●サイモン・クーパーの「フットボール・オンライン」(web Sportiva)がおもしろい。この連載のなかにはサッカーをめぐる統計について触れた部分がいくつかあって考えさせられるんだが(サイモン・クーパー本人が「サッカーノミクス」というサッカー関連のデータ分析会社の設立に参加している)、たとえばPK戦。「PK戦、コイントスに勝ったら迷うことなく先攻を取れ」によれば、「PK戦の約60%は先攻チームが勝っている」という。先攻が有利というのはみんな感じていることだとは思うが、60%というのはずいぶん大きな数字だ。つまり、先攻は後攻の1.5倍の勝率を持つ。これはどう考えても両者のキッカーの精度やキーパーのセーブ技術より大きな差だろう。
●これくらい勝率が違うと、PK戦というのは「五分五分のくじ引き」ではなく、一種のハンディキャップマッチみたいなものになる。先攻か後攻かを決めるのはコイントスなので、総体としてはフェアな戦いではあるんだけど、「コイントスに勝利する方法はあるのか」をマジメに考えたくなってしまう。まあ、それはムリにしても「PK戦そのものが非サッカー的」と思っているのに、そのうえコイントスの寄与度がこんなに高いとなれば、ますますPK戦に対して割り切れない思いが募る。それまでの120分の戦いはなんだったの?
●PK戦に代わる方法で、なおかつテレビ中継とも相性のいい方法はないんすかね。延長に入ったら両者人数を減らして点を入りやすくするとか、ダメ?
2011年9月アーカイブ
PK戦で重要なのはコイントス
「ピアノスタイル」「ヒメのたしなみ」「ヒメの笑顔」
●おしらせをいくつか。
●今月発売の隔月刊誌「ピアノスタイル」10月号の特集「今年の秋はオーケストラを聴こう!」をメインで執筆。ピアノの雑誌なんだけど、「ピアノ弾きの人にもたまにはオケを聴いてみようよ?」っていう趣旨。ピアノの世界とオケのコンサートの世界、近いようですごく遠いので、読者の方になにかのきっかけを与えることができれば幸い。
●コンピCDで「ヒメのたしなみ クラシック ~定番曲を知っておかねば~」。これは女性のためのコンピレーションアルバム「ヒメシリーズ」で、先にミッツ・マングローブさん監修の演歌コンピ「ヒメのたしなみ」が2枚出ている。「若い女のコは演歌のこと知らないだろうけど、最低限これくらい知っておいたほうがいいんじゃないの」っていう選曲なんすよね。で、演歌に続いて、それのクラシック版を作ろうということで、ワタシが選曲と解説を担当しました。このジャケにミッツ・マングローブさんのステッカーが貼られて発売中。企画意図に全力で添った選曲。
●同じヒメシリーズのオペラ・バージョンとして「ヒメの笑顔 ~幸せになるオペラ~」も発売中。こちらは構成と解説を担当。最終的な選曲とジャケットイラストは漫画家であり声楽家でもある池田理代子さん(おお!)。オペラ劇場にヒメの姿が増えてくれますように。
●FM PORT「クラシックホワイエ」は毎週土曜日23時より放送中。新潟県内の電波ラジオまたは全国からauのLISMO WAVEで聴けます。次回のテーマは「鉄道クラシック」。オネゲルの「パシフィック231」とかコープランドの「ジョン・ヘンリー」他を。ヴァイオリンとピアノのデュオ「杉ちゃん&鉄平」のお二人にもご登場いただきました。ヴァイオリンで踏切とかやってくれて感激!
BS天国あるいは地獄、10月から
●アナログもすっかり停波した後にようやくデジタルテレビを導入したわけであるが、おかげでBS放送も見れる(ら抜き)ようになり、サッカー番組を検索するとガンガンとヒットする。NHKだけでもJリーグ、プレミア、セリエAの試合がいくつもあるし、NHK以外のBSでACミランの試合とかなんだかとかいろいろあって、生中継にこだわらなければ山のようにサッカーの試合がある。なんだ、WOWOWを解約してスペインリーグがなくなっても、スゴい量じゃないの。興奮してハードディスクに録画しまくる。そして録画されたデータはほとんど再生されないまま電子の藻屑と消える。録っては消し、録っては消し……デジタル賽の河原なのかっ!
