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2010年9月アーカイブ

September 30, 2010

エンリコ・オノフリ・リサイタル

エンリコ・オノフリ・バロック・ヴァイオリン・リサイタルへ(東京文化会館)。存分に満喫。今回はこれまでのオノフリの来日公演とは違って、彼のリサイタル。これまでだってヴァイオリンを弾く機会はもちろんあったんだけど、指揮者の役割を担っていたから、アンサンブルと組み合わさって何が起きるかわからない、ものすごくステキなことが起きるかもしれないし、思ったよりもすれ違うかもしれないしで、毎回が予測の付かない未知の体験だった。でも今回はそうじゃない。気心の知れた共演者と、得意のレパートリーを弾く。ウッチェリーニ、コレッリ、ヴィヴァルディ……。リラックスしてひたすら楽しんだ。
エンリコ・オノフリ「驚愕のバロック・ヴァイオリン」●びっくりしたのは彼の風貌。このCDのジャケでも十分衝撃的だったのに、本人はさらにこの写真よりも痩せていた! いやー、最初に東京国際フォーラムで目にしたときには丸々とした感じだったのに、いまや修行僧並み。でもスリムになったのは外見だけで、音楽は変わらず豊潤でアグレッシヴ、ときには幽玄で融通無碍。ため息。
●この日のプログラムで異質だったのがバッハ「トッカータとフーガ」ヴァイオリン独奏版。これはCDで聴いたときも思ったけど、トッカータの冒頭がオルガンで知る荘重厳粛で少々威圧的な性格とはまるで違って聞こえて、さりげなくふと湧き出てきましたみたいに響く。ヴァイオリン原曲説がどうかは別としても、よほどこちらのほうがバッハらしく感じる。
●あっという間のように感じたけど、2時間強あったんすよね。楽しい時間が過ぎるのは早い。

September 29, 2010

ベルリン・フィルDCH昨シーズンのメモ~その1

●もう新シーズンが開幕してしまったが、ベルリン・フィルの定期演奏会有料配信デジタル・コンサート・ホール(DCH)の昨シーズンについて、以下自分用備忘録として。一部未見、全体としては大満足。以下、新しい順に遡って。ホントにメモでスマソ。
●2010年6月。ラトルがウィントン・マルサリスの「ジャズ・シンフォニー」を指揮。会場は盛り上がっていたようだが、自分にはあまりになじみのない音楽で、どうにもならず。知らない外国語で読まれた詩みたいなものか。
●6月。ブロムシュテットが指揮。ベートーヴェンの三重協奏曲とブルックナーの6番。先日来日してN響でブルックナーを振ったときもあったんじゃないかと思うが、なんとベルリン・フィルでもブロムシュテットに対する「一般参賀」が起きた。長老名指揮者とブルックナーは似合いすぎる。「一般参賀」って最初にだれが言い出したのかわからないけど、ホントに秀逸な表現っすよね。ドイツのクラヲタは「一般参賀」のことなんていうのかなあ?と思ったが、よく考えたらフツーに「ソロ・カーテンコール」相当の言葉で済む気が。ていうか日本人以外には意味不明だし→「一般参賀」。
●5月。指揮はキタエンコなのだが、主役はソリストで登場したホルンのバボラーク。バボラークはベルリン・フィルを辞めてしまって、しばらくDCHで姿を見ることがなかったのだが、ソリストとして帰ってきた。グリエールのホルン協奏曲を吹いた。もう神業の域では。オケもいつも以上の集中度。バボラークはすごく幸せそう。アンコール2曲を吹いて、オケが下がった後も独り舞台に残ってもう一曲さらに吹くという珍しいシーンが見られた(まだ前半なのに)。後半はスクリャービンの第3番「神聖な詩」。すごいおトク感。
●5月。ラトルのシベリウス・シリーズ。この日は交響曲第5番と、「第6番&第7番」。つまり前半に5番をやって、後半は第6番と第7番をつなげてあたかも長大な全5楽章の交響曲であるかのように演奏したんである(指揮棒も下ろさずに続けた)。両作品世界に共通するところ大ということなのかもしれないが、正直意味があるのかわからない。ただ演奏そのものは大変すばらしい。第5番は泣ける。
●5月。アバド登場。ブラームスのカンタータ「リナルド」がメインというシブすぎるオール合唱プロ。それにシェーンベルクとシューベルト。
●5月。デイヴィッド・ロバートソン指揮。ルノー・カプソンがリゲティのヴァイオリン協奏曲。ベルリン・フィルはシーズンごとにテーマ作曲家的な人が何人かいるみたいで、昨シーズンはリゲティがその一人。メインはバルトークの「かかし王子」。
●4月。ビエロフラーヴェク指揮。ソリストにエマールでシェーンベルクのピアノ協奏曲。メインはブラームスの交響曲第4番。ここのところラトルでさんざんブラームスを演奏していたのに、客演指揮者も振るのか!?とも思うが。ラトルだろうがビエロフラーヴェクだろうが、ベルリン・フィルのブラームスはよく歌う。聴きほれてしまう。
●4月。指揮者兼ピアニストとしてアンドラーシュ・シフが登場。モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」+ピアノ協奏曲第20番(弾き振り)をつなげて一曲のようにして演奏。しかしつなげるというアイディア以前に、重々しいバッハ、ハイドン、モーツァルトに挫折。
●4月。ラトル指揮、ピーター・セラーズ演出の(!?)バッハ「マタイ受難曲」。なんと、「マタイ」に演出が付いている。コーラスの人とかが演技するし、ときには楽団員までそれに絡む……ようなのだが、超絶違和感があって始まってすぐに退却。音だけなら心揺さぶられる音楽のはずなんだが、視覚的要素が雄弁すぎてどうにも歯が立たず。いずれ改めて再視聴できればと。
●3月。ヤンソンス指揮でヴェルディの「レクイエム」。テノールのデイヴィッド・ロメリの声が甘い。合唱が入るからもあるだろうけど、指揮中のヤンソンスってこんなに表情豊かな人だったんだ。
●3月。ドホナーニが降板して、急遽ネーメ・ヤルヴィが登板。プログラムもさしかえられて、グリーグ「ペール・ギュント」組曲とかウェーバー「オベロン」序曲とかブラームス「大学祝典序曲」とか。これが猛烈に楽しい! 最近ヤルヴィといえばまずパーヴォだけど、パパ・ヤルヴィ健在。豪放磊落、よく鳴る。凝ったプログラムもいいんだけど、たまには名曲小品プロでスカッとしたい。ていうか、こういう曲こそベルリン・フィル級じゃないとなかなか楽しめない。アンコールにシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ。
●以下、その2につづく

