●毎月20日に配布される「東急沿線スタイルマガジンSALUS」。今月号の特集は「電子レンジ上手で、お料理上手」。うおっ、これいい!と思ったですよ。最強になるほど感があったのはレンジでの「下ごしらえ」。ずばり、豆をもどす。あー、なるほどねえ。豆は缶詰なんかもあるし、最初からもどした状態で手にすることが多いんだけど、乾燥豆のほうに圧倒的なロマンがあるじゃないすか。ヒヨコ豆とか。レンジでもどす方法があったかー!
●豆はいいすよ。豆を食うときの音楽はベルク「ヴォツェック」で決まり。お正月は黒豆食べて「ヴォツェック」聴くが吉!
●あの、「豆腐の水きり」をレンジっていうのもステキすぎないすか、SALUS。
●あとこの特集のレンジレシピでいいかなと思うのは「チリコンカン」。このレシピは水煮の豆を使っちゃってるんだけど、ひき肉以外はウチ的には常備材料だけでできるのがいい。白ワインビネガーはバルサミコ酢か穀物酢で代用しちゃうとして。
●はっ。レンジ上手について語ってしまったが、ワタシの連載「ちょっとニュースなクラシック」を読んでね!ていう告知をしようと思っていたのだった。でもまあいいか。今月のお題は「美しく青きドナウ」。東急線各駅の専用ラック、沿線の東急ストア、東急百貨店、Bunkamuraなどで配布中。もうなかったらスマソ。
2010年12月アーカイブ
電子レンジ上手で、お料理上手
「のだめカンタービレ」第25巻(完) アンコールオペラ編
●いよいよ番外のアンコールオペラ編もこれで完結。「のだめカンタービレ」第25巻。番外編に入ってからののびのびとした空気は前巻と変わらず、しかもラブコメにふさわしいエンディングも用意されていてすっかり充足。しかも番外編の番外編として「ターニャカンタービレ」が付いてくる(笑)。ターニャと黒木君がどうなるか気になってしょうがない派は必読。
●こういう物語のエンディングって、主要脇役キャラの行方が楽しみなんすよね。登場人物たちのゴール(でありスタートでもある)を描くにあたって、みんなで「魔笛」を上演するという筋を重ねたのも秀逸。これ読んで多くの読者がオペラにポジティブな印象を持ってくれたかと思うと、感謝の気持ちがふつふつとわいてくる。
●クラヲタ的なツボはいくつもあるかと思うが、ワタシゃいちばんインパクトを受けたのは挟み込んであったカラーチラシ。なんのチラシかっていうとラン・ランなんすよ。表には目を閉じて陶然と鍵盤に向かうラン・ランの姿が映ってて、裏面には彼のアルバム「ラン・ラン ライブ イン ウィーン」と「のだめ」関連CDの宣伝が入っている。なんていうか、若者たちにとってのスターなんすよね、ラン・ランは。自分の名前が入ったadidas履いてピアノ弾くし(笑)。頼もしい限り。あまり早くオッサンにならないでほしい、最近なにかで見た映像はかなり丸くなってたけど。
マゼールの「ベートーヴェンは凄い」がネットで生中継
●もはや恒例となった今年の大晦日のあれ。「ベートーヴェンは凄い!全交響曲全曲演奏会」であるが、今年は大巨匠ロリン・マゼールが来日して岩城宏之メモリアル・オーケストラを振る。それだけでも十分驚きなのであるが(マゼールってもう80歳っすよ)、さらなるサプライズが。なんと慶應義塾大学がこれをネット配信してくれるんである。全曲を3D、高品質映像&音声で、PC、3Dディスプレイ、モバイルなど様々なデバイスで視聴可能な形で配信する(PDFのプレスリリースはこちら)。「学部研究科横断型研究・教育プログラムの一環として」行なわれるということなのだが、それを大晦日にやってくれるというのがすばらしすぎる。ベートーヴェンも凄いがマゼールも慶応も凄い。
●しかしいくら怪傑マゼールといえども体力的には相当大変なんじゃないか。9曲分、ただ立ってるだけでも大変だ、フツー80歳なら。
●大晦日ゆえに見やすいとも見づらいともいえる。マゼール流の大見得を期待。「いつもより余計にタメてます~」的な祝祭感があると吉。
1月に猛烈チェコ音楽祭り。「ヤング・プラハin東京ガラ・コンサート」
●年末ならではのドタバタ進行、年賀状もまだ書けてない、気がつけばクリスマスがやってきて、もう正月より先のことは考えられない状態になりがち。であるが、ひとつ1月のコンサート情報を。「2日間に渡る空前絶後のチェコ音楽オンパレード!」と謳われる「ヤング・プラハin東京ガラ・コンサート」が、1月22日(土)と23日(日)、先日オープンした渋谷区文化総合センター大和田・さくらホールにて開催される。
●これ、演目が相当強力なんすよね。スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌー、ドヴォルザークをはじめ、めったに生では聴けない曲がずらり。「ヤング・プラハ」というのは若手音楽家の育成と国際交流をテーマに、日本とチェコの共同文化活動としてはじめられたプラハの国際音楽祭で、今回創立20周年を記念して東京でガラ・コンサートが開かれるんだとか。出演者は日本勢中心にチェコからの来日組も加わった俊英たち。