●が、その程度で慄いていては甘いと知った。10月よりBSのチャンネルが大幅に増えるっぽい。すでに番組表データに「BSスカパー」とか「J SPORTS」といったチャンネルの試合が登場しており、録画予約してみるとできちゃったりする。どうやら開局記念キャンペーンで無料放送もあるみたい。Jスポーツは2011年10月1日(土)~7日(金)の7日間、全4チャンネルを無料放送する。サッカーだらけだ。
●「BSスカパー」も無料放送があるみたいなんだけど、これがよくわからないんすよ。ウェブに書いてある文言なんだけど、「今、スカパー!e2に16日間無料体験またはご加入いただくと、BSスカパー!が1年間無料」って書いてある。「16日間無料体験またはご加入いただくと」っていうあたりに謎を感じるぞ。16日間無料体験を申し込むと1年間無料なの? じゃあ16日間ってのはなんなのさ。あと10月1日から10日間は申し込みなしで無料。いろんな無料があってわけわからん。ともあれ、こちらにもサッカーがある。
●あれ、「BSスカパー」と「J SPORTS」ってのは、どういう関係なの? 関係ないんだっけ? うーむ、ワタシはテレビのことが本格的にわかってないくさい。
●なるほど、これだからWOWOWが解約した後も念入りに何度も再加入のお誘いを送ってきたのか。今月も番組表が届いたくらいだ。こんなにチャンネルが増えてテレビの時間を奪い合いするんじゃ、WOWOWも大変。で、10月1日と2日はWOWOW大開局祭があるようで、おかげで10月1日より放送される「メトロポリタン・オペラ」の第1回「ラ・ボエーム」が無料放送される。ゲオルギュー、ヴァルガス、ルイゾッティ指揮、ゼッフィレッリ演出。録画せねば……いや待て、これはDVDがウチにあったか。むしろ10月8日の「ラインの黄金」を見たい、こっちはMETライブビューイングでも見逃している。番組ごととか一日ごとの支払いができたらいいんだが。
●てか、どんだけテレビ漬けなのか。テレビ自体はあまり見てないので、テレビよりもテレビ番組表のほうをよく見てる気がする(EPGっていうの?)。ウヒョー、番組表最高!検索楽しい~みたいに。誰も見つけることのできないオレだけのお宝番組を検索してやるぜ、と仮想的に燃えてみたりするが、実際にはテレビなのでCDやらラジオやら本やらより桁違いに大量の人が見ているのであった。
最強ジャケ
●「ミュージック・ジャケット大賞」という賞が投票を募集中(どういう主催者なのかサイトを見てもぜんぜんわからないのが謎)。2010年4月~2011年3月に発売された国内盤CDのなかから、すぐれたジャケットを選ぼうということで、業界関係者による一次審査を通過した50作品がノミネートされている。
●で、挙げられた50作品を眺めてみると、たしかにどれもカッコいい。一枚を除いてどれも聴いていないので、中身との関係はわからないんだけど、見ているだけで楽しくなる。手がかかっていて、知恵も絞られているなって感心する。なるほどー、「クラシックのジャケは酷い」って言う人たちが求めるのはこの水準なのかなあ?
●ノミネート中、唯一の知っているアルバムが吉松隆版「タルカス」。少し反則っぽい気もするが、これは原典へのリスペクトもあってということなのか。クラシック系(?)はこれ一枚のみ。
●LPからCDに変わった時に「ジャケットの楽しみがなくなる」って言われたけど、結局CDになってもジャケの魅力は健在だ。さらにCDというフォーマットも次の段階に進もうとしているが、仮に配信のみのアルバムばかりになったとしても、やっぱりジャケを気にする人は多いかも。ジャケっていうかサムネイルっていうか、もしかしたらアイコン。思わず「アイコン買い」とか。
●クラシックで最強に強まったジャケって、どれなんすかね。
秋分クセナキス、仏滅マリノス
●そういえば今年はシルバーウィークって言わないのか。暦の上では2週連続で三連休が続いた。土日月と金土日だったので、間にはさまれた平日3日間の肩身が狭そうに見える。
●23日(祝)は白寿ホールで大井浩明(ピアノ+モダン・チェンバロ)クセナキス歿後10周年・全鍵盤作品演奏会。「ヘルマ」「エヴリアリ」「コンボイ」他、9作品を作曲年順にどっぷりクセナキス漬けの一夜。峻厳苛辣、無機的な音響の連続から柔らかく豊かな詩情が立ち上る。「コンボイ」(パーカッションに神田佳子)が楽しい。電気増幅されたモダン・チェンバロは爆音で鳴るのかと思ってたらぜんぜんそうではなくむしろ控え目。
●この演奏会は POC (Portraits of Composers)と名づけられたシリーズの一つで、この後、10/22(土)リゲティ全鍵盤曲、11/23(祝)ブーレーズ全ピアノ曲、12/23(祝)韓国人作曲家特集、1/29(日)シュトックハウゼン クラヴィア曲I~XIと続く。戦後前衛音楽の大家を一網打尽にするかのようなラインナップ。現代音楽の古典。いや、年中繰り返し演奏されるから古典って言われるわけで、そういう意味ではいまだ古典化プロセスの最中なのかも。シリーズ詳細はこちらへ。
●Jリーグはマリノスvs仙台戦をテレビ中継で。久々の優勝争い、前節ガンバに引き分けた時点で一歩後退したのは事実だが、まだ試合数はそれなりにある。この仙台戦、お互いに守備の強いチーム同士なので1点勝負になるだろう……と予想してたら、開始早々にマリノスが先制、浮かれていたらあっという間に2失点。前半12分の時点で1-2で逆転されているというわけのわからない失点合戦に。
●まあ、そのまま負けたのだが。柳沢は天敵なのか。失点はどちらも崩されたわけではなく、守備の油断を突かれたという気がする。仙台はアウェイなのにラインを思い切り高く取って、コンパクトに戦った。あの勇気と志の高さにも完敗。終盤、ウチは2点差でキム・クナンを入れてハイボールを放り込んでいたというのに。
●その後、ガンバ大阪は甲府相手にまさかの敗北(ハーフナー・マイク!)、さらに柏が大宮相手にこれまたまさかの不覚を取って、順位表を確かめると首位ガンバとの勝点差は3のまま(間に名古屋に入ってこられたが)。数字上、可能性は先週よりも一段下がったが、まだ優勝争いには踏みとどまっている。で、来週はアウェイ新潟戦となるのであるが、都合よくも(?)このタイミングでFM PORT「クラシックホワイエ」番組収録が新潟で予定されているという事実。こんなお互いに大変な状況でぶつかってしまうとは……。
てるてる坊主に未来はない
●予報通り、台風は東京にもやってきた。上陸してから弱まることもなく猛威をふるい、午後からは外に出るのもためらわれるほどの猛烈な強風に。そして電車は予想外にあっさりと止まってしまった。いつもなら簡単には止まらないような路線も今回は持ちこたえられなかった。しかも地下鉄までほとんど止まるとは。強風でも地下区間だけなら動きそうなものだが、どうやら駅に人があふれてしまったらしい。JRや私鉄が止まって人が集中したためもあるだろうし、午後になって早めに帰宅しようとする人々がいっせいに押し寄せたこともあるんだろう。大きな駅では入場制限もあった。ホームに人があふれるのは怖い。
●この台風に加えて、夜には久しぶりに緊急地震速報のあの音を聞いた。茨城県北部が震源で最大震度が5弱。今年の日本の天災の続き方は異常だと感じる。しかし「異常だと感じる」という人間感情を、自然法則は一切斟酌しない。因果関係のあるものはあるし、ないものはない。存在するものは存在するし、存在しないものは存在しない。人の畏れとも祈りとも願望とも声の大きさともまったく無関係なメカニズムによって、熱帯低気圧が発生したり地殻変動が起きたりする。
●自然の光景の美しさに魅了されるのは、それが恐ろしいから。その美の源泉は無慈悲さにあるんだと思う。
台風圏内、優勝圏内
●今度は台風とは。名古屋とその近郊だけでも100万人以上に避難勧告が出たと聞いて驚く。この後、東京のほうにも来るのか?