September 28, 2010

強くて弱い

●「情報弱者」っていう新しい言葉のニュアンスがイマイチつかめていない。IT用語辞典に載ってる原義はわかるんすよ、社会格差、経済格差みたいに情報格差ってのがあって、そこから生まれた新たな弱者の概念。でも実際にこの言葉が使われる場面は、もう少し複雑なニュアンスが込められていて、「弱者」に対して使われている感じがしない。むしろ逆。情報技術の活用もITリテラシーも必要としていない人のほうが豊かだったり快適そうにしてたりとか。
●たとえばコンサートのチケットを取るのに、あらゆる情報と手段を駆使して、先行発売日の発売時刻ジャストにPCにスタンバイして最高の良席を取れるスキルを持った情報強者(っていうの?)がいて、一方で「へー、そんなコンサートあるんだ。じゃあチケット取っておいてくれない?」と周囲のだれか世話焼きに頼む人とがいるとして、どっちになりたいのか。「なんだかインターネットの調子が悪いんだよね。パソコン見てくれない?」「あ、はい、じゃあ見ておきます(ブツブツ)」っていう場面も、頼む側が「弱者」ってことはないと思うんすよね(←これ昔からよくやった。もちろん頼まれるほう)。
●「情報弱者」と他人を呼ぶ(蔑む?)ときに、嫉妬とか羨望が裏側にあるのかないのかがよくわからない。少なくとも「情報弱者」の反対概念(情報強者?)は、軽い自虐のニュアンスと親和性が高そうに見えるんだけど。

September 27, 2010

週末フットボールパラダイス~伝説のカズゴール見逃し編

●日曜日のJ2、横浜FCvsカターレ富山戦は国立競技場で開催されてたんすね。なんと、カズがゴールを決めたと。後半29分からの出場でフリーキックから。43歳。国立競技場でカズダンス。ああ、これを見に行ってたら伝説だった……。
●最近、毎回凝ったゴール・パフォーマンスをすることで話題のサンフレッチェ広島、なんと今節は「オーケストラ」を披露してくれた(どこかにあると思うけど動画見つけられず)。ゴールを決めた李忠成によると、監督の「サッカーはオーケストラのようなもの。いろんな楽器が組み合わさって、いろんな音色が奏でられて、いいハーモニーが生まれる」という言葉をヒントに考えたというのだが、李の指揮者はいいとして、あとのピアノとかタンバリンって(笑)。でも楽しそうでうらやましいぞ。
マリユニ2010●で、マリノスだ。ホームで0-1でベガルタ仙台に完敗。ほとんど攻めてて、シュート18本打って得点ゼロ。仙台は数少ない好機を確実に決めた。実は主審がオフサイドでゴールを取り消してくれているので、本当は0-2だったかも。マリノスはまたボールキープ病が発症中。中盤の中村俊輔、狩野、兵藤、右サイドバックの天野、フォワードに入った山瀬と長谷川アーリアジャスール、みんな足元うまいんすよ。ボールはよく回る。でも本当に相手を崩した場面は少なくて、シュートも遠目から打つ場面が目立つ。もっとシンプルにできないものか、そしてプレイが細かすぎるんじゃないかと思いつつも、このスタイルで勝ててりゃそれがいちばん楽しいわけで、現状7位は微妙なところ。ACL出場権を考えて3位あるいは4位あたりを目標に戦えれば上等なんだけど、まだまだそこまでの力はないと見た。
●長谷川アーリアジャスールは近い将来に代表入りする予感。ボランチ、トップ下、フォワードまでできて、前への突破力にスケールの大きさを感じる。日本人にはあまりいないタイプ。

September 24, 2010

「シューマンの指」(奥泉 光)

シューマンの指●同じ生誕200周年なのにショパンがあちこちで華やかに祝ってもらえるのに対して、どうしてシューマンはこうもジミな扱いになるんでしょかねー、と思っていたのだが、この本を読んで溜飲が下がった。これぞ記念の年にふさわしい快作。「シューマンの指」(奥泉光著/講談社)。もし「音楽小説」っていう言葉があるなら、この小説こそその呼び名にふさわしい。
●十代にして将来を嘱望される才能あふれる美少年ピアニストと、彼に憧れと畏れを抱く音大受験生の主人公の関係を描く。二人の関係はシューマンへの音楽的共感で結ばれ、かつてシューマンがそうしたように「ダヴィッド同盟」を結成したり、「音楽新聞」を発行する真似事をしてみたりする。二人の若者はシューマンを弾き、シューマンについて語る。これが小説という形態でしか成立しえないような美しく見事なシューマン論になっているところが並の小説とは違う。完全に脱帽。しかもシューマンが題材とされるのに必然性がある話なんすよね。唖然。
●読むとますますシューマンが好きになる。シューマン猛烈ラブ! ていうか、シューマン知らない人が読んでも平気なのかと心配になるほどの音楽密度の高さ。たまらずに読書中に「幻想曲」とかピアノ・ソナタ第2番とか、次々にシューマンのCDを取り出してしまった。この一冊をもって、シューマン・イヤーがショパン・イヤーを凌駕したのだ。ショパン聴いてる場合じゃないぜっ!