●公式サイトの演目がPDFなのがなんだが、一部興味深いところを書き出すと、22日がマルティヌーの六重奏曲「キッチンのレビュー」、スロヴァキア民謡による変奏曲、ヤナーチェクのピアノ・ソナタ「1905」、六重奏曲「青春」、イルマルのバーデン・ジャズ組曲他、23日はマルティヌーの「クラリネット、ホルン、チェロ、小太鼓のための四重奏曲」、ヤナーチェクの「民族夜曲」、弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」、コンチェルティーノ、さらにドヴォルザークとスークとフィービヒのヴァイオリン名曲集など……。うーん、スゴいラインナップだ。
●渋谷区文化総合センター大和田のさくらホールは700席ほどの小ぢんまりしたホールで、渋谷駅から徒歩5分の立地のよさが強み。これを機会に一度足を運んでみるのも手かと。
あの人たちのクリスマス
●心なしかスパムメールが減ったかのように感じる年末。特に外国産。スパム業のみなさんもクリスマス休暇に入るのだろう。メリークリスマス。クリスマスイブになると、スパマーたちにもサンタさんはやってくる。煙突から大量のサンタさんが侵入してきて、彼らの靴下のなかにダイエット食品や激安向精神薬や推奨銘柄一覧や「大金を相続したから送金を手伝ってほしいナイジェリア人の手紙」を届けてくれるにちがいない。そしてプレゼントをゲットしたスパマーたちは、これらを世界中の人々へと再分配するのだ。
OEKのバレエ「くるみ割り人形」
●金沢に来ている。オーケストラ・アンサンブル金沢(以下OEK)の定期公演でチャイコフスキーの「くるみ割り人形」。そう、ここはオケの定期公演でバレエをやるんである。これは東京の人にはピンと来ないかもしれないが、人口45万人の街がオケを一つ持つんである。そこががんばって定期会員を集めたら、それとは別口でバレエもオペラもというほど客層に奥行きはない。一つのオケがいろいろな役割を担う。その代わり、オケの定期を複数シリーズに分けて、そのなかの一つでバレエなどバラエティ色豊かなものをやる。お客さんにとってもこれはありがたい仕組みのはず。一つしかない演奏団体から、複数の選択肢を得ることができるから。
●会場はいつもの石川県立音楽堂。ピットがないので客席の前方をつぶしてオケを入れる(するとその席数分だけ定期会員のお客さんが入れなくなる理屈になる。どうするか……実は2公演あるので振り分けれるのだ! 普段の定期は1公演のみ)。通常のバレエと異なり客席からオケがよく見える。響きもピットから聞こえてくるのとは少し違う。かなりシンフォニックなバレエになる。
●で、バレエはドイツ・エッセン市立歌劇場バレエが客演。ただし、これに地元の特別編成バレエ団が加わる。「くるみ割り」は兵隊さんとかネズミ軍団とか妖精さんみたいな人とか登場人物が多いので、出演者数は軽く100人を超えるんじゃないだろうか。おまけに児童合唱も入る。外来バレエ+地元バレエ+OEKという最適解が2公演分の集客を可能にしている。バレエなので、普段の定期とはまったく違うお客さんに音楽堂に足を運んでもらえるという効果も見逃せないだろう。そういう意味ではオケが目立つバレエ公演っていうのは理にかなっているのかも。
●OEKは普段の定期も同一演目で2公演できるようになったらいいっすよね。
●翌日すぐに帰京して通常モードに復帰予定。
寒空ライヴ・ウィーク
●ネトラジ・ミニ情報。France Musiqueのアーカイブで、ミラノ・スカラ座今季開幕公演「ワルキューレ」の音声を公開中。バレンボイム指揮。幕ごとにファイルを分けてあるという意外な親切設計がラブリー。
●先週足を運んだ演奏会から。14日は福間洸太朗ピアノ・リサイタル(津田ホール)。去年だったか一度聴いて衝撃を受けた逸材。今回はオール・ショパン。スケールの大きな演奏ですばらしかった。アンコールはなにかモダンな作品を弾いてくれないかなあと期待したのだが(その前夜がエマールだったので、つい)、そんなはずもなくすべてショパンであった……。いやそれでなにも悪くないはずなんだが、しかし。うぬ、ショパン。
●17日は片岡詩乃ハープリサイタル(王子ホール)。ハープのリサイタルを聴く機会そのものがあまりないので、レパートリー的にも興味深く、新鮮な感動大。マリー=シェーファーの「アリアドネーの冠」はハーピストが多数のパーカッションも操りながら、特殊奏法あり録音との共演ありと短時間に舞台上でさまざまな出来事が起きる。両足に鈴を結びつけて、足でリズムを取りながらハープを弾くとか、幻想味のなかにもユーモアがあって、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ。ブリテンの「組曲」も初めて聴いた。バロック的なスタイルでありながら途中にノクターンが挿入される。高橋悠治「そしてまた」委嘱新作初演もあり。が、なぜか客席と舞台がうまくかみ合っていない印象も。謎。でも音楽的には最強。
●19日は「ぶるぐ協会」のトーク・サロンコンサートへ(調布・マルシャリンホール)。「ぶるぐ」ってのはブルグミュラーのこと。といってもブルグミュラーには二人いて、ピアノ教本で有名な兄フリードリヒと、26歳で夭折した弟ノルベルトがいるそうなんである。で、その弟のピアノ・ソナタとか、兄のチェロとギターのための3つのノクターンとか、まったく知らない曲をいくつも聴くことができた。これは本当にサロンのノリで、作者を伏せて曲を演奏してから兄弟どちらの作品かを当てるクイズとか本気で楽しい(笑)。企画も演奏者も良かったので。