●と、台風を気にしながらオペラシティのオーケストラ・アンサンブル金沢公演へ。前半に井上道義指揮でモーツァルトの交響曲第25番、後半はロルフ・ベック指揮でシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団と共演してモーツァルトのミサ曲ハ短調という、嵐の夜を予告するようなドラマティックなプログラム。ミサ曲ハ短調、久しぶりに聴いて圧倒される。会場もよく沸いていた。
●この曲と、これを転用して作ったカンタータ「悔悟するダヴィデ」K469の関係がわからなくなってよく混乱する。たぶん先に「悔悟するダヴィデ」を知ったからかもしれないんだけど、ミサ曲ハ短調の「グロリア」のおしまい Cum Sancto Spiritu で曲が終わったような気になる。「クレド」がはじまって「あれ?」とか。
●週末のJリーグ、注目のマリノスvsガンバ大阪戦はドロー。勝点3差のままだが、柏が勝利したため順位は3位に下がった。ガンバ大阪、柏、マリノス、名古屋までが優勝圏内か。客観的に見ればこのドローでマリノスの優勝確率はまちがいなく下がったんだが、それでも「負けなくてよかった」と安堵した気分もあり。優勝争いをしているという現実だけでも、ご飯三杯はいけそうなので。
ラ・ロック・ダンテロン・ピアノ・フェスティバル落ち穂拾い その2
●ラ・ロック・ダンテロンでは昼にリハーサルが始まる前に、ステージ上に何台かグランドピアノが運ばれて、ピアニストが1台を選ぶ。写真はケフェレック。スタインウェイ2台とベヒシュタイン2台が置いてあって、ケフェレックはすごーく入念に弾き比べて、結局ベヒシュタインの1台を選んだ。
●毎日こんなことをやるわけだから、しょっちゅうステージにピアノを出し入れしなくてはならない。ステージといっても野外なので、裏手はそのまま外に通じていてなにもない。この裏側からそのままピアノを搬入するわけだが、どうやるとかいうと、農業用のトラクターに乗せて運ぶ。
●なるほど、この小村でもトラクターならいくらでもありそうだ。ピアノを乗せる台はステージの高さとぴたりと一致していて、スムーズに出し入れできるようになっている(トラクターの都合に合わせてステージを設計したんじゃないかと思うほどだ)。ピアノにかぶさっているカバーには PIANOMOBIL と書いてある。若い兄ちゃんがさくさくピアノを運ぶ。
●会場の端にラジオ・フランスのプレハブみたいなブースとクルマがあった。ここで中継しているのかー。クルマにネットラジオでおなじみのロゴが並んでいて、すごくカッコいい。実際にはNHKのロゴくらいありふれたものなんだろうけど、これに乗せてもらったら気分いいだろうなと思う。
ラ・ロック・ダンテロン・ピアノ・フェスティバル落ち穂拾い その1
●東京に真夏が戻ってきたから、というわけでもないのだが、8月のラ・ロック・ダンテロン・ピアノ・フェスティバル落ち穂拾い。細かい話はどこにも書く機会がなかったので。
●南仏の小村に忽然とあらわれる野外劇場にお客さんがびっしりと入るのだが、見ての通り屋根はステージ部分にしかない。じゃあ、もし雨が降ったらどうなるのか?
