●これは驚いた。この「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」を読もうと思ったのはなにがきっかけだったか、たぶんクラウド時代の社会的(ソーシャル)ネットワークが云々みたいな惹句が目に飛び込んできたからなのかもしれない。でも読んでみたら、もっと根源的な人と人の関り方が個人やグループに対してどのような作用を及ぼすかという本だった。つまり恐ろしく実用的な書物だった。実用って何のための? もちろん、生きるための。
●以前、「六次の隔たり」について書いた。一次の隔たりは友人で、二次の隔たりは友人の友人だ。で、友達の友達のそのまた友達の……と平均六次の隔たりを経ることで世界中の誰とでもつながるという理屈がある。事実、ワタシと元ブラジル代表のロナウドの関係も「六次の隔たり」にある。だが、本書で知ったのはむしろ「三次の隔たり」までの重要性だ。社会的ネットワークにおいて、人の影響力は「三次の隔たり」まで及ぶが、そこより遠くまでは届かないという(なおここでの友人というのは「知人」くらいの意味合いで、「親友」みたいなノリではない)。
●いくつか覚えておきたいことがあるので、自分のための備忘録として、以下にざっと書き出し。
●「他人の幸福」が持つ影響力。社会的ネットワークの統計分析によれば、「一次の隔たり」にある人(友人とか家族とか同僚とか直接つながっている人)が幸福だと、本人も約15%幸福になる。それはまあわかる、しょっちゅう顔を合わせるわけだから。しかしネットワークの影響力はもっと広範に及ぶ。「二次の隔たり」(友人の友人)に対しても幸福の効果は約10%及び、「三次の隔たり」(友人の友人の友人)ですら約6%の効果がある。感情はネットワークを通して、一面識もない人にまで伝播するのだ。
●新たに人と知り合う場合について。ある人が幸福な友人を持つと、本人が幸福になる可能性は約9%増大する。一方、不幸の感情も伝染する。ある人が不幸な友人を持つと、本人が幸福になる可能性は約7%減少する。ということは、おおむね人と知り合ったほうが自分も幸福になるチャンスは増えそうだ。人が友人を増やそうとするのは、その行為に統計的優位性があるからともいえる。
●腰痛は社会的ネットワークを通じて広がる。肥満、喫煙(禁煙)と同じように。
●「弱い絆」は新しい情報の宝庫。転職する、恋人を見つける、有益な情報を求めるといった場合、人は「友人」のような強固な関係よりも、「友人の友人」のように二次あるいは三次の隔たりのようなやや遠い関係、「弱い絆」に頼ることが多い。距離の近い友人が知ってることはだいたい自分も知ってること。だから新しい出会いや情報、イノヴェーションは友人の友人くらいからしばしばもたらされる。なるほど、だから人はたとえほとんどの参加者と一度きりの関係だとしても立食パーティとか合コンに顔を出すわけだ。友人を増やすためというより、友人の友人を増やすために。
●遺伝子は友人同士のつながりに強い影響を及ぼす。推移性(友人のうち任意の二人が互いに友人である性質)の高低は47%が遺伝で説明できる。また、孤独の感じ方の差異のおよそ半分は遺伝子に左右される(逆に言えば半分しかない)。
●宗教において神は構成員全員と結びつきを持つ社会的ネットワークの一員と見なせる。だれもが神と「一次の隔たり」にあるので、すべての人の関係は「二次の隔たり」以下に収まることになる(鋭いなあ)。
●最終章はインターネット時代の社会的ネットワークについて割かれている。ここは現在進行形の部分だから、まだまだわからないことが多い。が、おおむね人はネット上でも従来の社会的ネットワークの原理に従って行動していることがわかる。SNSやTwitterはまさにその典型。でもこの章が唯一意外性に欠ける。
September 3, 2010
「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」(ニコラス・A・クリスタキス、ジェイムズ・H・ファウラー著)
トラックバック(1)
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/1530
つながり 社会的ネットワークの驚くべき力作者: ニコラス・A・クリスタキス出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/07/22メディア: 単行本 ... 続きを読む