●今シーズンのMETライブビューイング、開幕から「ラインの黄金」(←見逃した)、「ボリス・ゴドゥノフ」と、世界やら国家やら歴史やらが動く重量級作品が続いた後で、ドニゼッティの「ドン・パスクワーレ」。なんという落差、軽快さ。他愛のなさマックス全開で、いい人ばかりが登場するほのぼのワールドにやってきた。ああ、こんな世界の住人になってみたいぜ!
●「ドン・パスクワーレ」とはどういう話か……。若い男が女と結婚したがってるんだけど、金持ちの叔父ドン・パスクワーレが賛成してくれない。ドン・パスクワーレは独身の老人。そこで狂言回しの医者が登場して一計を案じる。女は純情な女性を演じて老人を誘惑し、結婚してしまうのだ。結婚が成立したとたん、女は乱暴でわがままな鬼嫁と化し、一瞬にして老人に結婚を後悔させる。老人はこんな嫁に財産を渡すくらいならと甥に結婚を許す。すると甥の結婚相手とは実はこの鬼嫁でした、正体はとってもいい子なんですよーと種明かしをする。老人は「ワッハッハ、そういうことじゃったか、こりゃ一本取られたなあ」的な善人エンディングを迎えてめでたしめでたし。
●えっ、えっ、これ、見ようによってはカネのない若者たちによる孤独な老人虐待大作戦だったけど、みんな笑って許せちゃうの?
●そう、許せるんである。これは若い男女が機転を利かせたっていう話ではないだろう。むしろ未熟な人間の考える悪知恵というのはこの程度のもの、つまり大人から見た子供の企みがなんと浅はかで、無自覚に残酷なものであるかが描かれている。主役はドン・パスクワーレだ。彼もきっと若いときはブイブイ言わせてた。でも年を取って、財産はあるけど孤独だ。そんな老境にあって、若者の愚かさに付き合ってやれる彼の寛大さ、度量の大きさこそがこの話の主題と見たい。爺は愉快に転がされるべし、という。
●題名役のジョン・デル・カルロは歌も演技も見事。ノリーナはネトレプコ。「若くて美しい女性」から「気立てのいいおばちゃん」に移行中。頼まなくても大盛りにしてくれそうな雰囲気(なにそれ?)。指揮はレヴァイン。オケうまい。うらやましい。
●2幕の終わりの四重唱とか実に鮮やかで思わず拍手したくなるんだけど、映画館だから誰もしないんすよね。
●例によって幕間の舞台裏映像がおもしろい。舞台転換の様子の「現場感」とか。表側の華やかさとは逆に、裏側で必要なのは「安全管理」だなって強く思う。軽く機械萌え。
●東劇は今晩まで上映。
December 10, 2010
METライブビューイング「ドン・パスクワーレ」
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