●品切状態の本をさらにしつこく紹介する(笑)。「ラヴェル その素顔と音楽論」(マニュエル・ロザンタール著/マルセル・マルナ編/春秋社)。ラヴェルの譜面台に置いてあった楽譜。R・シュトラウスの「ドン・ファン」、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」は前にも挙げたけど、ほかにはサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番がいつも置いてあった、と。ラヴェルはロザンタールにこう言った。
「まさに、この一曲の中にすべてがあるんだ。こんなにも少ない素材で、ここまで完璧な結果を出せるんだからね」。
●サン=サーンスのピアノ協奏曲はワタシも好きだが、普通だったら第2番ト短調か、あるいは第4番ハ短調を選びそうなものを、第5番ヘ長調とは意外。この曲、「エジプト風」の愛称の由来になっている第2楽章以降が、かなり気恥ずかしいタイプの曲で身悶えしてしまうんだが、まさかの第5番。ラヴェルも曲の悪趣味は認めていたようで、オーケストレーションの職人的な質の高さ、創意工夫を評価していたらしい……。
●ロザンタールがプッチーニを悪く言ったら、ラヴェルが「トスカ」全曲を弾いてくれたというエピソードもおもしろい。
●あと、ラヴェルの愛称。友人たちの多くは彼を「ララ」と呼んでいたという。こういう愛称の付け方がフランス語でどの程度フツーなのか、ワタシにはぜんぜんわからないんだけど、なんだかかわいい。プーランクは「ププール」で、著者によれば「プーランクにはなんともお似合いだ」となる。なんでラヴェルがララなの? プーランクはププじゃないの? ジェルメーヌ・タイユフェールは「メメーヌ」なんだって(笑)。ララもププールもオッサンの愛称としてはかわいすぎる。