September 23, 2010

モレノ元主審

モレノ元主審がヘロイン所持で逮捕。「元主審」っていう呼称もナンだが、モレノといえば、あの決して忘れることができない悪夢、2002年ワールドカップ日韓大会の韓国vsイタリア戦の主審だ。意味不明のカードを出してトッティを退場させたあのシーン。余裕でオンサイドだったトンマージのゴールを取り消したあのシーン。いやそんなのはあの大会で起きたことのほんの一部、たまたまクローズアップされた上っ面にすぎないんだろう。次のスペイン戦にも事件は起きた。みんなが顔を引き攣らせながら「誤審」と呼び、ブラッター会長まで大会の失敗を事実上公に認めてしまったあの悲しいワールドカップ……。
●その後、モレノはイタリアのテレビ番組に出て札束のつまったアタッシュケースを見せびらかすというギャグ(?)をやったり、母国エクアドルで審判員養成学校を開いたりといったウソみたいな話が伝えられていたが、今度はジョン・F・ケネディ国際空港でヘロイン所持で逮捕だ。それも6キロっすよ。6グラムとかじゃなくて6キロ。末端価格で計3億円なんだそうだけど、もう完全にそういう人なんすね、彼は。
●で、なにがスゴいかって、この6キロのヘロインを下着に隠し持ってたってところっすよ。どんなパンツ履いてんの? ていうか、スーパーで5キロのお米を買って持ち帰るのも大変なのに、ヘロイン6キロ下着に隠して米国入国っすよ。モレノ元主審、どんだけ力持ちなの!(←そこに感心するかっ)

September 22, 2010

「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」

「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」●こういう本を読みたくなる気分っていうのは何なのかと言えば、それは明らかに「ノスタルジー」。「ワイオミング生まれの宇宙飛行士~宇宙開発SF傑作選」(中村融編/ハヤカワ文庫SF)。世代的に「宇宙開発」っていうのが少年時代の夢と強く結びついており、子供の頃にアポロ計画の先にあるほぼ確実な未来として期待していたのは、「一般人による宇宙旅行」だったり「火星基地」だったり「外惑星への有人飛行」だったわけだが、結局あれから人類は月面にすらふたたび立つことなく21世紀を迎えることになろうとは。今まさに未来にいるのに、この未来はあの未来とぜんぜん違う。
●と、いう思いを抱いてる人は少なくないわけで、このアンソロジーに収められた中短篇には「ありえたかもしれない未来」を描いている作品が多い。全7篇。特にいいなと思ったのは巻頭の「主任設計者」(アンディ・ダンカン)。これはソ連の実在のロケット工学者をモデルにしていて、どこまでが実話でどこからがフィクションなのか、ワタシにはよくわからなかったのだが、特殊な体制下で職務に打ち込む寡黙な男の描かれ方が味わい深い。宇宙にどうしようもなく憧れてしまう少年の夢を見事にすくいあげているのは「月をぼくのポケットに」(ジェイムズ・ラヴグローヴ)。気の利いた小品。
●世評に高い表題作「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」(アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション)は「泣ける話」。美しすぎてワタシはやや苦手なのだが。「電送連続体」(アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター)は、他と比べて描いてるヴィジョンが壮大すぎて、巨匠芸の世界というか。「月その六」(スティーヴン・バクスター)は秀作。可笑しいんだけど郷愁も感じさせるという離れ業。
●版元のサイトをたどっても全7篇のタイトルと作者名が載っていないという書誌情報の乏しさは謎。

September 21, 2010

ネットでライヴ動画

Medic.tvでルツェルン音楽祭でのドゥダメル指揮ウィーン・フィル演奏会の映像が無料公開中。バーンスタインの「ディヴェルティメント」、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ボレロ」他。再生中にログインが求められるのでアカウントだけ作っておけばOK。きっと期間限定。このサイト、今までもいくつか映像を見せてもらっているが、有料のサービスを利用したことはない。これってビジネスになってるのかなあ。
●そういえばベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールで昨季、ユーザーアンケートを採っていた。うろ覚えだけど、設問のひとつに「ベルリン・フィル以外で同様のサービスを欲しいと思うオーケストラを選んでください」っていうのがあったっけ。ワタシはウィーン・フィルとLAフィルって答えたような気がする。他にコンセルトヘボウ管弦楽団とかバイエルン放送交響楽団とかロンドン交響楽団等々の選択肢があって、どこもそりゃ見たいかと言われれば見たいんだけど、でも「じゃあ定期演奏会をワンシーズン有料中継したら買うか」って言われたら、そういくつもYesって答えられない。個別の演奏会ならともかく。
●上記設問には日本からも2つのオケが選ばれていた。どこでしょか。まあ察しがつくんではないかと思うんだが、サイトウ・キネン・オーケストラとNHK交響楽団なんである。デジタル・コンサート・ホールの海外からの契約者は日本人がもっとも多いそうなので、わざわざ日本のオケも含めてくれたんだろう。でも前者は常設オケではないし、後者はネットで有料中継してくれなくてもNHKで結構放送されてるわけで、その辺の事情は伝わってるのかなと気にならんでもない。