●今年は秋から怒涛の勢いで演奏会に行きまくった気がする。しかし年内はあと1、2公演。年末か年始のどこかで時間を取って、ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホール等、ネット系のライヴもたくさん聴きたい。ぬくぬく暖房の聴いた部屋でアイスクリームを食しながらネットでベルリン・フィルとか娯楽度マックスだと思うんだな。
2つのラジオ収録
●たまには日記みたいなことを書いてみる。
●今週はラジオの収録が2つあった。ひとつは新潟の毎週土曜23時 FM PORT 79.0MHz「クラシックホワイエ」。こちらは自分がナビゲーターなので一人でしゃべる。一人しゃべりに自信がないワタシとしては毎回四苦八苦していたのだが、ほんの少し慣れてきたような手ごたえも感じた。問題はどこまで事前に原稿を作るかということで、一字一句まで作りこみすぎても逆に作らなさすぎてもマズいようなんである。が、ともかく、当面はかっちりと事前に構成を作りこんでおいて、それにどこまで依存するかは収録時に判断するという方向でやってみることにした。選曲面でも当初よりおもしろくなってきているはず。なにより経験が大切。なんでもそうだけど。
●もうひとつはTBSラジオで今月始まった新番組「村田製作所Presents ミミガク」へのゲスト出演。なんと、えのきどいちろうさんの番組だ。テーマは「第九」ということで招かれたのであるが、こちらはラジオを知り尽くしているえのきどさんがいて、さらにアナウンサーの秋沢淳子さんがいるのだから、進行面に関してはワタシはなにも考える必要がない。投げられたボールを打ち返す……いや蹴られたボールを蹴り返すまで。ただし、完全にフリートークなのだ。事前に作りこむことができない。文字原稿を書くときのように、いちいち資料を調べて確認してから書くとか、書いたことを著者校正してまちがいを訂正するとか、そういうことはできないわけだ。その場でポンポンと反射神経で返していくしかないし、必ず想定外の方向に話が進む。これは活字媒体出身者としては恐怖体験だ。収録中に「えっと、それはこの資料で確認したいので何分か待ってくださいね」(パラパラ)なんてわけにはいかない。おまけに緊張もする(これも経験が必要なのだろう)。割り切って、まな板の鯉のように覚悟を決めるしかない。そういう役回りを喜んで引き受けるのが仕事なのだから。
●でも目の前にえのきどさんいるんすよね。だったらワタシは「第九」よりサッカーの話をしたいぞ(おいおい)。しかしそうもいかない。だからせめてこうしようじゃないか。ウチの本棚から「サッカー茶柱観測所」を探し出して持参した。忘れないように収録中もずっとテーブルの上に置いておき、最後にえのきどさんのサインをいただいた。お宝ゲット。放送は日曜日の21時00分~21時30分。
昨夜の夢
●長く戦い続けた人類と象の間に休戦協定が結ばれることになった。休戦にあたり、互いに相手陣営に人質を大勢出さなければならない。ワタシはその人質グループの一員に選ばれてしまう。いや、選ばれたのではなく、志願したのかもしれない。
●ワタシたちは、象たちに案内され、人類がまだ到達したことのない森の奥地の象帝国へと連れられてゆく。この未知の土地で、どのように日々を暮らせばよいのか。ワタシたちは隔離された居住地で人間らしい生活を送ろうと苦闘する。が、やがて暮らしが落ち着いてくると、われわれ人質たちの間で象に対する反乱を企てようとする者が出てくる。首謀者は次第に同士を集める。人質グループ内に不穏な空気が漂う。お前たち、それをやってしまっては休戦協定が台無しだぞ。やはり人類は象と共存できないのか……。
●という夢を見た。特に象に対して憎悪も共感も抱いていないので、思い当たる節はない。人類と象は共存してるし、フツーに。
ヤクブ・フルシャ都響プリンシパル・ゲスト・コンダクター就任記念懇談会
●チェコ出身で29歳という若さながら欧州でメキメキと頭角をあらわしつつあるヤクブ・フルシャ。彼が東京都交響楽団のプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任、そのお披露目演奏会の日に音楽ジャーナリスト懇談会が開かれた(12/14 ホテルオークラ)。(えっと、普通は「首席客演指揮者」と訳すところなんだけど、都響表記で「プリンシパル・ゲスト・コンダクター」)。この日のプログラムはヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」がメイン、マルティヌー「リディツェへの追悼」、ドヴォルジャーク:序曲「フス教徒」 、スメタナ:交響詩「ブラニーク」という話題性十分の演目で、演奏会のチケットは完売していた。
●フルシャは言う。「2年前に都響を指揮したとき、最初のリハーサルからお互いの気持ちが通じ合った。もう一度共演したいと思っていたので、このような機会を得て嬉しい」。一方、都響の守屋新チーフ・プロデューサーは「練習の初日からオーケストラをリードして瞬く間に音楽ができあがってしまう。これはすごいと思った。プレーヤーからすぐに次の契約をしろという声が上がるほど衝撃的な共演だった」。相思相愛。フルシャの都響に対する印象は「フレキシビリティが高く、スキルがある。こちらのリクエストしたことが即座に実現してくれる。リズム感やバランス感覚がすばらしく、深い感情を持って演奏してくれる」と。