●聞いたところでは、全席分のレインコートが用意してあるらしい。ただ、実際に使用する機会はほとんどなくて、この10年で2、3回とか、それくらいしか出番がなかったんだとか。雨が降らないことよりも、そんなに降らないのにレインコートが全員分あるという用意周到さに驚いた。ホントかなあ? 日本だったらわかるけど……。
●その話を聞いて飛行機の緊急用酸素マスクを思い出した。非常時には自動的に各席に垂れ下がるっていうんだけど、あれもいつも本当に出てくるのか、つい疑ってしまう。実際にあれが出てくる場面になったら、もう酸素があるかどうかなんてどうでもいいくらい絶望してそうな気もするし、だったら別に少しくらい故障して出てこなくても大差ないんじゃないのとか、世界中の整備係の人のなかにはいいかげんに考える人もいそうなものだが、実際のところどうなんでしょ。でもそんなことを知る状況には追い込まれたくないぞ。
●スタジアムでレインコート着るってのは、サッカーファンにはおなじみの作法すね。
「殺す」(J.G.バラード著)
●文庫に落ちたのを機に読んでみた、J.G.バラードの「殺す」(創元SF文庫)。長篇というよりはやや長めの中篇くらい。ロンドン郊外の高級住宅地の一角で32人の大人全員が殺され、13人の子供が消えたという物語で、もちろんミステリではなく、バラードお得意のテーマがここでも繰り返される。裕福な成功者たちは安全を求めて自らすすんで都市の中で孤絶し、そこはある種の狂気の温床となる……。
●でもこれ、鬼才バラードとしてはほとんど失敗作じゃないかな。これ以前に「ハイ・ライズ」で、これ以後には「コカイン・ナイト」で同種のテーマではるかにすぐれた作品を書いている。この「殺す」の薄さは物語的な短さゆえに薄くなったのではなく、テーマを長篇に膨らませる際に必要な書くための体力みたいなものが一時的に減退していたんじゃないかって気がする。肉付けが足りず梗概を読まされているような気になるところも。しかしじゃあつまらないかというと、そんなことはなくて、J.G.バラードならではの暗鬱な読書の楽しみは確保されている。
●バラードはこれの前作「奇跡の大河」が大傑作だった。アフリカの奥地で医師が自ら作り出した川を源流へと遡りながら、川を「殺そう」とする話。と書いて気づいたんだが、ワタシは川を旅する話に弱い。バルガス=リョサの「緑の家」も川小説だし、フィリップ・ホセ・ファーマーの「果てしなき河よ我を誘え」のリバーワールド・シリーズもそう。映画「地獄の黙示録」が好きなのも、川を旅するから。海より川にロマンを感じる。知らない街に流れ着くみたいなところが。
映画「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」
●試写で映画「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」を見た(ミシェル・オゼ、ピーター・レイモント監督)。これは予想を覆しておもしろかった。ファン必見。
●グールドの映像ドキュメンタリーはこれまでにいくつも制作されている。グールド本もいまだに刊行され続けている。今さらグールドを神話的存在として崇める映像を作ってもまったく新味がないし、かといって「神話の多くは誇張と自己演出でした」と見せるだけでは映画にならない。だからあまり期待していなかったんだけど(実際、グールドを知らない人のために、映画はおなじみの伝説を繰り返すところからはじめる)、後半に入ってがぜんおもしろくなった。グールドのパートナーだった女性たち3人が全員登場するからだ。彼女たちの存在は近年活字媒体では明らかにされているが、映像として本人が出てきて話すんだから、これはもう生々しい一次資料だ。関係者の年齢からいってもここで撮っておかなかったらもうチャンスはなかった。
●一人はグールドのデビュー時代の恋人フランシス・バロー(1925-2009)。グールドが弾いていたチッカリングは、彼女が人から借りて自分の家に置いていたピアノだったんすね。グールドはこのピアノでゴルトベルク変奏曲の練習に励んだ。そして後にピアノを買い取った。この楽器、昔はグールドが子供時代から弾いていたことになってなかったっけ?
●二人目は大物だ。作曲家ルーカス・フォスの奥さんで画家のコーネリア・フォス(1933- )。グールドはルーカス・フォスに電話している内に、奥さんとも親しくなり、いつの間にかもっぱら奥さんに電話をかけるようになった。彼女はルーカス・フォスを捨て、二人の子供を連れてトロントのグールドのもとに来る。グールドは二人の子供のこともかわいがった。4人で事実上のファミリーをなしていた時期はグールドにとっても幸福な時代だったようだ。コーネリア・フォスのみならず、二人の子供たちも映像に登場して、トロント時代の思い出を涙ながらに語る。この関係はやがて壊れ、コーネリアは子供を連れてふたたびルーカス・フォスのもとに戻る。
●三人目の女性はグールド・ファンには覚えのある顔だ。写真のヒンデミットの歌曲集「マリアの生涯」でグールドと共演したソプラノ歌手ロクソラーナ・ロスラックだ(1940- )。グールドはたまたまラジオでロスラックがルーカス・フォス(!)の作品を歌うのを耳にしたことから、彼女を共演者に指名する。これがきっかけで関係が始まり、ロスラックはグールドに「家庭を教えようとした」という。
●三人の証言から描かれるグールド像は、苦悩する普通の男だ。コーネリア・フォスが夫のもとに戻った後に、彼女とよりを戻せないかともがいたりもする。苦悩の種類としてはむしろ平凡であり、禁欲的なイメージはどこにもない。そして晩年になるにしたがって、あらゆるものをコントロールしなければ気が済まない偏執に飲み込まれ、過剰に薬物を摂取する姿には悲哀すら漂う。「若い頃はインタビューにも当意即妙の答えを返していたのに、だんだん質問も回答も台本にそったものしか受け入れなくなった」という指摘が特に印象に残った。
●10月29日、渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマ他、全国順次公開。配給アップリンク、2009年カナダ、108分。
美しすぎる指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラ
●美しすぎる指揮者(って言われてるの?)メキシコ出身のアロンドラ・デ・ラ・パーラ指揮ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラの演奏会が、今晩9月13日(火)19時よりライブ配信される。演目はベートーヴェンの「英雄」他。詳細はNTT DATA CONCERT OF CONCERTS のページへ。
●「美しすぎる」ってスゴい形容句だなあ。「美人××××」だと暗に美人ではないと言ってる気がするので、ホントに美人のときは「美しすぎる」を使うんだろうか。
●次世代惹句としては「美しすぎない××××」がいいんじゃないかな。本当に美しそうな予感がするもの。
週末フットボール通信。東京でサンキュー。
●オランダVVVの吉田麻也、PSV戦でオーバーヘッドでゴール(リンク先消えてたらスマソ)。ルーニーかっ!
