求し、FIFAはこれを却下。アンリは自身の偶発的なハンドを認め、一番フェアな解決方法は再試合だと言っている。
●まず気の毒なのは主審。これで主審失格だというなら人類は主審なしでサッカーをやるしかなくなる。あの程度のハンドの見逃しは毎週のようにどこかで起きてるだろうし、大事な場面で誤審が起きることも含めてサッカー。アンリも批判の矢面に立たされているようだが、故意のハンドには見えないし、笛が吹かれるまで選手がプレイを続けるのは当然のこと。
●じゃ、再試合すればいいかというと、ワタシは反対だな。「ハンドがあったから再試合」という前例ができたらどうなるか。ビデオを確認した結果、「決勝点は明らかなオフサイドだったのだから再試合」という例も出てくる。であれば「オフサイドと判定されたが本当はオフサイドではなかったら再試合」という主張もありだろう。「ペナルティエリア内で明白なファウルがあったにの主審はPKを取らなかったので再試合」もありだとすれば、欧州主要リーグは毎週何試合もの再試合要求を受け入れることになる。
●でもそんなことは現実にはムリだから、誤審に応じて再試合をするかどうかは、個別試合ごとに舞台裏の政治的な駆け引きで決まることになるだろう。そうなったら、もうそれはサッカーじゃない。見えないところでどんな力学が働き、誰のどんな権力が行使されるのか、されないのか。それはこの社会そのもの、現実以外のなにものでもない。その現実から遠く旅立つためにワタシたちはスタジアムに通っている。自分たちでわざわざ構築したファンタジーを単なる現実に貶めてどうする。
●ロビー・キーンは「フランスのW杯出場でプラティニもブラッターも大満足だろう」って皮肉ってるが、待てよといいたい。たとえばもし誤審のおかげでアイルランドが出場権を獲得した場合、プラティニやブラッターの力で再試合が開かれたとしたら(そしてその逆の場合はなにも起きないとしたら)これは最悪のスポーツになる。そんな権力の暴走を防ぐには、ハンドだろうがオフサイドだろうが、試合結果は覆らないというルールを守るしかない。
November 23, 2009
非・神の手
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