●会見の受け答えを見ても、フルシャは本当に落ち着いた雰囲気で29歳とは思えない。人間的な成熟や知性を感じさせる。懇談会の後、ゲネプロ見学へ。フルシャの棒はものすごく明快。ていねいな音楽作りだけど、躍動感も十分。これはきっと今晩の演奏会は盛り上がるだろうなと確信しつつ、惜しくもワタシは別の演奏会の予定を入れてしまっていた……。
●もう一公演、20日(月)なんてマルティヌーの交響曲第3番がメインっすよ。すげえ。
●フルシャは日本語名刺作って「振る者」って字を当てると吉、きっと。
●2011年12月には都響スペシャルでドヴォルザークの「スターバト・マーテル」を指揮。2012年12月にも登場、ただしプログラムは未定。
最強に強まるエマール祭り
●オペラシティは熱かった。ピエール=ローラン・エマールのピアノ・リサイタル。圧倒されっぱなしでぼうっとした頭で帰路についた。バルトーク「4つの哀歌」op.9aから第4番、リスト「巡礼の年」第3年から「エステ荘の糸杉に寄せて」、メシアン「鳥のカタログ」から「カオグロヒタキ」、リスト「巡礼の年」第1年「スイス」から「オーベルマンの谷」。ここまでの前半だけでも相当なボリューム感があった。怪物的な威容を誇る「オーベルマンの谷」が醸す凛然たるロマンティシズム。休憩後はリスト「巡礼の年」第3年から「エステ荘の噴水」、ラヴェル「鏡」。光と影の間にある無数の段階の輝度を駆使した「エステ荘の噴水」、「道化師の歌」に聴く重厚な躍動感、陶然たる「鏡の谷」の幻想性。ポマードをベッタリとぬりたくったエマールの髪が乱れるところに女子は萌えないのか?
●予定された演目だけでも十分心に残る演奏会だったが、ある意味でその後が本当のエマール祭り。会場の熱狂にこたえて現代音楽だらけのアンコールが延々と続く。太くてよく響く声で「クルターク!」と一声発して「ピアノのための遊び」第7巻から「フェレンツ・ベレーニ70歳へのオマージュ」。続いてハリソン・バートウィッスルの「ハリソンズ・クロックス」、ピエール・ブーレーズの「ノタシオン」9~12、ジョージ・ベンジャミン「ピアノ・フィギュア」6,8,9,10、メシアンの前奏曲集から「軽やかな数」、エリオット・カーター「マトリビュート」……。そして最後に「古典」とでも呼ぶべきシェーンベルクの「6つの小品」op19をまるまる弾いて、長いリサイタルを閉じた。このアンコールのほうこそ本編なのか。客席もこちらを目当てにしていたかのように沸く。もっと、もっと現代音楽を聴かせてくれ、でなければオレたちは飢えてしまうのだ、とでも言うかのように。会場内の熱気の総量を人数で割った「祭り指数」なるものを設定して比較するとしたら、ワタシが出会った今年最強の演奏会だった。
●この後、エマールはN響とラヴェルのピアノ協奏曲を共演する。
●花王がエマールのCMにエマールを起用しますように。セーターを着たエマールが「フツウの洗剤では洗えない素材・アイテムも傷めず洗えますよ~」みたいなことをフランス語でしゃべってニッコリ。奥様方はエマールの髪型にくらくら。
日本フィル首席指揮者ラザレフが契約延長
●日本フィル首席指揮者アレクサンドル・ラザレフの契約延長が決定。2011/12シーズンから16/17シーズンまで5年という長期の延長となった。日フィルはラザレフが首席指揮者に就任してから変わったとみんながいう。これまでこのオケを視野に入れていなかった人たちにもかなりアピールしたのでは。そんな中での契約延長。奉祝。
●で、2011/12シーズンの東京定期および横浜定期の内容が速報されている。東京についていえば、10公演中3公演でラザレフが登場、このシーズンからはラフマニノフをシリーズで取り上げる。それと首席客演指揮者を務める若者ピエタリ・インキネンが2公演。こちらは先日よりスタートしたマーラー・シリーズを継続。他に広上淳一、山田和樹、ラン・シュイ、小林研一郎、下野竜也。新時代のヤマカズ氏の2011年以降のスケジュールはスゴいことになってそう。早くオフィシャルサイトを作ってほしいぜー。
●この週末、その日フィル東京定期でサントリーホールへ(11日)。首席客演指揮者インキネンによるシベリウス/組曲「クリスティアン2世」とマーラー/交響曲第1番「巨人」。名前の通り陰気なヤツだったらいいのにというバカすぎる願いはかなえられず、さわやかさ全開の30歳。「巨人」はまっすぐな力演だが、より楽しめたのはシベリウスのほう。落ち着いた柔らかな響きを堪能。好演。「クリスティアン2世」は第2曲の「エレジー」がいいっすね。
METライブビューイング「ドン・パスクワーレ」
●今シーズンのMETライブビューイング、開幕から「ラインの黄金」(←見逃した)、「ボリス・ゴドゥノフ」と、世界やら国家やら歴史やらが動く重量級作品が続いた後で、ドニゼッティの「ドン・パスクワーレ」。なんという落差、軽快さ。他愛のなさマックス全開で、いい人ばかりが登場するほのぼのワールドにやってきた。ああ、こんな世界の住人になってみたいぜ!
