●あれこれあったが、東京のラ・フォル・ジュルネはオープニングセレモニーにたどり着いた。LFJ公式ブログにあるように、ルネ・マルタンも無事来日。東京国際フォーラムでの本公演より一足先に、丸の内・周辺エリアでは本日から無料公演がたくさん開かれる。いつもは音楽祭の規模があまりに大きいので、なかなか東京国際フォーラムの外に意識が向かないんだけど、今年は一度くらいは周辺エリア企画に足を運んでみてもいいかもしれない。
●音楽祭に合わせて「フランス的クラシック生活」(ルネ・マルタン著、高野麻衣解説/PHP新書)が刊行された。これはルネ・マルタンによるクラシック・ガイド本ということで、シチュエーション別にオススメの名曲を教えてくれる構成になっている。たとえば「昼休み、カフェで試験勉強」だったらベートーヴェンの交響曲第7番の第2楽章、「バーゲンセール」に臨むんだったらハチャトゥリアンの「剣の舞」とか。
●これは相当な離れ業でできた本なんすよね。というのも、ルネ・マルタンの著書となってるけど、実質的なテイストでいえば高野麻衣さんの本だから。日頃彼女の掲げる「乙女」であること、ガーリーなセンスで貫かれているから、こういう構成になる。そして、高野さんが書いているコラムがこの本では一番の読み物なんじゃないかな。この本の乙女な世界はオッサン臭さの対極にあるんすよ。オッサンというと悲しいから、男子っていうけど(笑)、「フランス的」とか「カフェ」とか「教会」とか「恋」といったキーワードは、男子からは出てこない。
●男子は、たとえば仮にワタシがルネ・マルタンとクラシックガイドを作ることになったら、まずどういう発想をするかというと、音楽史を切り口にしようと考えるだろう。だって、これまでのLFJのテーマは西洋音楽史を順番にブロックごとに埋めていくように設定されてるから。モーツァルトがあってベートーヴェンがあって、それからシューベルト、さらにショパンに名を借りたロマン主義(去年)、そしてリストの長い生涯を境目として続くポスト・ロマン主義(今年)、古典派の前はバッハのテーマでバロックを軽く一望しているし、国民楽派(民族主義)もやっている、だから今後彼はフランス近代やロシア音楽といったテーマをきっとやるだろうし、もし予算的集客的制約がなかったら、LFJ「戦後の音楽」とか「ルネッサンス期の音楽」とか「アメリカ音楽」をやりたいに決まっている。だからルネ・マルタン本は音楽史で大項目を立てておいて、小項目では彼のこれまでのアーティストとの出会いなんかを反映させるように考えよう、それからリヒテルとの貴重な思い出話がたくさんあるはずだからそれは別項目で押さえよう……等々、そんなふうに考えて、肉でもなければ魚でもないもの(©オシム)を作ろうとして失敗する。
●「フランス的クラシック生活」ではサティの「グノシエンヌ第1番」を紹介するために、大項目に「恋、そして人生」を掲げ、小項目に「つまらないデート、つまらないケンカ」を置く。つまりルネ・マルタンにデートのワンシーンみたいなものをしゃべらせているんすよ!すごく攻めてる。一見軽やかな本だけど、これは労作。肉あるいは魚になっている。
April 29, 2011
LFJ開幕、「フランス的クラシック生活」
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