September 18, 2010

ジュルナル?ジョルナル?いやジュルナル

●行ってきました、ルネ・マルタンのもう一つの音楽祭「ル・ジュルナル・ド・パリ」オープニング・ガラ・コンサート。ガラということで、次々とアーティストが登場してくれる。J-C.ペヌティエ、ケフェレック、ルゲ、ルイス・フェルナンド・ペレス、モディリアーニ弦楽四重奏団……。フォーレのピアノ四重奏曲第1番がメイン。しかしもっとも鮮烈だったのはペレスの弾くアルベニスだった。でも2曲なんすよね、本日のところ彼の出番は。ガラはご馳走を少しずつつまみ食いする楽しさであって、お腹いっぱいになりたいなら土曜日からの3日間に行くべきであるのだな……。
●東京の後、名古屋と大阪でも開かれるんすね、ジュルナル。
●「印象派時代パリよりも現代ニッポンだ!」という方は、POCへ。POC……なんの略だろう。Philharmony Orchestra Chiba? Punish Old Critics? Plan of Conspiracy? いやいや、Portraits of Composers なのでありました。ピアノの大井浩明さんによる邦人作曲家シリーズ。第1回「松下眞一×野村誠」は9月23日(祝)門仲天井ホール。第2回以降、「松平頼則×山本裕之」「塩見允枝子×伊左治直」「平義久×杉山洋一」「松平頼暁×田中吉史」と続くのだとか。詳細は opus55 へ。

September 17, 2010

刷新「フィルハーモニー」

フィルハーモニー●NHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」がリニューアル。デザインが一新されて、落ち着いた雰囲気はそのままだが、とても美しくて読みやすい紙面になった。新連載、新コーナーもたくさん登場。ワタシも「クラシック~日本語のお作法」という連載で末席を汚すことに。編集視点で見たクラシック音楽系日本語の謎を取り上げるという読み物です。ほかに青澤隆明さん、藤田茂さんとの座談会も。
●しかし刮目すべきは秋岡陽さんの新連載、構造で聴く「名曲のしくみ」~グラフィック・アナリシスの世界。第1回はベートーヴェンの「運命」を題材にソナタ形式を解説してくれるんだけど、これが猛烈にわかりやすくておもしろい! 手描きの図を載せるというアイディアも秀逸で、こういうのはPCで作っちゃうと伝達力が著しく弱まるんすよね、目がオートマティックに素通りしちゃうから。第2回も楽しみ。
●昨日の東京は寒かった。ずっと真夏の延長戦が続いていて、連日35℃とか37℃とかが当たり前になり、冷房で30℃に冷やした部屋に入ると少し肌寒いなと思っていたのに、いきなり終日20℃前後だったんすよ。どうなってるんだか。せっかく耐暑型亜熱帯仕様に肉体が進化しようとしてたのに。今日は最高気温30℃ということなので、大変すごしやすい。このまま次の春になんないすかね。

September 16, 2010

ボイスケアのど飴

ボイスケアのど飴●カンロが国立音楽大学と共同開発した「ボイスケアのど飴」。小林一男教授(おお!)と学生さんたちが開発に携わったんだそうです。60種類以上の試作品を作ったとか。
●次は演奏会で咳が出なくなる「演奏会用のど飴」とかどうかな。包み紙をむいても音が出ません、とか。
●ついでに中身を開けてゴソゴソしても音が出ないカバンも……(ありません)。
●今日からバーガーキングの30分「おかわり自由」キャンペーン。これ一個でも相当大きいと思うんだが。なんか大食っていうこと自体がもはや驚異。
●ダイエットワッパー、カロリーゼロを夢想。

September 15, 2010

レコ検

●「検定ブーム」がジワジワと長続きしてるじゃないですか。この「検定」っていうのを職能とか資格から切り離して事業化することを思いついた人は鋭い。ワタシだったら絶対にその発想は浮かばない。
●音楽関係の検定としてはこんなのもある。10月10日(日)に開催される第1回「アナログレコード検定2010」。略称「レコ検」。これはオールドファンのノスタルジーを刺激するのかも(そもそも受検というものがそうだし)。開催場所は明治大学駿河台校舎リバティータワー。主催者は「日本で唯一アナログレコードを製造する東洋化成株式会社」ということなので、なるほどと納得。ジャンルはクラシックに限らないのだが、サイト上にある例題を一つ引用するとこんな感じ。これはよく知らなくても正答できる親切設計。

Q. レコードの原型「グラモフォン」を発明し、イエロー・レーベルと称されるクラシックレーベル「ドイツ・グラモフォン」を創設した人物は?
A. 1:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー 2:トーマス・エジソン  3:ヘルベルト・フォン・カラヤン 4:エミール・ベルリナー

●最強の検定は「じぶん検定」なんじゃないか。「じぶん」についての設問に答えて、「じぶん1級」みたいな。本当の自分がここにっ!