●「ドン・パスクワーレ」とはどういう話か……。若い男が女と結婚したがってるんだけど、金持ちの叔父ドン・パスクワーレが賛成してくれない。ドン・パスクワーレは独身の老人。そこで狂言回しの医者が登場して一計を案じる。女は純情な女性を演じて老人を誘惑し、結婚してしまうのだ。結婚が成立したとたん、女は乱暴でわがままな鬼嫁と化し、一瞬にして老人に結婚を後悔させる。老人はこんな嫁に財産を渡すくらいならと甥に結婚を許す。すると甥の結婚相手とは実はこの鬼嫁でした、正体はとってもいい子なんですよーと種明かしをする。老人は「ワッハッハ、そういうことじゃったか、こりゃ一本取られたなあ」的な善人エンディングを迎えてめでたしめでたし。
●えっ、えっ、これ、見ようによってはカネのない若者たちによる孤独な老人虐待大作戦だったけど、みんな笑って許せちゃうの?
●そう、許せるんである。これは若い男女が機転を利かせたっていう話ではないだろう。むしろ未熟な人間の考える悪知恵というのはこの程度のもの、つまり大人から見た子供の企みがなんと浅はかで、無自覚に残酷なものであるかが描かれている。主役はドン・パスクワーレだ。彼もきっと若いときはブイブイ言わせてた。でも年を取って、財産はあるけど孤独だ。そんな老境にあって、若者の愚かさに付き合ってやれる彼の寛大さ、度量の大きさこそがこの話の主題と見たい。爺は愉快に転がされるべし、という。
●題名役のジョン・デル・カルロは歌も演技も見事。ノリーナはネトレプコ。「若くて美しい女性」から「気立てのいいおばちゃん」に移行中。頼まなくても大盛りにしてくれそうな雰囲気(なにそれ?)。指揮はレヴァイン。オケうまい。うらやましい。
●2幕の終わりの四重唱とか実に鮮やかで思わず拍手したくなるんだけど、映画館だから誰もしないんすよね。
●例によって幕間の舞台裏映像がおもしろい。舞台転換の様子の「現場感」とか。表側の華やかさとは逆に、裏側で必要なのは「安全管理」だなって強く思う。軽く機械萌え。
●東劇は今晩まで上映。
新しい名前を
●「サイトウ・キネン・フェスティバル松本の名称変更と今後のあり方に関するアンケート」が募集されている。新聞報道もされていたが、「サイトウ・キネン」という名称が外国人にはなかなか伝わらないので、20回目となる2011年を機に分かりやすい名前に変更しようということなんであるが……。少し意外かな。「マツモト・フェスティバル」にしても、なにがどう変わるというものでもないだろうし、どう決まるんすかね。
●そういえば愛称「オペラパレス」はどうなったんだっけ。ワタシとしては「オペラパレス」の愛称(愛称の愛称)として「ペラ宮」とか「ペラパ」を考えたんだけど、ダメだったかー。
●これ秀逸。Football Stadium 。たしかにこの連想は無意識下にあった。他の作品も相当に鋭い。no title (grand piano) とか、Photo Tip とか。
とりぱん 10 (とりのなん子)
●メシアンが生きてたらコラボしてほしかったマンガ家ナンバーワン、とりのなん子の「とりぱん 10」最新刊ゲット。
●今回も快調。鳥ネタもかわいいが、犬猫ネタ、虫ネタ、金魚ネタみんなすばらしい。いや、正直なところをいえば、この第10巻は前半いつもに比べるとややギャグが薄味だった気がするのだが、金魚ネタが出てからの充実ぶりはそれを補って余りある。ていうか、この金魚ネタ、秀逸すぎる。すごい仕込でゾクッと来た。ギャグに。
●「とりぱん」、1巻とか序盤の頃は「これおもしろいけどネタ続くなあ」という不安定感があったんだけど、作者は売れながらどんどん腕を上げていったという印象。そうじゃなきゃこの水準の高さは保てないよなあ。強くリスペクト。もともと絵は巧い。
●合わせて買いたい。メシアン「鳥のカタログ」。ウソ。えーと、この鳥はなんだっけ?
