amazon
September 2, 2010

「第9地区」(ニール・ブロムカンプ監督)

第9地区●DVD化されたところでピーター・ジャクソン製作、ニール・ブロムカンプ監督の「第9地区」。南アフリカでワールドカップが開かれたその年に、同じ国を舞台としたこんなバッドテイストな映画が公開されたというのが味わい深い(アメリカ人はそんなこと気にしちゃいないだろうが)。舞台はヨハネスブルクだ。ここに異星からの宇宙船がやってくる。船は壊れてしまっており、エイリアンたちは人類から隔離された「第9地区」で難民として暮らすことになる。28年が経ち、「第9地区」は犯罪が増えスラム化し、エイリアンと地球人たちとの争いは絶えない。国家機関に勤める主人公が、エイリアンたちを「第10地区」に強制収容せよという任務を与えられるところから物語が始まる。もちろん南アが舞台という設定は、これが第2のアパルトヘイトだからだ。
●で、もうこれが天才的に感じが悪いんすよ。主人公は軽薄かつ軽率で、何事も場当たり的にしか済ませられない無責任な小役人風(いかにもいそう)。エイリアンのことなどどうとも思っちゃいなくてエビ呼ばわり。そう、異星人たちの外見はエビそっくりなんすよ。で、彼らもスゴいテクノロジーを持ってたはずなのに、ダメ度の高い人たちで(いや人じゃないか)、難民化してすっかり無気力になってたり暴力的になってたりしてて、異常なまでにキャットフードが好物だとか、ひどい設定があったりする。
●あと黒人ギャング集団なんかもいる。エイリアン文明が作った強力な武器は、エイリアンが操作しないと動作しないようにできている。にもかかわらずギャングたちはエイリアンの武器を集める。で、エイリアンの死体を食べることで彼らの武器を扱えるようになると信じている(やれやれ)。
●そんなブラックな話なんだけど、物語の筋道はある意味まっとうで、期待通りの展開が用意されている。でもこれ、なにが傑作かって、やっぱりエイリアンが人間大のエビだってところなんじゃないか。猿とか犬とかイルカとかならともかく、エビっすよ。どう見ても知能が低そう。しかも造形的には見れば見るほどキモい、にもかかわらず食うとうまい! なんでオレたちあんなにキモいもの喜んで食ってるのか。そんな根源的な疑問と困惑を無意識なレベルでこの映画は刺激してくれる。エビ食いながら鑑賞するが凶。エビフライでもエビバーガーでも、なんならえびせんでも。

トラックバック(0)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/1529