●今週は全然観戦できなかったのだが、マリノスはアウェイの福岡戦で辛勝し(得点は長谷川アーリアジャスール)、一方で首位だった名古屋が柏に破れたため、上位陣の順位が入れ替わり、首位にガンバ大阪、勝点3差でマリノス、および柏、さらに1差で名古屋という混戦になった。いや、まさかここに来てまだ2位に踏みとどまっているとは、マリノス。木村和司体制になって2シーズン目、功績のあった選手の多くを放出したとあって苦しいシーズンを覚悟していたのだが……。ガンバ大阪との勝点3差は小さくはないが、来週、ホームでの直接対決を残している。リーグ戦残り9試合中6試合がホームゲームというのも悪くない。うーむ。これはひょっとしてひょっとするかもしれない。日程表をよく見ておかねば。
●元マリノス、ギリシャのアリス・テッサロニキに移籍したサカティ(あるいはサンキュー坂田)こと坂田大輔が、いつの間にかFC東京の一員になっているではないか。よりによって東京とは。大熊清監督はまた「サンキュー坂田」と叫んでくれるだろうか。
3Dで見るラトル指揮ベルリン・フィル「音楽の旅」
●以前にロイヤル・オペラの3Dカルメンをご紹介したが、今度は3Dのオーケストラ・ライブだ。なんと、ラトル指揮ベルリン・フィルの3D映像が映画館で公開されるんである。ソニーのLivespireで、10月頃公開予定。2010年11月にシンガポールのエスプラネードホールで収録されたライブ映像で、曲はマーラーの交響曲第1番「巨人」とラフマニノフの「交響的舞曲」。試写会に足を運んだ。
●「でもどうしてオーケストラに3D?」という疑問はひとまず置いて、3D用のメガネをかけて見る。もう、すんごく3Dなのだ。実物よりも3D。3D映画を見たことがある方ならわかると思うけど、現実の肉眼にはあんなふうな奥行き感はない。肉眼よりももっと立体的に飛び出て見える。ステージ上の「手前」と「奥」の距離感がすごい。で、「手前」にフォーカスされたときの画像の解像度もすさまじくて、左からホルン・セクションを映すとサラ・ウィリスの腕の毛穴までくっきり見えそうな鮮明さ(笑)。いやもう、ホント、すごいんですよ。フルートのアンドレアス・ブラウの白くなったヒゲの一本一本まで識別できるっていうか、オーボエのアルブレヒト・マイヤーの髪の脱色感まで伝わるっていうか。ときどき自分が舞台に立っているかのように錯覚する。
●つまりオーケストラを「見て楽しむ」ことができる。「聴いて楽しむ」ものなのは当然だけど、そこに「見て楽しむ」の要素を発見させるのがこの3D映像。で、オーディオ一般についてよく思うんだけど、たまにどこかで本格的な高級オーディオを聴かせてもらうと、ものすごい臨場感があるじゃないすか。コンサートホールに行っても、絶対に客席でそんな音は聴くことができないよっていう音が鳴る。「生」より生々しい。「いつもこんなオーディオ装置で聴いてたら、生のコンサートホールじゃ臨場感がなくてつまらなくなってしまわないか」と心配になるくらい。じゃあ、オーディオがそうなら、ビジュアルもそうであってもいいんじゃないか、っていう発想もありうるかもしれない。3D映像で見るベルリン・フィルの臨場感は、生のコンサートホールでは体験できないわけだから。サントリーホールのP席だったら少し体験できるけど、でもそれとも違うなにかがある。浮遊できる透明人間になって、演奏中に舞台の上やら横やらを自由にふらふらして、奏者のすぐそばで演奏を眺めてる感じなんすよね。そう考えると「生より生々しい」という点で、ビジュアルでオーディオに負けないくらいのインパクトを与えうるのが、この3D映像なのかなと思った。
●でも、実際にこの映像を見てると、だんだん3Dだということを忘れてくる。演奏そのものがあまりにも強烈なので、ただただベルリン・フィルのすごさに圧倒されてしまう。映画としてはまず「巨人」のほうを純粋なライブ映像として見せて、続いて、ラフマニノフ「交響的舞曲」をシンガポールの風景画像(これは意味がよくわからない)をさしはさみながら上映する。休憩がないし(ほしかった)、「巨人」でクライマックスが来ていることもあって、後半のラフマニノフはぼんやり眺めるモードになってしまった。映画館ではこの形式だけど、パッケージで販売する際には普通のコンサート映像として(風景映像なしで)、ラフマニノフ、マーラーの順に収めるとのこと。これは納得。
情報解禁日
●TwitterとかFacebookとかSNSで変わったものはいくつもあるけど、情報の伝達速度みたいなのはすさまじいっすよね。たまに媒体やジャーナリスト向けに配布されるプレスリリースとかに「情報解禁日」っていうのがある。「○月×日△時以降に発表してください」とか。昔は紙媒体だけだったから日付だけでよかったんだろうけど、今はネット媒体もあるので時刻まで指定が必要になる。日時が決まっているのは中身が重大発表だからってことでも必ずしもなくて、主催者側が問い合わせにスムーズに対応できるようにって場合もあるだろうし、なかにはどうして解禁日の設定が必要なんだかよくわからないものもある。