ネットで聴ける、あれとかこれとか
●秋からずっとリアル演奏会が多くてしばらくごぶさたしていたネットで聴ける情報。
●まずフォルカーさんのところでも紹介されていたように、france musique のアーカイブでティーレマン指揮ウィーン・フィルのシャンゼリゼ劇場でのベートーヴェン・チクルスを聴くことができる。交響曲第4番&第5番と交響曲第6番「田園」&第7番。いい時代になったなあ。ティーレマンがどうとかはともかく。
●france musique のアーカイブ一覧はこちら。ここのいいところは比較的長くアーカイブを公開してくれるところ(とはいえいずれ期限が切れるが)。惜しいところはストリームの安定度がイマイチってことなんだが、これは環境依存かもしれない。
●もう一つ、最近リリースされた新譜CDを無料で試聴させてくれるオランダRadio4の Plaatpaal 。ずらっと並ぶCDのBeluister(= Listen)と書かれたところをクリックすると聴くことができる。なんとなく「試聴」って言っちゃうけど、おおむねまるまる聴けるわけで気前がいい(ただしたまにトラックからトラックに移る際に止まることがあるのが謎。あと組物だと用意された1枚しか聴けない)。CDのラインナップはときどき入れ替わるっぽい。リザ・フェルシュトマンのベートーヴェン、スゴい切れ味だな……。
●ネット上で無料で聴けるものだけでもその気になれば延々と聴いていられる。とはいえ実際にはそれだけじゃなかなか満足できなくて、聴けば聴くほどCDを買いたくなったり演奏会に足を運びたくなったりするもんだとは思う。
紅葉2010
●これ一週間の前の話なんすけど、三鷹市芸術文化センター・風のホールでカルミニョーラを聴きに行く前に、深大寺まで行ったんすよ、近いから。神代植物公園で紅葉を見て、蕎麦食べて、植物園そばのバス停からバス一本であっという間に三鷹市芸術文化センター。なんという黄金ルート。都内で電車使わずにバス移動できると、なんか得した感じがする。気のせいだけど。
●ホントはハイキングをしたかったのであるが、同一日に山と演奏会は両立しない。でも紅葉と演奏会は両立する。神代植物公園は都内最強レベルの公園であるが、特にいいところは雑木林。程よく手入れされてるけど、少し山っぽさが残されているのがいいんである。盛大な小鳥のさえずりを聞きながら林の中を歩く心地よさ。
●そして紅葉だ。見事なり。人が大勢集まっている。言うまでもないが、公園と山は違う。たとえば街にゾンビがあふれたとき、山に避難することはありえても、公園に避難するわけにはいかない。こんなに人が多いのだから、公園では人→(噛み付き)→ゾンビへの終末的変態は速やかに進行する。モミジのみならずあらゆる木々も草花も赤く染まるであろう、血の色で。
●と、一週間前の紅葉を今ごろ反芻してみる。
ロシア2018、カタール2022
●その瞬間、見てたですよ、ライヴでFIFAのネット中継を、手に汗握って。2018年と2022年のワールドカップ開催国決定の瞬間を、2022年はなにかのまちがいでニッポンが選ばれる可能性もゼロとはいえない、そうなったらどうやってワタシは喜びを表現すればいいのか。代表パチユニ着て、渋谷行っちゃう?
●なーんて、そんなわけないじゃないっすかー。2018はイングランド、2022はアメリカに決まってるんだってば。ド本命。2010に南ア、2014にブラジルと来たからには、2018は久々にど真ん中のサッカー国に帰ってくるしかないし、2022に辺境国で市場開拓をやるなら圧倒的にセールスの見込める米国でビバ市場原理。これだけ結果が見えてるのに、なにをドキドキしてるんだか自分、Twitterのトレンド欄にも England2018 って言葉が見えてて、これ絶対だれか情報漏らして絶賛ネタバレ中。
●そんなことを思っていた自分が阿呆にしか見えなくなった、数分後にまさかの「ロシア2018」が決まり、まさかまさかまさかの「カタール2022」が決まった。後で知ったけど、イングランドって最初の投票で真っ先に落ちたってよ。ああ、「フェアプレー」をしちゃったってこと? 2022のほうは最初にオーストラリア、次に日本だって。なあ、もうロシアにカタールなんだから、理事にアピールするにはだなあ……いやここぐっと堪える、堪えるけど、うう。
●滂沱。カタールってサッカーの世界じゃアジアなんですよ(謎)。だから2022がアメリカじゃなくてカタールになった時点で、2026と2030はアジアじゃなくなった。アジアは早くて2034。しかもそれすら中国? まあ、もう何にせよ、ワタシがもう一度母国でワールドカップを体験する可能性はかなり低くなったようだ。もちろん、一度でも母国でワールドカップが開催された人は幸運だ、世界的には圧倒的少数派なんだから。もし2002年が胸を張れる大会だったら「よかったね」で済んだ。ホントは何年大会かなんて関係なくて、ワタシはただ2002年を(その一部を)やり直したいだけなのかも。でもやり直しなんてないのだ。そんなものはないからこの世に「失敗」がある。
●南ア2010、ブラジル2014、ロシア2018、カタール2022。これでよかったんすか、FIFAのみなさん。ワールドカップはもうワールドカップじゃないなにかになりつつあるのかも。
