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October 5, 2010

ゾンビと私 その17 「ワールド・ウォー・ゼット」(マックス・ブルックス著)

ワールド・ウォー・ゼット●ゾンビたちが跋扈する現代日本にあって必読の書ともいえる小説が刊行された。World War Z、もちろんZはゾンビのZ。「ワールド・ウォー・ゼット」(マックス・ブルックス著/文藝春秋)。「ふーん、ゾンビ小説ねえ、でも文字で読んだってゾンビの怖さなんて伝わらないんじゃないの?」と訝しむあなた。違うんですよ、これは。スティーヴン・キングがその並外れた筆力によって「呪われた街」でドラキュラという古典的すぎる題材に新たな生命を与えた、というタイプの話ではない。「ワールド・ウォー・ゼット」では小説的完成度なんてものは脇に置かれて、現実としてのゾンビに立ち向かっている。すなわち、まさにゾンビがこの地球上を覆うというときにわれわれはどうすればいいのかという切実な問題意識から生み出された小説といえる。この点で、本作はあらゆるゾンビ映画にもゾンビ小説とも一線を画している。
●「ワールド・ウォー・ゼット」は、世界Z大戦後にまとめられた報告書という体裁を採る。ゾンビ大戦を終えた後、さまざまな生き残った証言者たちにインタヴューするという形だ。そう、人類はゾンビに打ち勝ったのだ。当初、地球規模でパニックが広がり、地上の多くがゾンビで埋め尽くされることになるが、人類はそこから反転攻勢に出て、ふたたび文明を取り戻した……という大きなストーリーが前提にある。アメリカで、ロシアで、中国で、日本で、なにが起きたのか。これはまさにゾンビ禍に対する予習だ。たとえば日本は国土が狭く、人口が多い。そのためいったん感染が広がり始めると止めようがない。しかもゾンビ大戦以前の社会の安全性が高かったため市民の武装度が低く、ゾンビと戦うこともできず、結局は国土を見捨てて難民として海外に脱出せざるを得なくなったという。これでは第二の「日本沈没」ではないか。小松左京の先見性をこんなところで思い知らされようとは。
●著者のマックス・ブルックスは映画監督メル・ブルックスの息子なんだそうであるが、実はこのブログでは彼の著作をすでに一度ご紹介している。The Zombie Survival Guide: Complete Protection from the Living Dead (未訳)がそうだ。つまり、彼はまず「ゾンビから生き残るためにどうしたらいいか」というガイドブックを、あらゆるシチュエーションを考慮して書き、続いてその成果を小説という形態に発展させたのだ。本書が実践的なサバイバル小説として、実用可能な水準に達しているのはそのためだ。ワタシたちは証言者の記録に耳を傾け、考えなければいけない。その日、どこを目指すのか。山か、森か、海か、都市か、あるいは北なのか。

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