September 14, 2010

長友佑都@チェゼーナvsミラン

チェゼーナ●なんと、NHK-BSがセリエAのチェゼーナの試合(だけ)を放映してくれるとは。開幕戦のローマvsチェゼーナに続いて、チェゼーナvsミランの試合まで! ていうか次節も放映あるみたいだし、これひょっとして毎節あるの? チェゼーナの試合(だけ)が。なんとゴージャス(笑)。長友佑都、レギュラーだけど左サイドバックっすよ。日本人左サイドバックの活躍を見るために、セリエA昇格クラブの試合を毎試合全国放送。偉すぎる、NHK-BS。超局所的にセリエA事情に詳しくなる日本のお茶の間。
●いいっすよ、長友佑都は。ローマ戦とミラン戦、テレビで見たんだけど(時間なくて一部セルフハイライト。スマソ)、なにがいいってチームが予想外の快進撃を達成してるところ。開幕のアウェイのローマ戦をドローで乗り切っただけでもチェゼーナとしては快挙だが、続くホーム初戦でミランに2-0で完勝の大金星。チェゼーナはニッポン代表みたいなディフェンスしてるし。前線の選手も忠実に守備に戻る。局面ではなるべく数的有利を作る。キーパーのアントニオーリってローマでナカタの同僚だったあのアントニオーリではないか。ローマ戦では神プレイ連発、驚きの41歳。ナカタは今旅人になりました、そう伝えてあげたい。
●長友は前線の左サイドの選手とのコンビがスゴくいい。ボールも回ってくるし、すでに信頼を獲得している印象。ただ、個別の場面ではそれなりにやられてもいる。初戦は攻守にわたってよかったが、一度大きなミスでピンチを招いてヒヤリとしたし、ミラン戦はパトとの一対一で振り切られる場面も目立った。ミラン戦の序盤、長友が一人オフサイドトラップを仕掛けて成功したような形の場面があったが、スローでみるとオンサイドに見えた。あれはミランのゴールが認められても文句はいえない。それから終盤にインザーギの罠に引っかかり、PKを与えてしまった。これは長友としてはどうしようもないかもしれないが、PKを外してくれたのは幸運。結果的にどのプレイも失点までには至らなかったのは救い。走力に関しては猛烈に目立っていて、あんなに長い距離をあのスピードで駆け上がる選手はそうそういない。
●全世界どこのサッカーでも左サイドバックはもっとも手薄になりがちなポジションなので、うまくするとあっという間により強いクラブに移籍してしまうかもしれない。でも一方で、運悪く自分のサイドを立て続けに破られて失点が積み重なるとポジションを失うかもしれない。なにが起きても不思議じゃない。

September 13, 2010

バーンスタインのDVD「与えるよろこび The Last Date in Sapporo 1990」

DVD バーンスタイン 与えるよろこび●レナード・バーンスタイン没後20周年企画第1弾としてリリースされたDVD「レナード・バーンスタイン/与えるよろこび」(ドリームライフ)を見た。1990年、札幌のPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)で、バーンスタインがシューマンの交響曲第2番を振ったときのリハーサル映像。バーンスタインはこの3ヵ月後、72歳で世を去った。
●この映像はかなり昔に見たような記憶がうっすらあるのだが(編集は違うかもしれない)、久しぶりに見てバーンスタインの容貌が衰えているのに驚いた。そうか、そういえば最晩年のバーンスタインはこんなだったのか……。記憶に残るバーンスタインがあまりにも輝かしい存在だったので、彼にこんな時期があったことをすっかり忘れていた。
●映像は主にリハーサル時の映像から構成され、それにバーンスタインのインタビュー等がさしはさまれている。本番の演奏場面は収録されていないのでご注意を。凝った演出などはなく、バーンスタインに焦点を当てたリハーサル映像の素材そのものを見るDVD。冒頭のセレモニーでバーンスタインがこんなことをしゃべっていた。「この年齢になると神が自分に与えた残された時間をどう過ごせばよいか、決断が必要になります。ベートーヴェンのピアノ・ソナタをまた全曲演奏するのか。ブラームスの交響曲全曲をまた指揮するか。作曲活動に専念するか。私はそう長い時間悩まずに決心しました。残された時間と精神力を教育に捧げよう、と」。
●その「残された時間」が非常に短いことをワタシたちは知ってこの映像を見るので、続くリハーサルはまさに命がけの場面に見える。若者たちを根気強く指導するのだが、ときどき咳き込んだり、表情にも疲労ぶりがうかがえたりで体調はよくない。しかしとても情熱的で、うまくいくとニコリと嬉しそうな顔を見せてくれる。すると、見てるこっちもなんだか嬉しくなる。
●インタビュー中に有名なセリフが出てくる。「自分は音楽家になるべきでしょうか、と訊ねられたら私はノーと答える。なぜなら、そう質問したからだ。質問する限り、答えはノー。禅の哲学みたいだね。音楽家になりたいなら音楽家になる」
●このDVDの後もバーンスタインの映像が続々リリースされるようで、今月下旬には「バーンスタイン+手塚治虫/ 雨のコンダクター~ハイドン:戦時のミサ」というタイトルが予定されている。バイエルン放送交響楽団を指揮した「戦時のミサ」ライヴ映像に、かつてFMレコパルに掲載された手塚治虫の短編「雨のコンダクター」が封入される。この作品にはバーンスタインが登場し、ハイドンのミサ曲「戦時のミサ」を振る場面が登場するということのようだ。

September 10, 2010

3Dベルリン・フィル

●以前、ロイヤル・オペラが「カルメン」を3D映像で収録したって話題を紹介したじゃないですか。みんな、そんなにオペラ歌手を3Dで見たいのかよっ!的な驚きとともに。
●そしたら、ベルリン・フィルも3Dとか言い出した。 The Berliner Philharmoniker in 3D 。サイモン・ラトルとのリハーサルの様子を3D収録した映像が無料ダウンロードできるようになっている。……というのでワタシは慌てて猛速ダウンロードしたわけだが、ファイルを開くと画面が左右に分割された妙な映像が出てくるではないか。えっ、なにこれ? なになに、これを見るためには、NVidia の 3D glasses が必要だって?
3d_glasses.gif●うーむ、3D専用メガメが必要であったか。惜しい。ウチにそんなものはない。NVidia の 3D glassesとかいうのをお持ちの方はぜひお試しを。3Dでラトル。3Dでオーケストラ。嬉しいのか?