●じゃ、キューバ2026、バングラデシュ2030、ボツワナ2034、バヌアツ2038……。
●ロシア2018が決まったあの場にゲルギエフいたでしょ。えっ、いまロンドン交響楽団と来日中じゃなかったの?と思ったが、なんか公演後にダッシュして羽田の夜便に搭乗したとかいう話で、まさかチューリヒのFIFA本部に向かっていたとは。
●イングランド勢の落胆も大きかったようだ。BBC Music MagazineがTwitterで「ロシアはゲルギエフを連れてきたから勝った。どうしてわれわれはサー・マーク・エルダーを送り込まなかったのか」とかつぶやいてて大笑い。あと「2018年大会が終わるまでウチの雑誌ではロシア音楽は記事にしない」とか書いてて(笑)、だったら「レコード芸術」や「音楽の友」も2022年まではカタール音楽を特集しないのがいいと思うぞ。
ショパン・コンクール2010&アヴデーエワ(+サプライズゲスト)記者会見
●昨晩のワールドカップ開催地決定のニュースに衝撃を受けて今かなり動揺してるんすが(ロシア2018、カタール2022!)、そちらは一日かけて消化するとして、昼の記者会見から。今年のショパン・コンクールの優勝者ユリアンナ・アヴデーエワも登場する「第16回ショパン国際ピアノ・コンクール/ショパン生誕200年」記者会見(帝国ホテル)。写真は左からN響常務理事古谷邦雄氏、ユリアンナ・アヴデーエワ、ヴァルデマル・ドンブロフスキ氏(コンクール主催者代表、ショパン・インスティトゥート所長)、スタニスワフ・レシュチィンスキ氏(同副代表、同副所長)。他にポーランド大使館からも登壇。
●ポーランド大使館からは、まずロドヴィッチ大使の新作能「ショパン」についての案内。これ、今年のラ・フォル・ジュルネ金沢で上演しましたよね? 東京でも上演されるんだとか。
●で、コンクール主催者代表からは「今回のショパン・コンクールはこれまでになく水準が高かった」「審査員には教育者よりも実際に演奏活動で活躍する人を優先した。これは目覚しい成果を上げた」ことなどが述べられ、開始時間から50分以上経って、ようやくユリアンナ嬢にマイクが。アヴデーエワ「今回の受賞を名誉なことだと思っています。NHK交響楽団と共演することをとても楽しみにしています」と簡単な挨拶。むむ、これでタイムアップなのか、うーん……と思っていたら! ここで超サプライズ・ゲストが2名あらわれた。これはびっくり。
●なんと、今回のコンクールの審査員でもあり過去の優勝者でもあるマルタ・アルゲリッチ(中央)とダン・タイ・ソン(右)が登場。急にこちら側の出席者たちが浮き足立って、みんな目が覚めたかのように突如カメラを掲げて右往左往。一瞬軽くカオス、一瞬だけ。
●アルゲリッチ「今回のショパン・コンクールのレベルの高さには本当に驚いた。審査をしに来たというよりは、発見をしに来たのだと感じる。多くの若者たちがショパンに献身的に取り組んでいることに感銘を受けた」
●ダン・タイ・ソン「ファイナルに残った10名にアジア人がいなかったのは、アジア人として残念。近年ずっとアジア人入賞者がいたのに。10名全員欧州人で、特にロシア勢の躍進が目立った。アジアが低調だったというよりは、欧州が巻き返したのだと思う。今回のコンクールのレベルは高かった」
●(優勝はプレッシャーになる、アルゲリッチさんらにアドバイスを求めるなら?という質問を受けて)アヴデーエワ「優勝は栄誉であるがたしかにプレッシャーもある。音楽家として人間として成長しなければいけない。どうやってバランスよくそれを実現するかを尋ねたい」。
●アルゲリッチ「申しわけないけど、私は優勝したときもぜんぜんプレッシャーに感じませんでしたよ(笑)。私にとって、コンクール優勝は自然なことだった。でもコンサートにプレッシャーを感じることはある。あなたがこれからやらなければいけないのは、人生そのもの。プレッシャーと戦うのが人生そのものになる。そこでどうやってバランスを取るか、生き方が問われる」
●アルゲリッチはアヴデーエワの演奏に対しては「最初から終わりまで、バランスが完璧に取れていた」と評していた。
●アヴデーエワはN響との共演以外に、12月8日オペラシティでリサイタルを開く。
ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ
●この前の日曜日、28日に三鷹市芸術文化センター・風のホールにて、ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ。オール・ヴィヴァルディ・プロ。2年前も同じホールで聴いた。
●猛然と楽しんだ。もうほとんど「信者」かも。ヴィヴァルディを聴きに来たというよりは、カルミニョーラを聴きに来たモード。アグレッシヴだったりよく歌ったりするコントラスト振れ幅最強に強まったカルミニョーラ節を堪能。あのオッサンの弓、ときどき弧を描いて、しなって見えないっすか、指先で鉛筆つまんでゆらゆらすると曲がって見えるのと同じ理論で。
