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May 11, 2011

「勤めないという生き方」(森健 著)

勤めないという生き方●会社に勤めるのではなく、個人としてあるいは法人を作って独立して仕事をする人たち。そんな人たちがどういう背景を持ち、どうやって独立に至り、どんな価値観で生きているのか。13人にがっつりと取材したのがこの本。「勤めないという生き方」(森健著/メディアファクトリー)。ワタシはこれを一読した後、今、2周目を読んでいる。
●登場する人々の仕事はさまざま。会社を辞めて、職人として生きる。町おこしをする。ネットショップを作る。農業を始める。NPO法人を作る。本の帯に「会社をはなれて見つけた自分らしい働き方!」とあるのだが、なんというか、実際には「自分らしく」なんていうキーワードは空々しいものだ。この本に登場する人も、ワタシの周囲で勤めないで仕事をしている人も(ワタシ自身もそうなんだけど)、自分らしさを追い求めている人はどちらかというと少数派で、「成り行きでそうなった」とか「止むに止まれずそれしかなくてそうなった」みたいな人が多いんじゃないかな。
●本書だと、たとえば革職人の木下氏の例。学生時代はラガーマンで漠然とプログラマーの仕事をイメージしていた(がPCには触ってもいない)のが、たまたま地元に工場があった皮革製品を作る会社に就職する。仕事はおもしろかったが景気が低迷して給料がカットされ、これじゃ食っていけないと会計事務所に転職。で、そこは安定していたんだけど、知人が立ち上げた新会社がよさそうでそちらへ移ると、当てが外れて窮乏生活へ。借金まで負う。昔の勤め先の革製品の工場へ営業に行ったら「お前はなにをやってるんだ?」と恩師に諭され、もう自分でできることをやるしかない、自分で作って自分で売ろうと革財布を作ってヤフオクに出品したところから仕事が回りだして、今は革職人として成功を収めている。傍から見るとすごく回り道をしてるようなんだけど、本人は「迷い道も含め、すべて必要な道程だった」って語ってるんすよね。
●これって「もっと自分らしく!」ってのとは違うじゃないすか。割りとみんなそう。長年そこを目指してやってきましたって人より、「会社で行きづまって」みたいなネガティブ動機のほうがよくある現実だろう。
●この本はただの成功体験記になってないところがいい。自慢話をしている人がいない。これもよくわかる。もう引退年齢になるとみんな自慢話になりがちなんだけど(ゴールした後ならいくらでもカッコいいこと言えるから)、現役バリバリ年齢だと「今はうまく行ってても、いつまでもそうとは限らないし、仕事は山あり谷あり」ってのをまちがいなく肝に銘じているはずで、順風満帆に見える人もいれば、うーん、この後はどうするのかな?って人も登場する。リアルだ。一人一人がみんな違う事情や人生観を持っているからひとくくりにするのは難しいんだけど、「しかるべきタイミングでの偶然の出会い」が決定的な役割を果たした人は多いんじゃないかと思う。

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