September 9, 2010

「観光」(ラッタウット・ラープチャルーンサップ著)

観光●なんという味わい深い短篇集。どれも切なくて、美しくて、救いがなく、少しクレージーで、でも前向き。「観光」(ラッタウット・ラープチャルーンサップ著/ハヤカワepi文庫)。著者はタイ系アメリカ人。物語の舞台はタイで、外国から見たトロピカルでエキゾチックなタイの裏側にある、タイ人から見たタイがとても新鮮。神様ではなく仏様の国はこうなのかあ、いやワタシらもそうなんだけど。おおむね、どの話も居場所を見つけられない人々、疎外感を抱えて生きる人たちが描かれていて、行ったことも見たこともない土地の話なのに、そこには「ワタシ」がいるという軽い驚き。
●巻頭の「ガイジン」がいい。タイ人のママとガイジンの間に生まれた少年が主人公で、飼っているブタに「クリント・イーストウッド」って名づけている。もし熱帯に「蝶々夫人」があったとしたら、蝶々さんとピンカートンの間に生まれた少年はこんな風に育って、ガイジンの娘と出会ったりしているにちがいない(笑)。主人公の周囲にはガイジンの南国幻想に対する辛辣な視点があちこちに垣間見えるんだけど、当人はカラッとしていて、そこがまたいい。
●「プリシラ」もすばらしい。タイにはカンボジア難民という疎外された人々がいるんすね。この難民を排斥するタイ人という視点はなかった。でもボーイ・ミーツ・ガールであって、辛気臭い話にあらず。疎外感という意味では「こんなところで死にたくない」は最強。アメリカ人のジジイが、現地人と結婚した息子を頼ってタイに暮らすんだけど、息子夫婦と孫たちがしゃべってる言葉もわからないし、体の自由は利かないし、出かけても行くところなんてなくて、もう思い出にしか自分の居場所は見つけられない。でも生きる。
●いちばんの傑作は最後の「闘鶏師」かな。闘牛とか闘犬じゃなくて闘鶏に溺れるオッサンの話を、その娘の目で描く。悲しくて笑える。オヤジにも奥さんにも娘にも共感可能。技巧的でもある。
●奇跡のような秀作ぞろいだが、この作家の名前が覚えられない。ラッタウット・ラープチャルーンサップ。姓だけでも10回くらい繰り返して言ってみよう、他人に勧めるときのために。ラープチャルーンサップ、ラープチャルーンサップ、ラープチャルーンサップ、ラープチャルーンサップ、ラープチャルーンサップ……。

September 8, 2010

ニッポンvsグアテマラ代表@キリンチャレンジカップ2010

気分はトロピカル●夜でもまだまだ蒸し暑い今年の日本。猛暑はいつまで続くのか。もしやこのまま来年の夏まで夏? それはそれで常夏でいいかも、ビバ日本。そこにさらにトロピカルな感じでグアテマラ代表がやってきた。またしても花火のような試合であり、代表戦とも思えない緩いサッカーの中に暑さと連戦による疲労が忍び込んできて、チームの中に「小うるさいオヤジ」みたいな選手がいないこともあって、熱帯フットボールは気だるく2-1で終わった。ゴールは森本貴幸の前半の2点、そしてグアテマラの……だれだったかな。花試合も2試合続くとどうだろう、いやこれでいいのだ、長居は満員だった。暫定ヒロミ・ジャパンの完全なる勝利。
●走れるわけないです、この気候で90分も。
●キーパーの楢崎はこれをもって代表から引退。十分やりつくした感あり。おつかれさまでした。
●次からが本当のザック・ジャパン。必ずなにかびっくりするようなことがあると思う。

September 7, 2010

天皇杯2回戦、マリノス対V・ファーレン長崎

マリユニ2010●サッカー話が続いてスマソ、代表戦に続いて、天皇杯の2回戦があったんである、日曜日に。マリノスはV・ファーレン長崎と戦った。「V・ファーレン長崎」なんて言われてもフツーの方々は知らないかもしれないが、JFL(J2の下。3部リーグ)に所属しており、今季は現在6位と健闘している。J準加盟チームでJリーグを目指す。特筆すべきはそのクラブ名だ。「V・ファーレン長崎」の「V」は「ブイ」ではなく「ヴィ」と読む。つまり、音的には「ブイファーレンながさき」ではなく「ヴィファーレンながさき」なんである(NHKのアナウンサーもそう読んでいる)。それを表記するのに「V・ファーレン」と書く。堂々と「V」と書き、しかも「・」(この記号はナカグロと読んでくれ)まで入る。これはもう、クラヲタの心をグワシッと鷲づかみにするようなセンスじゃないだろうか。……えっ、意味わかんない? さてはクラヲタじゃないでしょ!
●それはともかく、V・ファーレン長崎はわがマリノス相手に先制ゴールを奪ったのである。しかもこちらのコーナーキックのチャンスから、ものの見事にカウンターアタックを繰り出しゴールを決めた。この悔しさ。ただ失点したからじゃない(JFL上位の底力についてはワタシはよく知っている)。コーナーキックのチャンスが実はピンチであるというモダン・フットボールのレッスンを3部リーグの相手から受けたという屈辱がたまらない。前半は0-1でリードされて終わった。
●後半、マリノスは足が止まった相手から3ゴールを奪って逆転した。まあ、こうなるだろうと思った。だって、V・ファーレン長崎は中一日でこの試合に臨んでいるんすよ。9月3日に天皇杯1回戦を笠松運動公園陸上競技場で戦って、9月5日に三ツ沢球技場でマリノス戦アウェイ。ただでさえ実力差があるのに、3部リーグの側がすべての条件で不利なんだから、これってどうなんすかね。
●で、昨晩テレビで天皇杯ダイジェストを見ていたのだが、近年頻出していた番狂わせはほとんどなくなっていた。7-0みたいな大差のスコアが目立つ。ソニー仙台がベガルタ仙台を破り、町田ゼルビアがヴェルディ東京を破ったというダービー2試合だけが波乱というべきか。元ニッポン代表の相馬監督率いる町田ゼルビアは、東京第四勢力だと思っていたらJFLにおいて第三勢力たる横河武蔵野FCを凌駕し、さらにJ2のヴェルディまで破ってしまった。スゴい。とはいえ、JFL上位がJ2のクラブに勝ったというのはジャイアントキリングとまでは言いがたく、本当に驚くべき結果といえるのはソニー仙台だけかも。ソニー仙台、JFLでも今12位なんすよ……。
●でもチャレンジャーたちが不利な日程で戦わなければならないとなると、天皇杯はあまりおもしろくなくなる。いや、波乱が多すぎればそれはそれでワタシらは文句を言い出すわけで、結局お前らはなにを見たいのだと問われるような話ではあるんだが。