●カルミニョーラのステージって、いい意味で演出され切ってると思うんすよ。前半5曲あるんだけど、そのうち最初の3曲は本人出てこなくてヴェニス・バロック・オーケストラ(以下VBO)だけで演奏する。シンフォニア、コンチェルト、シンフォニア。これがなんとも冴えないというか大人しいんだけど、これワザと説。で、カルミニョーラが出て来ると、とたんに舞台がギラついて、生命力あふれすぎるヴィヴァルディが炸裂。聴衆はカルミニョーラが出てきた時点でもうオーラに圧倒される。ホントにカッコよすぎる。プロポーズしちゃいそう(しません)。
●ヴァイオリンは立って弾くのと座って弾くのとじゃカッコよさが段違いだなー。もちろんみんな立って弾く。VBOには内緒のルールがあるにちがいない。ヴァイオリン奏者は太ってはいけない、立ち姿が映えるように。ただしカルミニョーラより長身ではいけない。男性に限る。ヴィオラ奏者は痩身の女性に限る。太ってはいけない。しかし通奏低音部隊はシブいオヤジであることが求められ、痩せていてはいけない、貧相に見えるから。←あ、これワタシの妄想だから。
●休憩後に3曲しかないんだけど、アンコールは大サービス。タルティーニのヴァイオリン協奏曲D96第4楽章があって、ヴィヴァルディ「四季」の「夏」第3楽章。これは今日はもうおしまいの合図かなと思ったんだけど、ノリノリの客席にこたえて、「四季」の「秋」第1楽章をやって、第2楽章をやって、結局第3楽章もやる。あー、笑いが止まらない、この愉快さ。カルミニョーラとVBOは、演奏中も演奏の合間も舞台上でのお互いのコミュニケーションが多いのがいいっすね。たとえ、楽譜にカルミニョーラの指示で「ここでリュートとヴィオローネが目配せしてニッコリする」と書いてあったのだとしても、ワタシは信者になって楽しむから!(←いやそれ妄想ですから)。
バルセロナvsレアル・マドリッド、モウリーニョ、監督業
●久々に見たスペインリーグは通称「クラシコ」ことバルセロナvsレアル・マドリッド。WOWOWだと岡田武史前日本代表監督はフツーに解説者してる。すっごく局に協力的に、いかに今回のクラシコが魅力的な対戦となったかを語ってくれる。お互いにベストコンディションであること、そしてレアル・マドリッドの指揮官が名将モウリーニョがであるがゆえに今季の対戦は注目に値すること、など。
●モウリーニョが来てからレアル・マドリッド本当に変わった。かつての「銀河系軍団」の華やかさはその片鱗すら見当たらず。スター選手が山のようにいるのに、みんなでチームプレイを心がけ、守備に奔走し、規律は限りなく高い。レギュラーメンバーは固定。基本の攻撃陣はトップにイグアイン、左右にクリスチャーノ・ロナウドとディ・マリア、トップ下はエジル。エジルは最高っすよ。カカーの怪我が完治したとしても、エジルを押しのけることは到底できないのでは。いやー、これだけタレントをそろえて、勝負に徹したサッカーをやったら、さすがのバルセロナも苦戦するかもしれん。
●そう思ったのはほんの一瞬で、試合が始まってみたら、あっという間にレアルはカンプノウの狂騒に飲み込まれて、バルセロナのいつもの「ウイイレ名人」みたいなパスサッカーが炸裂、まさかの5-0。最初のゴールのシャビのトラップとか、うますぎて笑う。
●エジルは何もできずに前半のみで交代。イグアインは軽い怪我でベンゼマ先発。どれだけ大敗しても勝点3を失った一試合に過ぎないとも言えるので、モウリーニョ的にはアウェイのクラシコに関しては敗北も織り込み済みだったのかなという気もする。
●モウリーニョは以前バルセロナの通訳だったんすよね。というかボビー・ロブソンの通訳として彼といっしょにバルセロナに来たと。それが今や世界最高の監督として、バルセロナと対戦しているんだから、本当に人の人生はなにが起きるかわからない。まだ監督業やって10年だもんなあ。
●モウリーニョにはプロサッカー選手としての経験もない。これはサッカー界ではぜんぜん珍しいことではなくて、アリゴ・サッキもそうなので、超名監督に関してはプロ選手経験なし率は結構高いかも。現ニッポン代表監督のザッケローニもそうだし、ゼーマンや、大分にいたシャムスカもプロ経験なし組。ヴェンゲルやトルシエは一応プロ選手経験はあるけど、ごく短期間だったり二部リーグだったりする。この現象に関してはサッキの「良い騎手になるために、かつて名馬であった必要はない」というムチャクチャなロジックの名言がある(笑)。
●それに比べると日本人監督にはさすがにプロ経験なしなんて人はいないよなあ……と思ったのだが、少し前に神戸を解任された三浦俊也氏がそうなんすね(仙台→水戸→大宮→札幌→神戸)。制度上、日本のS級ライセンスをプロ経験なしの指導者が獲得するのはかなり難しそうなんだが、三浦俊也氏の場合はドイツの体育大学で学んで、ドイツのライセンスを取得し、それが日本の免許になっているんだとか。つまりドイツ人監督がJリーグの監督を務める資格を持つのと同じ理由で監督有資格者なわけだ。そう考えると、なんだか先進的な監督っていう気がする。少し応援したくなったが、この前解任されたばかりだからなあ。来季もどこかJリーグのクラブが三浦監督と契約してくれますように。
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P.S. うっかり発行しそびれて「めるまがCLASSICA」を休刊扱いにしてしまいました。こちらの簡単な手続きで復刊できるので、まぐまぐの「休刊のお知らせ」メールはスルーしてください。