●で、「じゃあ△時ジャストにSNS経由で情報流しちゃおうかな~」とか思ってネットを見ると、あれれ、もうそれニュースになってるじゃないの、解禁前なのにTwitterでフツーに話題になってるよ!的な状況がときどきある(笑)。別にどこかの媒体がフライングしたとかじゃなくて(する意味がない)、よく見たら英語の公式サイトにもう発表されてたとか、そんなことが多いような気がする。
ウズベキスタンvsニッポン@ワールドカップ2014アジア3次予選
●ウズベキスタンvsニッポン。今回の3次予選では最大の難関と思われたアウェイのウズベキスタン戦だが、やはり厳しい戦いになってしまった。ピッチ・コンディションが悪いのはお互いさま、フィジカルのコンディションでははっきりとウズベキスタンが優位。彼らの前の試合はタジキスタンでのアウェイゲームということで、この連戦で大移動がない。本来出場するはずのシリアが失格処分を受けて、タジキスタンが代わって出てきたわけだが、こんなところで効いてくるとは。
●でもそれ以上にウズベキスタンが純粋に強いんすよ。もともとフィジカルの強さがある上に、技術も組織もしっかりしていて、特に攻撃は強烈。ニッポンの両サイドをなんども破った。落ち着いていて、特に前半はミスも少なく集中していた。守備には難もあって、ニッポンもチャンスは十分作れていたのだが……。
●ニッポンは前の試合から柏木をはずして、意外にも阿部を入れてきた(なんだか久しぶりに見た気がする)。GK:川島-DF:内田、吉田、今野、駒野(→槙野)-MF:阿部(→清武)、遠藤、長谷部-FW:岡崎、香川、李(→ハーフナー・マイク)。長谷部がトップ下で、遠藤と阿部が中盤の底ということのようだが、守備力を強化したはずなのに開始早々に失点してしまう。前半8分、ゴール前で込み合った中でクリアが小さくなったところを、ジェパロフが蹴り込んで、おそらくボールが川島の死角に入った。前半のウズベキスタンはアジアの3次予選とは思えないくらいのレベルの高さ。
●ただ前半飛ばしすぎたのか、後半のかなり早い段階からお互いにラインが間延びして、好機の生まれやすい展開に。後半から阿部を下げて清武。攻めあぐねていたニッポンはさらに李→ハーフナー・マイクの交代を準備していたところで(李のボールを引き出す動きはとても効果的だったのだが)後半20分、内田のクロスに岡崎が飛び込んで地面スレスレのところから豪快なダイビングヘッド。これがキーパーの手をはじいて同点ゴール。1-1。
●ハーフナー・マイクの高さは効いていない。ウズベキスタンは高い選手を苦にしないという面もあるし、ハーフナーは高さがあっても強さが足りないので競り合いに迫力を欠くという面もある(以前から無理な体勢からファウルしがちなのが気になる)。あのヘディングを決めていれば一気に何かが起きたかもしれないのだが……。むしろ岡崎が強い。ニッポンは守備のマークの受け渡しがうまくいかない。香川もピリッとしない。相手の一対一の超ジャイアント決定機を川島が防いだ。お互い攻め合ったのでどちらが決勝点を獲ってもおかしくなかったが、そのまま勝ち点を1ずつ分け合った。
●相手のクォリティの高さ、アウェイであることを考えると悪くない結果だが、一方でタジキスタンに勝利した北朝鮮から見てもベストの結果だろう。このグループはタジキスタンが簡単に負けて3強1弱になると、最後までもつれてしまい、どうなるかわからない。ニッポンは11月にタジキスタン、北朝鮮とアウェイ2連戦があるので、ここで不覚を取ると3次予選で敗退の可能性が高まる。3次予選でこのレベルの相手と戦わなければいけなくなったのだから、アジア全体の水準が世界に近づいていると感じる。
●ちなみにニッポン代表は今回も「非公式サッカー世界王者」(UFWC)の座を防衛した(笑)。ウズベキスタンは世界王者に今回が初挑戦だった模様。次は親善試合でベトナムの世界初挑戦を受けることになる。
ゾンビと私 その20 「ゾンビの作法 もしもゾンビになったら」
●さて。ゾンビ新刊が出るというのだが、これはどうしたものだろうか。「ゾンビの作法 もしもゾンビになったら」(ジョン・オースティン著/太田出版)。これまで不定期終末連載「ゾンビと私」では、「いかにこのゾンビ化する社会のなかで、生き残るか」を探求してきたわけであるが、この本は最初の立ち位置からして違う。「本邦初となる、ゾンビのための、ゾンビとして生きていくための指南書」なんである。つまり、「人間の襲い方」とか「仲間の増やし方」とか「ゾンビ自殺のやり方」(あるの?)とか、そんなゾンビ・ライフの送り方について書かれているという。