September 5, 2010

ニッポンvsパラグアイ代表@キリンチャレンジカップ2010

ニッポン!●こんなに気楽に眺めていられる代表戦はいつ以来か。ニッポンvsパラグアイ。代表監督はザックことザッケローニに決まった、しかし彼は就労ビザが間に合わず、選手を選んだのも指揮を執るのも原博実監督代行。ザック・ジャパンの前にテンポラリーなヒロミ・ジャパン。これって、どうせザッケローニはぜんぜん違う人選するだろうし、試合結果も特に問われるものじゃないし、原博実はカラッと陽性だし、相手がパラグアイでワールドカップの再現イベントっぽいノリだし、君が代はゴスペラーズだし、観客6万5千人くらいの満員御礼だし……と諸条件ぜんぶそろった晩夏の花火。楽しいよね。しかも中村憲剛の鋭いパスに香川真司が奇跡のトラップからゴールを決めて1-0。香川真司は日本のロシツキだ。ハッピー、ニッポン!
●いいじゃないっすか、2試合くらいヒロミ・ジャパン、あっても。W杯直後の代表戦が満員になるということがワタシの想像外だったんだけど、たしかにこの時期にしか味わえないエンタテインメントなんだから、この機を逃さなかった生観戦組は慧眼。原監督代行は終了直前に駒野をピッチに送り込んだ。完璧なサービス精神。
●しかし、ザッケローニはどんなメンバーを選ぶのか。ワタシがいちばん注目しているのは、中澤を呼ぶかどうか。普通、新監督はこれまで呼ばれていなかった選手とか不遇をかこっていた選手をまず呼ぶのが得策。呼ばれた選手は必ず監督をリスペクトするし、自分より影響力の強い古株をまずは排除しておいたほうが、物事は進めやすい(特に新しいフォーメーションを敷くつもりなら)。32歳のキャプテンを外すなら今がチャンス。しかし、一方で若いセンターバックで中澤に匹敵する人材がいるかといえば、たぶんいない。一気に若返らせるのか、継続性を重視するのか。
●中盤は若手も含めての激戦区なので、遠藤、松井、中村憲剛、阿部といった28歳以上の選手たちはひとまず出番がなくなるかもしれない(し、全員そのまま残るかもしれない)。

September 3, 2010

「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」(ニコラス・A・クリスタキス、ジェイムズ・H・ファウラー著)

つながり●これは驚いた。この「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」を読もうと思ったのはなにがきっかけだったか、たぶんクラウド時代の社会的(ソーシャル)ネットワークが云々みたいな惹句が目に飛び込んできたからなのかもしれない。でも読んでみたら、もっと根源的な人と人の関り方が個人やグループに対してどのような作用を及ぼすかという本だった。つまり恐ろしく実用的な書物だった。実用って何のための? もちろん、生きるための。
●以前、「六次の隔たり」について書いた。一次の隔たりは友人で、二次の隔たりは友人の友人だ。で、友達の友達のそのまた友達の……と平均六次の隔たりを経ることで世界中の誰とでもつながるという理屈がある。事実、ワタシと元ブラジル代表のロナウドの関係も「六次の隔たり」にある。だが、本書で知ったのはむしろ「三次の隔たり」までの重要性だ。社会的ネットワークにおいて、人の影響力は「三次の隔たり」まで及ぶが、そこより遠くまでは届かないという(なおここでの友人というのは「知人」くらいの意味合いで、「親友」みたいなノリではない)。
●いくつか覚えておきたいことがあるので、自分のための備忘録として、以下にざっと書き出し。
●「他人の幸福」が持つ影響力。社会的ネットワークの統計分析によれば、「一次の隔たり」にある人(友人とか家族とか同僚とか直接つながっている人)が幸福だと、本人も約15%幸福になる。それはまあわかる、しょっちゅう顔を合わせるわけだから。しかしネットワークの影響力はもっと広範に及ぶ。「二次の隔たり」(友人の友人)に対しても幸福の効果は約10%及び、「三次の隔たり」(友人の友人の友人)ですら約6%の効果がある。感情はネットワークを通して、一面識もない人にまで伝播するのだ。
●新たに人と知り合う場合について。ある人が幸福な友人を持つと、本人が幸福になる可能性は約9%増大する。一方、不幸の感情も伝染する。ある人が不幸な友人を持つと、本人が幸福になる可能性は約7%減少する。ということは、おおむね人と知り合ったほうが自分も幸福になるチャンスは増えそうだ。人が友人を増やそうとするのは、その行為に統計的優位性があるからともいえる。
●腰痛は社会的ネットワークを通じて広がる。肥満、喫煙(禁煙)と同じように。
●「弱い絆」は新しい情報の宝庫。転職する、恋人を見つける、有益な情報を求めるといった場合、人は「友人」のような強固な関係よりも、「友人の友人」のように二次あるいは三次の隔たりのようなやや遠い関係、「弱い絆」に頼ることが多い。距離の近い友人が知ってることはだいたい自分も知ってること。だから新しい出会いや情報、イノヴェーションは友人の友人くらいからしばしばもたらされる。なるほど、だから人はたとえほとんどの参加者と一度きりの関係だとしても立食パーティとか合コンに顔を出すわけだ。友人を増やすためというより、友人の友人を増やすために。
●遺伝子は友人同士のつながりに強い影響を及ぼす。推移性(友人のうち任意の二人が互いに友人である性質)の高低は47%が遺伝で説明できる。また、孤独の感じ方の差異のおよそ半分は遺伝子に左右される(逆に言えば半分しかない)。
●宗教において神は構成員全員と結びつきを持つ社会的ネットワークの一員と見なせる。だれもが神と「一次の隔たり」にあるので、すべての人の関係は「二次の隔たり」以下に収まることになる(鋭いなあ)。
●最終章はインターネット時代の社会的ネットワークについて割かれている。ここは現在進行形の部分だから、まだまだわからないことが多い。が、おおむね人はネット上でも従来の社会的ネットワークの原理に従って行動していることがわかる。SNSやTwitterはまさにその典型。でもこの章が唯一意外性に欠ける。

