●こういう本を読みたくなる気分っていうのは何なのかと言えば、それは明らかに「ノスタルジー」。「ワイオミング生まれの宇宙飛行士~宇宙開発SF傑作選」(中村融編/ハヤカワ文庫SF)。世代的に「宇宙開発」っていうのが少年時代の夢と強く結びついており、子供の頃にアポロ計画の先にあるほぼ確実な未来として期待していたのは、「一般人による宇宙旅行」だったり「火星基地」だったり「外惑星への有人飛行」だったわけだが、結局あれから人類は月面にすらふたたび立つことなく21世紀を迎えることになろうとは。今まさに未来にいるのに、この未来はあの未来とぜんぜん違う。
●と、いう思いを抱いてる人は少なくないわけで、このアンソロジーに収められた中短篇には「ありえたかもしれない未来」を描いている作品が多い。全7篇。特にいいなと思ったのは巻頭の「主任設計者」(アンディ・ダンカン)。これはソ連の実在のロケット工学者をモデルにしていて、どこまでが実話でどこからがフィクションなのか、ワタシにはよくわからなかったのだが、特殊な体制下で職務に打ち込む寡黙な男の描かれ方が味わい深い。宇宙にどうしようもなく憧れてしまう少年の夢を見事にすくいあげているのは「月をぼくのポケットに」(ジェイムズ・ラヴグローヴ)。気の利いた小品。
●世評に高い表題作「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」(アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション)は「泣ける話」。美しすぎてワタシはやや苦手なのだが。「電送連続体」(アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター)は、他と比べて描いてるヴィジョンが壮大すぎて、巨匠芸の世界というか。「月その六」(スティーヴン・バクスター)は秀作。可笑しいんだけど郷愁も感じさせるという離れ業。
●版元のサイトをたどっても全7篇のタイトルと作者名が載っていないという書誌情報の乏しさは謎。
September 22, 2010
「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」
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