amazon
August 10, 2011

松田直樹(1977-2011)

サカマガ●駅のキオスクでサッカーマガジンを見かけたら、表紙が松田直樹だった。マリノスを離れ、今季よりJFL(つまり3部リーグ)の松本山雅FCに移籍した松田直樹が、こんな形でふたたびサッカー雑誌の表紙を飾ることになるとは……。残念でならない、というか信じられない。
●34歳の現役サッカー選手が練習中に突然倒れて、世を去る。あまりにも唐突で、最初はリアリティを感じられなかった(エスパニョールのハルケとか、セビージャのプエルタとか、心臓疾患で突然死を迎えるサッカー選手はこれまでにも何人かいたが)。でも昨日、昼間に一瞬テレビをつけたら、松田の死がものの見事にテレビ的な物語の枠組みに収められているのを目にして、いたたまれない気分になり、これが現実のことであると悟った。涙する松本山雅FCのサポたちが映されていた。彼らもテレビに蹂躙されているのかもしれない。うまくいえないんだが、彼らはもっと松田に無関心でもおかしくないし、ワタシの知るJFLのノリはあんなにJリーグ的じゃない。でも松本山雅ではああなのかもしれない。よくわからない。いずれにしても、テレビ的物語の枠からはみ出るものは放映されないんだろう。
●2000年代前半の松田はJリーグのレベルを超えていた。マリノスは2003年、2004年とJリーグを連覇。ワタシの認識では、この時期のマリノスはフィジカル重視で、手数をかけないダイレクトフットボールでリーグを制覇したのであり、松田と中澤の屈強なセンターバックがチームを支えていた。ミスターマリノスと呼ばれるのは攻撃のタレントかもしれないが、伝統的にこのクラブのキモはセンターバック。松田直樹こそマリノスを代表する名選手だ……と称えたい一方で、松田くらい腹立たしい選手もいなかった。要らないカードをもらって退場。無謀な攻撃参加。すぐカッとなる。なにをするかわからない。
●松田が怒っている姿もよく見たなあ。福岡戦だったかな、記憶だから違うかもしれないけど、相手が攻めなきゃいけない場面で(でも終盤で試合の結果はもう見えていて)、「どうしてボールを奪いに来ないんだ」ってバックラインでボールを保持しながら敵に怒っていたことがあったっけ。あと、キーパーの榎本が退場したときに、もう交代枠がなくて松田がゴールマウスに入ったこともあった(で、失点した)。なにも要のセンターバックがキーパーやらなくてもいいじゃないの。ボールを持ち上がって、あきれるほど見事なビューティフル・ゴールを決めたこともあった。
●代表ではトルシエ時代にフラットスリーの一角を担ったが、ジーコに代わってからは一悶着あって呼ばれなくなってしまった。ジーコ・ジャパンがW杯でフィジカルの弱さを露呈してしまったことを考えると、あそこに松田がいたらなあと思わなくもない。でも、ジーコも規律を乱すような選手を呼ぶわけにはいかなかったんだろう。規格外の選手なので軋轢も起きる。
●本来なら3月に組まれていた横河武蔵野FC対松本山雅FCの試合で、緑のユニをまとった松田直樹を見るチャンスがあった。しかし震災の影響でリーグ戦が中断され、試合は10月に延期されてしまった。対戦相手として松田直樹を迎えるのはどんな気分だっただろうか。いいプレイをされても、悪いプレイをされても、ずいぶん憂鬱な気分になったにちがいない。そして、もうそんな機会も訪れないと思うと悲しい。

トラックバック(0)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/1763