●METライブビューイングで「イル・トロヴァトーレ」。いま本物のMETが来日しているわけだが、でも映画館で見るMET。「イル・トロヴァトーレ」ってとことんイタリア・オペラっすよね。愛、憎しみ、嫉妬、復讐。濃厚な感情表現超特盛り、「おいおい、どうしてそんなに早合点するの、もっと人の言うことを聞いたらどうよ?」みたいな疑問を数万光年の彼方に置き去りにして展開される最強に熱い人間ドラマ。で、音楽がとにかくスゴいじゃないすか。たった一作のオペラにこれでもかというくらい名曲がぎっしり詰まっていて、作曲家の創作意欲があふれ出てくるのが伝わってくる。これぞ名作。
●「イル・トロヴァトーレ」って、ミステリーなんすよね。殺人があって、犯人があって、死体があって(回想的にだけど)、しかも最後の一行(←比喩)でどんでん返しというか、オチがある。なにしろ「このミステリーがすごい1853」の第一位だし(ウソ)。
●とはいえ、このオチって本当にどうにかしたいところでもあって、反復して鑑賞される古典のオチとしてはスマートさに欠ける。こんな「最後の一行」を歌わされるアズチェーナ役(ドローラ・ザジック)には同情するしかないんだが、しかしその筋立ての弱さを超越してたのがザジックの歌唱と演技。圧巻。
●幕間インタビューでも「イル・トロヴァトーレは筋が複雑で……」って話してたけど、複雑っていうより台本が悪いと思う。このオペラのあらすじってどれを読んでも「えっ?」ていう疑問が残る。アズチェーナは誘拐した伯爵の子供を焼き殺そうとして、まちがえて自分の子を火にくべちゃったわけでしょ。そんなふざけたまちがいを登場人物にさせていいのか、しかもそれが回想でのみ述べられる物語作法ってどうなのよ。で、最後に真相を告白した瞬間、間髪いれずに伯爵がそんな荒唐無稽な真実を受け入れて苦悩するって、おいおい、この人には猜疑心ってものがないのか、だいたい自分の血を分けた兄弟に気づかないのもどうなのか。それに比べるとレオノーラの愛とか献身なんてもうどうでもいいって言うか、えっ、死ぬの、毒飲んだの、どうせマンリーコ死んじゃうのにそれ犬死だよっ! もうツッコミどころが多すぎて忙しすぎる!……とオペラの醍醐味を満喫。やっぱりこれくらいすっ飛んでないと。
●マルセロ・アルヴァレス、ソンドラ・ラドヴァノフスキー、ディミトリ・ホヴォロストフスキー、ドローラ・ザジック。指揮はアルミリアート。
●あの……やっぱりアズチェーナはまちがえてないと思うんすよ、子供を。まちがえるわけがない。マンリーコはあくまで実子だと仮定して、この物語を解釈するのが真のオチでは?
June 3, 2011
METライブビューイング「イル・トロヴァトーレ」
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