●そこまであっさりと諦めてしまっていいんだろうか。人間性を捨て去れるものだろうか。と疑問を感じるとともに、現実問題としては「郷に入れば郷に従え」、どうせゾンビになるのが避けられないなら、せめてゾンビとして少しでも快適に生きたい(いや、死にたい)という願望が生まれても不思議ではない。そうだよな、「仲間の増やし方」とか、大切だよな。人間として生きてたって、仲間を増やすのは大変だ。どこからが仲間でどこからが仲間じゃないのかよくわからなかったりするし、なんかメンドくさいから仲間なんかいらないやと思っても、仲間がいないとなんにもできない。だからゾンビになったらなったで、やっぱり仲間が欲しくなるかもしんない。「さまよう鎧」みたいに仲間を呼んだだけで隣にホイミスライムが現れるとは限らない。ゾンビなのに仲間がいないと、その辺の銃を持ったヒトに簡単に頭をぶち抜かれるかもしれない。きっとゾンビだって孤独は辛い。大勢の仲間たちといっしょに、生き生きとした(いや、死に死にとした)ゾンビ生活を送りたい。この本はそんな人(ていうか元ヒト)のためにあるのかな、と思いつつ、果たしてこれを読んでしまって平気なのか、やはりヒトはヒトとして生きることだけを考えるべきなのではないかと激しく葛藤する。
らじってみた
●いよいよNHKのネットラジオがはじまった。名称は「NHKネットラジオ らじる★らじる」。「らじる」じゃなくて「らじる・らじる」でもなくて「らじる★らじる」。★が入るのがすばらしい。ラジオ第1、第2、NHK-FMの3種類が聞ける。ようやくNHK-FMをネットで聞けるようになったのはありがたい。ただし、日本国外からは聞けないのは残念というか、なんだか申しわけない(諸外国の放送はみんな自由に聞かせてもらってるのに、その「お返し」ができないなんて!)。
●そもそもFM放送をきれいな音質で受信するというのはなかなかハードルが高いので、ネットでノイズなしで聞けるというだけでも嬉しい。それにいまやラジオよりネットのほうが家庭での稼働率はずっと高いだろうし。
●FM PORT「クラシックホワイエ」もネットで聞けるようになってくれないかなあ。auのLISMO WAVEを使用すると聞けるのだが、これはまだ対応機種が少ないし、auのみの独自サービスだ。
●テレビと違ってラジオはいろんな距離が取れるのがいいんすよね。じっくり聞くだけじゃなくて、家事しながらとか運転しながらとかブログ更新しながらとか、すべてを占有されなくて済むので。
●「らじる★らじる」の追加など、クラシックのネットラジオと音楽配信リンクを更新した。どぞ。
ニッポンvs北朝鮮@ワールドカップ2014アジア3次予選
●ふー。やっぱりW杯予選はこうなるのか。いつもこんな大変な試合ばかりな気がする。でも、これって3次予選なんすよ? まだ最終予選じゃない。なのに北朝鮮とかウズベキスタンみたいな本大会を狙える相手と戦わなければならないとは。ワールドカップ2010以後、ニッポンは欧州トップレベルで活躍する選手も飛躍的に増えて、アジア・カップも優勝できて、「アジアで一歩抜きん出たな」という実感が確実にある。でもいざ予選となると、相手もやっぱり成長しているって感じる。
●ニッポンvs北朝鮮。GK:川島-DF:駒野、今野、吉田、内田-MF:遠藤、長谷部、柏木(→清武)-FW:香川、李忠成(→ハーフナー・マイク!!)、岡崎。うーむ、左サイドバックは長友という絶対的存在が不在となると、今でも駒野が左を務めるわけだ。トップ下は本田がケガして、久々復帰の中村憲剛もケガで、柏木。もう一歩、代表にフィットしていない印象もあり。しかしチームは完全に一つにまとまっていて、ベースの部分は磐石。遠藤、長谷部が柱。
●予選らしくお互いリスクを冒さず、前半0-0は両者プラン通り。どちらかに大きなミスがない限り、後半途中からが勝負。実際、予定通り(?)ニッポンが一方的に攻める展開になったのだが、北朝鮮の守備もギリギリのところで体を張って止めてくる。そしてキーパーのリ・ミョングが神がかり的なセーブを連発。清武、ハーフナー・マイクと攻撃の選手を入れるが、ゴールを割れない。ハーフナーの最初のシュートはバーを叩いた(あれが入っていれば、伝説の始まりだったかも……)。あまりにニッポンが攻めるので、かなり危険なカウンターのチャンスを相手にいくつも与えてしまったが、北朝鮮のミスで救われた。もうこれは勝点1になってしまうのかもと思ったが、ロスタイム4分で清武のクロスにドフリーの吉田が頭で合わせて決勝点を獲った。1-0。ニッポン代表のこういうシーンを今まで何度見ただろう?