September 2, 2010

「第9地区」(ニール・ブロムカンプ監督)

第9地区●DVD化されたところでピーター・ジャクソン製作、ニール・ブロムカンプ監督の「第9地区」。南アフリカでワールドカップが開かれたその年に、同じ国を舞台としたこんなバッドテイストな映画が公開されたというのが味わい深い(アメリカ人はそんなこと気にしちゃいないだろうが)。舞台はヨハネスブルクだ。ここに異星からの宇宙船がやってくる。船は壊れてしまっており、エイリアンたちは人類から隔離された「第9地区」で難民として暮らすことになる。28年が経ち、「第9地区」は犯罪が増えスラム化し、エイリアンと地球人たちとの争いは絶えない。国家機関に勤める主人公が、エイリアンたちを「第10地区」に強制収容せよという任務を与えられるところから物語が始まる。もちろん南アが舞台という設定は、これが第2のアパルトヘイトだからだ。
●で、もうこれが天才的に感じが悪いんすよ。主人公は軽薄かつ軽率で、何事も場当たり的にしか済ませられない無責任な小役人風(いかにもいそう)。エイリアンのことなどどうとも思っちゃいなくてエビ呼ばわり。そう、異星人たちの外見はエビそっくりなんすよ。で、彼らもスゴいテクノロジーを持ってたはずなのに、ダメ度の高い人たちで(いや人じゃないか)、難民化してすっかり無気力になってたり暴力的になってたりしてて、異常なまでにキャットフードが好物だとか、ひどい設定があったりする。
●あと黒人ギャング集団なんかもいる。エイリアン文明が作った強力な武器は、エイリアンが操作しないと動作しないようにできている。にもかかわらずギャングたちはエイリアンの武器を集める。で、エイリアンの死体を食べることで彼らの武器を扱えるようになると信じている(やれやれ)。
●そんなブラックな話なんだけど、物語の筋道はある意味まっとうで、期待通りの展開が用意されている。でもこれ、なにが傑作かって、やっぱりエイリアンが人間大のエビだってところなんじゃないか。猿とか犬とかイルカとかならともかく、エビっすよ。どう見ても知能が低そう。しかも造形的には見れば見るほどキモい、にもかかわらず食うとうまい! なんでオレたちあんなにキモいもの喜んで食ってるのか。そんな根源的な疑問と困惑を無意識なレベルでこの映画は刺激してくれる。エビ食いながら鑑賞するが凶。エビフライでもエビバーガーでも、なんならえびせんでも。

September 1, 2010

女子クラ

ショパン●お、これは興味深い。働く女子にうれしい情報サイト「escala cafe」(というのがあるんですね)の「20代女子に聞く、好きな有名クラシック音楽家ランキング」。第1位にショパンとモーツァルトが同票数で並んだというのがあまりにも納得できる結果なのであるが、続く第3位ベートーヴェンは女子対象としては大健闘では。上位のみ以下引用。

第1位 モーツァルト 37.2%
第1位 ショパン 37.2%
第3位 ベートーヴェン 17.2%
第4位 チャイコフスキー 16.2%
第5位 バッハ 14.1%

●5位のバッハ以下はシューベルト、ヴィヴァルディ、ドビュッシー、リストと続く。意外とシブい。シューベルト好きの20代女子ってなにを聴いているんだろう。「冬の旅」を聴いて「この男子、キモい!」って喜んでるとか? ていうか、シューベルトのジメジメ感が好きって、なんだか心強いぞ。ピアノ・ソナタ第21番遺作ラブ!♥ みたいな世界(想像図)。
●これ、選択肢から選ばせてるのかなあ。音楽好きの女子に尋ねればきっと入りそうなラフマニノフとかラヴェルの名前は見当たらず。しかしいちばんの驚きは、こんな設問がフツーに20代女子サイトで成立しているってところか。参考になります。
●このescala cafe、「もっと、なりたい私に。働きウーマンのポータルサイト」っていうキャッチも秀逸。「もっと、なりたい私に」は、私は私であるのにさらになりたい私になることでより私になれるというくらいにビバ私。見習いたい。
●街で風に吹き飛ばされそうなくらいの薄型女子を見かけた。彼女は同じくらい薄い友人に「やっと1キロ痩せた」と話していた。きっと鳥になる。

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