●『「ジャパン」はなぜ負けるのか ~ 経済学が解明するサッカーの不条理』(サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー著/NHK出版)読了。おかしな書名が付いているので危うく見逃すところだった(著者にサイモン・クーパーの名が入っていなかったらきっとスルー)。この本は「書名」を無視して「副題」のほうに注目すべきなんである。ニッポン代表のことは一章が割かれているだけで、全体としては「サッカー」と「統計」について述べている。そう、「経済学」というより正しくは「統計」。そして、サッカーと統計について興味がある人間なら、この本を狂喜して読むことになる。ずっと前から気になっていた、いろいろな疑問の答えがズバリ書いてあるんだから!
●以前この欄で、野球界に統計学的な手法を持ち込んだ男について書かれた「マネーボール」をご紹介した。あれ、最高だったでしょ。で、この「ジャパンはなぜ負けるのか」は明らかに「マネーボール」に触発されて書かれた本なんである。「マネーボール」のサッカー版が書けないか。そう著者は考えたはず。
●ただ、「マネーボール」は統計的手法でメジャーリーグを席巻した球団についての実話だったのに対し、「ジャパンはなぜ負けるのか」のほうは、そのような成功譚がいまだサッカー界では少なくとも顕わになっていないためか、著者による分析が主体となっている。もちろん、読み物としてすらすら楽しく読めるように書いてある。数式なんて出てこない。だから読んで楽しめばいいわけだ。でもあなたやワタシはただ読むだけでは満足しないだろう。答えだけでも書き留めておきたい。っすよね? だから、この本に書かれてあるもっとも重要な統計的事実を以下にいくつか拾ってみよう。
i) 1872年から2001年までの189ヶ国、22,130試合の代表チームの結果を集めた数学者ラッセル・ジェラードのデータベースを重回帰分析した結果から。
ホームチームは一試合あたり2/3ゴールの優位を持つ。
国際試合の経験が対戦相手の2倍あると、一試合あたり0.5ゴール強の優位を持つ。
国の人口が対戦相手の2倍あると、一試合あたり0.1ゴールの優位を持つ。
人口、所得、経験の3要素で、その国の得失点差の1/4強の説明力を持つ。
ii) 著者シマンスキーが1974~1994までのイングランドのクラブの監督数百人を分析したところ、選手時代の成績と監督としての成績の間には相関関係がなかった。
iii) 著者が1978~1997年のイングランドの40クラブについて分析した結果から。
移籍金に費やした金額はリーグ順位とわずか16%しか相関関係がない(移籍市場は非効率的)。
年俸総額はリーグ順位と92%もの相関関係を持つ(年俸市場は超効率的)。
iv) イングランドのサポーターについて
サッカーファンの内、1シーズンに1試合でもスタジアムで試合を見る人は約5%。
観客の「年間死亡率」(あるシーズンにスタジアムで試合を見た人の内、翌シーズンにスタジアムに来なかった人)は50%。
(つまり、イングランドのサポーターが熱心で忠実というのは、メディアから生まれた幻想だと言っている)
●これらは本書で述べられている興味深い事実のほんの一部。そしてこのなかでもっとも重要なのは、国際試合で「ホームチームは一試合あたり2/3ゴールの優位を持つ」だろう。2/3ゴールというのはムチャクチャな優位だ。キックオフ時点でホームチームは0.67点ほどリードしているわけだ。これでアウェイが勝つのは至難。ワールドカップ開催国が今までに一度も決勝トーナメントに進めなかったことがないというのも道理か。
●ただ、これは国際試合の統計だ。ワタシの理解では、通常のリーグ戦ではこれほど極端なホームアドバンテージはない。少なくともJリーグにはない。ワタシは自分で軽く調べたことがあるのだが、Jリーグではホームのチームが1試合あたり0.25~0.3ゴール程度の優位しか持っていなかった……と思う。元データが手許に見つからずうろ覚えではあるんだけど。