●しかしとにかくホームなので、勝点3はどうしてもほしかった。安堵。北朝鮮は途中出場の10番がスゴい。まだ18歳のパク・クァンリョンという大型ストライカーで、バーゼルでプレイしているらしい。186cmの長身、パワーもあり、気持ちの強さも感じさせて、東アジアのスケールを超越した逸材。この試合では気迫が空回りして、意味レスな危険なタックルで一発レッドで自滅してくれたが、順調に育てば末恐ろしい。以前の北朝鮮なら才能ある選手でも成長のための環境が不足して伸び悩むことも多かったんじゃないかと思うが、18歳から普通に欧州のクラブでプレイしていればどこまで伸びるかわからない。あと、北朝鮮というチーム自体がどんどん組織的戦術的に「普通の代表チーム」に進化してきたと感じる。
●ニッポン代表は前々から近い将来の代表入りを期待していたハーフナー・マイクが、ついにデビュー。彼もまたマリノス出身(ユースから)ながら、マリノスでは才能を十分に生かせず、現在は甲府で大ブレイクしている。194cmの長身フォワードだが、足元の技術も悪くない(マリノス時代、むしろ彼の弱点はヘディングだった。笑。今はずっとたくましくなった)。広島生まれ。もちろん普通に日本語を話す。お父さんはハーフナー・ディド。Jリーグでも活躍した元ゴールキーパーで代表キーパー・コーチも務めた。親子でJリーガーなわけだ。しかもお母さんは陸上7種競技の元オランダ・チャンピオンという血筋のよさ。期待しないわけがない。若いけどもう結婚してお子さんもいる。ということは親子3代Jリーガーの可能性もあるのか!と思ったら、女の子であった。
日本初のイベントチケット保険サービス、チケットぴあ「チケットガード」
●ぴあ株式会社とチケットガード少額短期保険株式会社が、日本国内では初となる不使用チケット費用補償保険「チケットガード」のサービスを9月中旬に開始予定する(→プレスリリース)。なんと、チケットの保険だ。「チケットぴあ」での購入者を対象に、券面金額に応じて一定の保険料を払えば、一定の事由でイベントを観覧できなくなった場合に不使用のチケットの代金を支払ってもらえる(同行予定者の分も一名までOK)。
●なるほどー、確かにコンサートやオペラのチケットを何ヶ月も前から買うってのは、なかなか先の都合が読めない人にとってはリスキーだ。ぐずぐずしてると希望の席が買えないから思い切って買う、でもいざ公演日になったら忙しくてとても演奏会になんて行ってられない。よくわかる。それに……今こんなだから(?)いろんな意味でタイムリーなサービスかもしれない。例として挙がっている、20,000円のチケットに対して保険料1,440円というのも、悪くない。つまりこの例だと1/14以上の確率で行けなくなりそうなら保険料を支払う価値がある……。
●と思ったが、待て、これは保険だ。条件をしっかり読んでおこう。<保険金をお支払いする主な場合>として、以下の項目が明記されている(注釈部分は割愛、プレスリリース参照)。
・チケットを使用する方のご家族(*6)の病気・ケガによる入院(*4)・通院(*5)
・チケットを使用する本人またはご親族(*7)がイベント当日から遡って7日以内に死亡した場合
・イベント当日の交通機関の運休・遅延(2時間以上の遅延)
・チケットを使用する方が居住する住居の火災・家屋損壊等(イベント当日から遡って30日以内に罹災した場合)
・チケットを使用する方の裁判員任命
・チケットを使用する方の急な出張(宿泊を伴う国内出張、海外出張)
・チケット使用予定者に上記の事由が発生し、その同行予定者もイベントに行かなかった場合(ただし、当該事由で保険金が支払われるのは、事由が発生したチケット使用予定者1名につき、同行を予定していた方1名まで)
●というわけだ。「仕事が忙しくなったから」とか「別の用事が入ったから」なんてのは、出張と重ならない限り、対象外のように読める。電車の遅延にしても、2時間以上が条件。そして「お目当ての出演者がキャンセルしたから」なんていうのは考慮されていないっぽい。実際にサービスが始まったら、よく条件を確認しておかねば。急な出張の多い方には便利かも。
ピーター・ゼルキンのリサイタル
●しばらく演奏会的には夏のシーズンオフみたいな気分になってて、久しぶりな気がする、オペラシティでのピーター・ゼルキンのリサイタル。しかし待ち構えていたのは演奏会というよりは儀式だったかも。予定されていたシェーンベルクの3つのピアノ曲op.11が武満徹「フォー・アウェイ」に変更され、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番変イ長調と休憩後にディアベリ変奏曲。
●武満が終わった後、客席に完全な静寂が訪れて、みんなピアニストが鍵盤から手を離し膝に置くまで拍手を控える。そこまではまだ普通かもしれないんだけど、ベートーヴェンの第31番の終わりでも完璧に静まるんすよ、曲が静かに終わるわけじゃないのに! ピーター・ゼルキンが鍵盤から手を離してもまだ拍手をためらい全員そろって静けさを求める客席。どうすか、この異様なくらいに静けさ好きな東京の聴衆。そのうち東京の客席は、深い感動の表明として、拍手自体を止めるところまで先鋭化するかもしれない。いや、いったん拍手になれば大喝采、盛んなブラボーが出てたけど。ベートーヴェンの2曲とも、ベートーヴェンを聴いているというよりは、ピアニストの孤独なモノローグに耳を傾けている気分になる。スゴい。自由だ。いや不自由なのか。LFJのポゴレリチを思い出した、少しだけ。
●アンコールにバッハのゴルトベルク変奏曲からアリア。父ルドルフ・ゼルキンの有名なエピソードを連想する。あるとき、アンコールにゴルトベルク変奏曲のアリアを弾いたら、そのまま止まらなくなって変奏曲に突入して、結局最後まで全曲弾いてウルトラ長大アンコールになったというあの話。もしかしてピーターもぜんぶ弾くんじゃないのか!って、そんなことあるはずないんだけど、アリアを弾き終えたところで心の中で「次、次も行こうよ」と催促してしまった。そもそもディアベリ変奏曲だってルドルフの得意のレパートリーだし。なんなら武満に戻って「2周目」でも嬉しかった。